ハーレーのプロが指南する是非ものチェックポイント
ステムベアリングのグリスアップとフリクション調整で
スムーズなハンドリングを実現
ほとんどのライダーは意識していないが、バイクが真っすぐ走るにはごくわずかな惰角で小刻みなハンドル操作を行っている。そしてハンドルがスムーズに切れるためには、ステムベアリングの定期的なコンディションチェックとグリスアップが必要となる。
ハンドルの切れ具合を確かめながら
綿密にグリスアップをはかる
この年式のスポーツスターのステアリングステムベアリングは、ホイールと同じくテーパーローラーベアリングが組み込まれている。サービスマニュアルには24ヶ月ごと、あるいは1万6000kmごとのメンテナンスが指示されているが、スポーツスターのステアリングヘッドにはグリスニップルが装備されている。グリスガンから新しいグリスを注入し、ステアリングヘッドの上下から古いグリスが押し出されればグリスアップは完了。しかし今回は、ベアリングのチェックも行うため、トップブリッジとロアブラケットを外して作業する。
オサダスタンドでフロントタイヤを持ち上げて、前輪とフロントフォークを取り外し、続いてフォークステムボルトを緩めてトップブリッジを取り外す。国産車ではこの後、ステアリングステムを保持するステムナットを緩めるのだが、スポーツスターにはステムナットがない。つまりトップブリッジを外すだけで、ロアブラケットが“ズコッ”と抜けてしまうのだ。突然の落下を防ぐには、あらかじめハンドルを右に切っておくと良い。
新車から11年を経過しているものの、4000kmしか走行していないため、ベアリングを確認するとグリスがたっぷり付着して水分の混入はなく、上下ベアリングのアウターレースに気になる打痕もなく、コンディションは良好だった。打痕やサビがあれば、ハンドルを左右に切ったときに引っかかってスムーズに曲がらないという症状が現れることが多い。
ステムの復元作業で重要なのは、トップブリッジを組み込んだ後のフォークステムボルトの締め付け具合。ステムナットを持たないスポーツスターは、このボルトの締め付けトルク次第でハンドリングの重さが変化し、ベアリングの耐久性にも影響する。そして、その調整方法は独特かつユニークである。
詳しくは下の作業写真で解説するが、前輪を浮かせたフロント周りが自重で倒れ始める(ハンドルが切れる)位置を見て、締め付けるトルクを決めるのだ。何とも原始的でアバウトに思える調整方法だが、ステムボルトを1/16、1/32回転締めたり緩めたりするだけで、ハンドルが切れ始める位置が変化する。
そもそもベアリングにダメージがなくグリスも生きていたため、グリスアップによって劇的な改善が認められたというわけではないが、安心して載り続けるためには重要なメンテ作業と言える。
そこで、車体に取り付けたホイールの遊びをチェックする。タイヤを浮かせて直径方向の2カ所を支えて、静かに揺すってみる。この時「カクッ」という動きが感じられたら、遊びが大きい証拠。左右のベアリング内側にはスペーサー部にごく薄いシムが複数枚あって、これを減らすと隙間が詰まり、遊びが小さくなる。逆に、遊びが小さい時はタイヤが軽く回転しないので、アウターレースの打痕や水分混入による腐食をチェックし、ベアリングが使用可能ならシムを追加して適正な遊びを確保する。
前輪を浮かすことで、普段は気付かない不具合が分かることもある。事故ではなくとも、大きな衝撃を受けているとハンドルを左右に切ったときに引っかかりを感じたりする。
前輪とフロントフェンダーを外したら、トップブリッジとロアブラケット側面のクランプボルトを緩めてフロントフォークを抜き取る。フォークオイルの交換作業は今後紹介しよう。
オサダスタンドはここでも大活躍。スタンド幅が広いため、安定感は抜群。ここでは補助的に2連パンタジャッキを併用しているが、スタンドだけでも大丈夫。メンテ好きには必携である。
本文でも触れたが、このフォークステムボルトを外して、ステムシャフトのクランプスクリューを緩めるとロアブラケットが抜けてしまうから、あらかじめハンドルを右にロックしておく。
ていねいに作業するならメーターやヘッドライト、ハンドルを外しても良いが、一切のパーツを付けたままでもトップブリッジは外せる。タンクを傷つけないよう、カバーするか外しておく。
見ての通り、トップブリッジを外すとステムナットはなく、ステムシャフトがフリーで抜ける状態となる。ダストシールドを外した下のインナーレースには、十分な量のグリスが確認できる。
ロアブラケットを抜いて、ステアリングヘッドに入ったベアリングを外す。アウターレースはステアリングヘッドに圧入されていて外れないが、表面の打痕やキズを確認、洗浄しておく。
ステアリングヘッドのグリスニップルを用いたグリスアップは行われていなかったようで、ステムシャフトは比較的ドライな状態。ベアリングに付着した古いグリスはしっかり洗い流す。
05の作業で外したハンドル周りのパーツがすべて付いたトップブリッジは、写真のようにぶら下がった状態。ブリーザー穴からブレーキフルードが漏れる可能性があるので、できれば上下方向は正しくする。
ホイールベアリングと同じくここでもニューテック製マルチパーパスグリスNC-100を使用する。一般的なグリスより滑らかな印象で、狭い部分にもスムーズに行き渡る。
アウターレースにダメージがあると、ほんの小さな打痕でもハンドリングに違和感が出るから、全周に渡ってチェックしよう。もしレースを交換する際は、専用の着脱ツールが必要となる。
手のひらに絞り出したグリスにインナーレースを押し付ける。このとき、リテーナー径の大きな側でグリスをこするようにすると、均等に行き渡る。とはいえ、こってり盛り付ける必要はない。
ステムシャフトに圧入された下側のベアリングは、リテーナーの外側からグリスを押し込みつつ回転させ、ローラーの奥のインナーレース面にも行き渡らせておく。
洗浄が済んだアウターレースにグリスを塗布する。ベアリングのグリスアップの際に、親の敵のようにてんこ盛りにする人もいるが、均等なグリス膜ができていれば十分だ。
ステアリングヘッドにロアブラケットを差し込み、ステムシャフトに上側のインナーレースをセットする。ロアブラケットが落ちないよう、ハンドルを右に切った状態にしておく。
ハンドル周りのパーツが付いたトップブリッジをステムシャフトに差し込み、フォークステムボルトでロアブラケットを引っ張り上げる。その後、フロントフォークや前輪を復元する。
フォークステムボルトの締め付け具合を調整するため、足場管の上にスケールを置いて測定装置を製作する。ハンドルをわずかに切ったときに、自重によって傾き始める位置を測定するのだ。
フェンダー先端にマスキングテープを貼って、中央に印を付ける。先に置いたスケールの、切りの良い場所にこの印を合わせる。まったくもってアナログな方法だが、これがサービスマニュアル流だ。
前輪を軽く叩いて、中心から25~50mmの間で自動的に動き始めるように調整する。フォークステムボルトをわずかにいじることで、動き始めの数値が結構変わるので、調整はシビアだ。
順序は逆になるが、この調整を行うときにはクラッチケーブルやフロントブレーキなど、ハンドルの動きの妨げになるパーツを外しておく。そして調整が終わったら、確実に復元しておこう。
前ページで前輪ベアリングの調整とグリスアップを行い、ステムベアリングの点検も実施して前周りのメンテはOK。次は後輪ベアリングとスイングアームピボットのグリスアップだ