こんにちは、ライターの田中宏亮です。本日は埼玉・所沢の「BURN! H-D SPORTS」にお邪魔しています。こちらBURN!はハーレー専門のメンテナンス&チューニングショップで、アメリカのチューニングパーツメーカー「Zippers(ジッパーズ)」が手がけるチューニング機器「サンダーマックス」を取り扱う日本で唯一の公認ディーラーなのです。
訪問の理由は、もちろんサンダーマックスによるフューエルインジェクションチューニング(EFIチューニング)のため。大阪のカスタムショップ「トランプサイクル」に手がけてもらった僕の愛車「2008年式 スポーツスター XL1200R」はすべての現行ハーレーと同じく電子制御スロットル搭載モデルで、インジェクションチューンはかねてからの課題でした。
念願かなってBURN!でのチューニングをはたしたマシンと僕。今回、進化を遂げたばかりの「サンダーマックス」に関するお話と、その前に「どうしてインジェクションチューニングが必要なの?」という疑問について改めてご説明していこうと思います。
現行ハーレーのシート下などにこの四角いECMが備わっている。
現在のハーレーダビッドソンモデルは、ストリート750からツーリングモデル、CVO、トライクに到るまですべて「ECM」と呼ばれるコンピューターを頭脳に持つ「電子制御スロットル」搭載モデルです。そう、エンジンのセッティングはこのECMによってコントロールされているのです。
つまり、このECMのセッティングひとつでマシンの味付けを変えられるわけです。
日本で販売されているハーレーダビッドソンは(一部を除いて)アメリカで製造されたメイドインUSAのバイク。しかしながら、アメリカと日本では「排ガス規制値」が異なるため、アメリカ本土ではその性能を発揮するセッティングがECMに施されているのに、日本の厳しい排ガス規制値に合わせてかなりセーブされたセッティングで輸入 & 販売されているという実情があります。
そう、ハーレーの正規ディーラーで販売されている状態の各モデルは、その性能を最大限に活かした仕様ではないのです。だからこそ、なるべく早い段階でマシンの性能を引き出すセッティングにしてやることが好ましいと言えます。
「これがベスト!って数値を入力するだけのカンタンで安いチューニング方法があるけど、これじゃダメなの?」
と聞かれることがあります。決してダメではありません、ただし、かなり大雑把な味付けだと言わざるを得ないでしょう。
というのも、人間が手がけた乗り物なので、たとえ製造物とはいえ当然ながら「個体差」があります。マシンの組み付けそのものはもちろん、生まれた工場や運ばれてくるまでの過程、販売される店舗環境などなど、気温や湿度の違いが同じモデル名のバイクにも微細な違いを与えます。
実際にシャーシダイナモで数値を測りながらマシンを走らせ、その特徴を把握したうえで、オーナーの遊び方にふさわしいセッティングへと導いてやる、これがインジェクションチューニング本来の目的。そういう意味では、チューナーの役割は調律師であり、EFI以前のキャブレターモデルでは到達できなかった領域までたどり着かせてくれるのがインジェクションチューニングです。
だからこそ、チューナーの選び方が大事になってくるのです。
インジェクションチューニングは、大きく分けて2つのタイプに分かれます。ひとつは、ノーマルモデルに備わるECM本体はそのままに、なかのデータを書き換える「サブコン」という手法。そしてもうひとつは、ECMという頭脳そのものを別注のECMに載せ替えてしまう「フルコン」という手法です。
今回選んだサンダーマックスは、後者のフルコンにあたります。「ハーレー本社が手がけているだけあって、ノーマルのECMの精度はかなり高い。ノーマルECMをそのまま利用するサブコンにしては」と、全幅の信頼を置く方よりアドバイスをいただいたのですが、私の生活圏である関東圏で信頼できるチューナーは?と考えたとき、まっさきに頭に浮かんだのが、このBURN! H-D SPORTSの奥川 潔さんでした。
BURN!の代表にして、かつて日本で開催されていたスポーツスターのレース「スポーツスターカップ」で何度も表彰台にあがった御仁です。そしてサンダーマックスを生んだ米Zippersが認める日本唯一のサンダーマックス正規販売店の責任者。スポーツライドを追求したい僕にとって、これ以上ない存在だと言えましょう。
ハーレーダビッドソンの楽しみ方は千差万別。僕のようなスポーツライドではなく、「快適なツーリングを楽しみたい」「もっとシティユースで力を発揮できるようにしたい」と、好みはオーナーそれぞれ。その好み次第で、チューニング機器や手法、そしてチューナー選びが変わってくることでしょう。もし僕が大阪に住んでいたら、カスタムを委ねているトランプサイクルに任せていたことは間違いありません(トランプサイクルもインジェクションチューニングを手がけているからです)。今の生活圏を軸に、自分の好みに合うチューナーが奥川さんだった、というのがサンダーマックスを選んだ僕の理由です。
早速サンダーマックスを搭載して……の前に、まずはバイクの点検から。エンジンや吸排気系、駆動部分全般と、細かいところまでしっかりチェックしていきます。それもそのはず、たとえBURN!まで自走で来れたからといっても、シャーシダイナモに載せてからチェックする領域は日常生活をはるかに超える速度域。マシンに不具合があればトラブルのもととなってしまいますからね。
奥川さんのOKが出たら、いよいよシャーシダイナモへ。修羅場をくぐり抜けてきたライダーによる最終チェックのうえ、インジェクションチューニング前の状態を数値化していきます。そして、いよいよサンダーマックスを搭載し、元の状態から理想とする状態へ、マッピングデータを書き換えていってやるのです。
「ほぼ1日かかるからね。そのつもりで来てね」
と、あらかじめ言われていましたが、開店時間である朝10時にお伺いし、すべての作業が終わったのは午後3時でした。その間、ほぼずっと僕のバイクにつきっきり。高い集中力でバイクの性質を探りながらベストなセッティングになるよう調律しているさまを見て、改めてインジェクションチューニングの奥深さを思い知らされたようです。
「サンダーマックスは一度大きくバージョンアップしたんだよ。あれは確か2011年だったかな。『WAVE TUNE(ウェーブチューン)』というシステムが組み込まれるようになったんだ」
そう語る奥川さん。『WAVE TUNE』とは、これまでチューナーによる手入力でマッピングされていたデータをコンピューターが自動補正していくシステムのこと。
言葉で説明するよりも、実際の動きを動画で見ていただいた方がわかりやすいかと思います。こちらのZippers公式動画をご覧ください。
▼サンダーマックス WAVE TUNE 動画(37秒あたりから始まります)
「非常に精度が高い」と奥川さんも太鼓判を押すこの『WAVE TUNE』が搭載されたことにより、チューナーの作業工賃を抑えられるようになったうえ、オーナーへのヒアリングと方向性を煮詰める時間をしっかり持てるようになったと言います。
「最新モデルのミルウォーキーエイトにも乗ったんだけど、あれはインジェクションチューニングの必要性を感じないほどの性能を見せつけてくるね。実際のところ、不要だと思うよ。
それよりも、2000年後期から近年までのインジェクションモデルはチューニングが必要だよね。排ガス規制値の違いは致し方ないものだけど、せっかくハーレーダビッドソンに乗っているんだから、そのモデル本来の力をしっかり味わってほしい。チューニングされていないものとされたもの、それぞれで乗り比べたら違いは歴然だからね」
確かに、僕は以前ここBURN!でしっかりとチューニングされた試乗車に乗らせていただき、そのライドフィールに驚きと感動を覚えたものです。”ハーレーらしさ”の定義は人それぞれですが、インジェクション仕様である近年のハーレーに乗ることを前提とするなら、アメリカ本土と同じか、もしくはそれ以上の状態まで引き上げてやったうえでハーレーライドを楽しんでほしいと思います。
BURN!に依頼するずっと前から思っていました。チューニングをしたら、「なんでもっと早くチューニングをしなかったんだろう」と。そういう意味では想定内。しかし実際のライドフィールは想定外、いや想定以上でした。
以前はかなり濃くガスが噴出される設定になっていまして、結果的に「まるで蹴飛ばされるかのような挙動」のマシンを飼い慣らしていました。
サンダーマックスによるインジェクションチューニングによって、そうした蹴っ飛ばされるような乱暴な挙動は鳴りを潜め、低速域・高速域のいずれにおいても過不足ない加速感でスピードを楽しませてくれるマシンへと進化していたのです。最初は若干物足りなさがありましたが、慣れてくるとバランスのとれたスピードでコーナーを緩やかに曲がっていけることに感動を覚えたり。いやー、本当になんでもっと早くやらなかったんだろう。
フルコンか、サブコンか。どんなチューナーを選ぶのか。その基準となるのは、ほかならないオーナー自身の好みです。今手にしたハーレーで、どう遊びたいのか。ツーリング、ストリート、ワインディング、ストレートラン、レース……。それによって選ぶべきものが決まってくるのだと思わされました。
バイク選びは、店選びから。それと同じく、自分のハーレーライフに合ったインジェクションチューニング方法を選ぶことが大事なんですね。