数えると、今から4年も前のことになりますか。ワタクシのスポーツスター XL1200Rを大阪のトランプサイクルにてフルカスタムすることになり、「だったらその過程を企画にして見せちゃおう!」と、全6回構成にて打ち合わせから完成までをまとめた特集記事 実践!フルカスタム をやったことがありました。
このメイン写真を見ているだけでも「昔の自分のスポーツスターってこんなグラフィックやったんやなぁ」と感慨にふけるばかりですが、ちょっとデータの整理をしていたところ、この企画連載中に大阪の店主より送ってもらっていながらお蔵入りした写真がゾロゾロと出てきました。そんな点数が多いわけじゃないんですが、改めて見てみると「ふむふむ」と思わされるものが多少というか多々というか見つけられたので、せっかくだからここで出しちゃおうかな、と。
こちらは 第2回 タンク加工編 の写真。現行スポーツスターの12Lフューエルタンクはマウント位置が高く、エンジンのシリンダーヘッドとの隙間が大きく開いてしまい、スタイリングを気にする方はどうしても気になってしまう箇所。で、このカスタム企画ではフューエルタンクのマウント部分を掘り、シリンダーヘッドとのあいだにできるクリアランスを埋められるマウント加工を施すことに。さらにレーシーな印象を与えるべく、キャップをエアプレーンに加工装着。外装という点で言えば、もっとも手のかかった部分でした。
上のほとんどが記事で出したものばかりですが、次の装着写真がすべてお蔵入りに(なぜか)。
ロアマウント加工、完了。見事にクリアランスが埋められております。どうしてこの写真を使わなかったのか、ギモンすぎます。当時の自分は一体何を考えていたのか。
このタンク加工編 アップ後、トランプサイクルにはタンク加工に関する問い合わせが相次いだとか。ただ、これだけの手間がかかっているわけですから、当然工賃もなかなかのもの(ぶっちゃけ、軽くフタ桁万円です)。問い合わせから実際に受注までたどり着いたのはわずか数件だったと聞きます。
さらに、このロアマウント加工はスタイリングありきのカスタムですので、ただマウントを変えるだけでは効果はありません。
ハーレーダビッドソンですから、このようにフューエルタンクからリアエンドまで、流麗なラインを保つことがカスタムのスタイリングを語るうえで重要なポイントになります。もちろんこのカスタム企画では、そのラインを形成するためにシートも薄っぺらくし(大阪の店主曰く「薄くしすぎた。ごめん」。実際、その薄さ具合については東京までの自走にて、ケツが割れそうなぐらいの痛みとともに実証されましたが)、前後ともローダウンさせてフォルムを整えました。現在は前後とも伸ばしてレーサー風にしていますが、このロアマウント加工は今の新シートとの相性も良く、遠目から見ても「本当に前後あげているの? 低く見える」といろいろな方に言われるほどの効果を発揮しています。
「こういうスタイルにしたい」という目的があってこそのカスタム。 このフルカスタム特集記事しかり、連載型コンテンツ 週刊カスタムレポート しかり、フルカスタムというものには必ずテーマ(目指すべき姿)が存在します。そういう意味では、このロアマウント加工はあくまで手段のひとつ。「こういう姿にしたいから、このカスタムを施す」ということ。この企画の際に、大阪の店主がワタクシに口が酸っぱくなるほど言い続けたのがコレでした。おかげで、ハーレーのカスタムというものがどういうことを意味しているのか、ということを知ることができたときでした。
……と、タンク加工のことを長々書いてしまいましたが、実際注目度が高かった回だったのは事実です。その一方で、店主が「ここをきちんと伝えたい」と力を入れたのが、第4回 フロントフォーク編 でした。
ハーレーオーナーになられた方が、外装以外でまず気にされるポイントのひとつがリアサスペンションではないでしょうか。人によっては「ただの棒」「バネとして機能していない」などといった辛辣なコメントをされたりしますが、よくよく考えれば身長も体重も日本人より一回り(ヘタしたら二回り)も大きなアメリカ人向けにつくられたバイクですので、その大雑把さもハーレーダビッドソンゆえか、と思うところです。
で、乗り心地を良くするためにパフォーマンスに秀でたリアサスペンションを取り入れるオーナーさんは多いのですが、フロントまわりへの手入れをしない方がほとんどだとか。実際、ワタクシも当時、店主から前後の足まわりについて話を伺うまで、ほとんど気に留めていませんでした。
と・こ・ろ・が。
フルカスタム後に乗った自分の愛車について、真っ先に感じた変化がフロントフォークの動きでした。 もちろんレースマシンまでも手掛けられる店主の手腕によるものなのですが、リア以上にフロントフォークの動きがしなやかで、ドラッグバー&4in ストレートライザーというコーナリング時の操作に気合いが必要なハンドルまわりだったにもかかわらず、以前にも増して軽快なコントロールが楽しめるようになっていました。あまりの嬉しさに、東京への帰阪途中、休憩で立ち寄ったSAから店主に電話して伝えたのを覚えています(もちろんシート具合も合わせてディスりましたが)。
今思えば当たり前のことですが、フロントフォークもリアサスペンションも、大地に設置しているタイヤと車体を支える重要な駆動部位です。「スタイリングやビジュアルこそ見どころ」のハーレーダビッドソンと言えど、土台となっているのはモーターサイクルですから、やはり気持ち良く乗れてナンボ。ここがしなやかに動いてくれることで、ストレスなくバイクライフを楽しむことができます。ところがことハーレーとなると、昔のワタクシみたいにフロントフォークのセッティングをおざなりにする方が少なくない。常日頃からハーレーオーナーと接している大阪の店主は、「この点を改めて伝えたい」と、全6回のなかでもこのフロントフォーク編に力を入れられました。それは記事の長さを見てもお分かりいただけることだと思いますし、この記事編集にたずさわったワタクシ自身、もっとも勉強になったポイントでもありました。
その記事のなかでも触れられていますが、ステムベアリングもポイントのひとつ。
下の図にも記していますが、フロントフォークを掴むトリプルツリーを支えているのが、このフレームのネック部分であります。ここにはステムベアリングが入っていて、軽快なハンドリングを生み出すための大切なパーツなのですが、ブレーキングの際にかかるG(車重から何から)を受け止める重要な部位でもあります。「バイクに乗るうえで、ここの重要性を知ってほしい」とは大阪の店主。週末や連休などに乗るのがほとんどかと思いますが、定期点検時にはこの部位について、きちんとメンテナンスしておいてほしいところです。
ちなみに二つ上の写真を見ると、ステムベアリングのカバーに小さな線が入っているのが分かるかと思います(器具で指し示しているところ)。小さなキズですが、これだけでNG。ステムベアリングが正常に動かなくなると、ハンドリングそのものがシブい感じになってきますし、軽快感は損なわれ、最悪ツーリングの際にハンドルがまわらなくなる、なんてことも起こりかねません。
左側がNGもの、右側が交換される新品。 一目瞭然ですね。 ここを新品に換えるだけで、新車のときのような軽快なハンドリングが蘇ります。
こちらはメンテ放置した結果のさびさびダストシール。 論外ですね。 ここまできたら、フロントフォークの性能を論じる以前の問題。
「ハーレーなんだから、乗り味が悪くて当然。見た目が大事!」 と言われることがありますが、近年モデルに関して言えば、手の入れ方次第でノーマル以上に気持ち良く乗れるようにすることは十分可能です。そのためには、自分の愛車の状態をきちんとチェックして、違和感を覚えたら自分で確認するか、信頼できるお店に相談する。これこそが、大切な愛車との付き合いを長くする基本中の基本であります。あのフルカスタム記事を手がけたことで、世の正規ディーラー店やカスタムショップがどんなことを考えて日々のお仕事に臨まれているか、そしてカスタムとはなんぞや、モーターサイクルに乗ることの表と裏……など、いろんなことを一気に学べたと思います。そして、この記事がそうした側面を少しでもお伝えできていたら、これほど幸いなことはありません。楽しく読んでいただき、「今度の週末、ちょっとメンテナンスチェックしてあげよう」と思っていただけたなら、いち編集者としてとても嬉しいです。