5回目となる今回のテーマはサスペンション。ハーレーでサスペンション交換と言うと、ローダウンで見た目をよくするために行われることが多いが、前後サスペンションはハンドリングに大きな影響を及ぼす機能パーツだ。特にハーレーの中でもスポーツスターは軽快さが売りのモデル。そのため、スポーツ性能を上げるためにサスペンション交換をする人も多いだろう。そこでサスペンションをカスタムする時の注意点についてお話することにしよう。
まずはサスペンションの基本的な機能をご紹介しよう。サスペンションに求められている役割とは
1、路面からの衝撃を吸収する
2、車体を支える
3、車両姿勢を変化させる
主にこの3点だ。一般公道には路面の凸凹があり、そこを通過するときに車体には路面からの衝撃が伝わってくる。これをしなやかに吸収する役割を担っているのがサスペンションなのだ(タイヤやスポークなども同じ役割を持つ)。また、サスペンションは車体と乗り手の重さを支える役割も担っている。サスペンションを通じて、前後のタイヤに重量がかかるのだ。さらにこの重さ(荷重)をコントロールすることはスムーズなライディングに繋がる。前後タイヤに荷重をかけてタイヤのグリップをよくしたり、重心を移動させたりすることで車体姿勢を変化させるなど、サスペンションはライディングのしやすさに直結する重要なパーツなのだ。エンジンやキャブレター、マフラーなどをカスタマイズしなくても、一見地味なサスペンションを交換することで乗り味を大きく変えることができ、これもサスペンション交換の醍醐味の1つだ。
次にスポーツスターに採用されるサスペンション形状について。ノーマルにはシンプルな外観のサスペンションが採用されているが、2003年モデルまではXL1200Sのみにリザーバータンク付のサスペンションが採用されていた。リザーバータンクがついていないサスペンションも、基本的な構造は同じだが、リザーバータンクのあるサスペンションの方がオイルの冷却性や泡の立ちにくさ、サスペンション内に収められるオイル量の点で機能的には優れている。
ちなみに、ノーマルサスペンションの長さは11.5インチ~13インチの間で複数のラインナップがある。XL883CやXL883L、XL1200C、XL1200Lなど車高の低さをウリにするモデルは11.5インチ、XL883やXL1200Rのようなスタンダードモデルは13インチが採用されている。2世代以上前のエンジンを搭載するショベルヘッドスポーツスターでは14インチがノーマルで採用されていたこともあるが、足付き性などを考慮に入れた結果だろうか、現在は日本人の体格に合ったサスペンションが標準となっている。スプリングは長いほど衝撃を吸収する余裕があり、姿勢変化の自由度も高いので、スポーツ走行に向いている。あまりに短すぎるサスペンションだと、ちょっとした凸凹を踏んだだけでもサスペンションが底づきしてしまう可能性があるため注意が必要だ。スポーツスター用のサスペンションでもっとも短いものだと、11インチのサスペンションも市販されているもが、リジッドに近い乗り味になってしまうため、このサイズを選ぶ際は乗り味が犠牲になる覚悟をしておいた方がいいだろう。ちなみに、ノーマルより長いサスペンションに交換し、スポーツ性能を向上させるカスタムもあるが、14.25インチを超える長さにするためにはベルトドライブをチェーンドライブ化する必要が出てくるので、こちらも注意して欲しい。
サスペンションの機能やモデルによる仕様の違いについてはわかっていただけたかと思う。そこで、この章では代表的なリプレイスサスペンションのメーカーをご紹介しよう。各社ともサスペンションの長さやスプリングカラー、本体の材質などで複数のラインナップを用意しており、その選択肢は予想以上に多い。そこで、サスペンション交換の際は現在使用しているサスペンションの長さや特徴を知り、それよりも「長いものか短いものか」どちらを選ぶのか、「スプリングのカラーは何色がいいか」、「どんな道を走り、どんな走り方をしたいのか」をショップに相談するといいだろう。スポーツ走行を頻繁に行うのであれば、車高を上げて高機能なリザーバータンク付きのサスペンションを選ぶのもいいが、街乗りが中心でスピードもそれほど出さないのであれば、高機能過ぎるものは宝の持ち腐れとなる。
レースなどで高い実績を残し、リプレイスサスペンションでも高い評判を得ているスウェーデンの高機能サスペンションメーカー。スポーツスターで人気なのはリザーバータンク無しのS36Eシリーズ。360mm(約14.25インチ)、336mm(約13.25インチ)、296mm(約11.75インチ)の3種類のラインナップがある。
オーリンズと双璧を成すオランダのサスペンションメーカー。ハーレーの世界では一時に比べるとオーリンズに押され気味ではあるが、そのサスペンション性能は折り紙つき。11.5インチから、チェーン化必須の15インチまでラインナップが豊富なのは魅力的。日本ではWMが輸入代理店を務める。
不等ピッチのサスペンション構造をいち早く取り入れたアメリカのサスペンションメーカー。豊富なラインナップの中には手頃な価格のモノもあり、ハーレーの世界では絶大な人気を誇る。クロームやブラック、フルカバードなどカラーリングやスタイルの豊富さが注目されがちだが、高機能なモデルもアリ。
アメリカのロードレースやダートトラックレースなどで実績を残しているサスペンションメーカー。耐久性が高く、値段も手ごろなスティールトラッカーズやオールビレットボディのアルミトラッカーズが人気。オーダーの際に上下のスプリングカラーの組み合わせが選択できるのも個性を演出できるポイント。
90年代にスポーツスターやSRのカスタムで人気が高かったKONIブランドのサスペンションの復刻モデル。4~5万円台と手頃な価格ながら純正以上にしっかりとしたコシがあり、PROGRESSIVEと並び、スポーツスターカスタムでは定番のサスペンション。モーターステージが輸入販売を務める。
プロトが輸入販売を務めるヨーロッパ製の高機能サスペンションメーカー。ローダウンを目的としたラインナップは用意されていないが、軽量なアルミボディやフリクションの少ない構造などはスポーツ走行から街乗りまで、あらゆる走行シーンで満足の行く乗り心地が約束される。
サスペンションには減衰力(ダンパーとも呼ばれる)やプリロードを調整できるモノがあり、乗り手の体重や好みによって、調整することもできる。減衰力とは「サスペンションの無駄な動きを抑制すること。サスペンション内部を流れるオイル通路を調整することで、オイルを流れやすくしたり、流れにくくしたりして、スプリングの不要な伸び縮みを制御するのだ。現在のサスペンションにはスプリングが伸びるときと縮むとき、それぞれの減衰力を調整できる高機能なものがある。プリロードとは「あらかじめサスペンションに力をかけ、スプリング縮めておくこと」を意味する。プリロードをかけたり抜いたりすることで、ライダーの体重や荷物に合わせて車体の姿勢を正しく保つことができるのだ。プリロードを変更することでわずかながら車高の調整も可能だが、車両姿勢変化にも影響してくるため、車高のみを考えてプリロードを調整すると走行時にハンドリングが変化してしまうこともある。
ここではリアサスペンションのみを紹介してきたが、リアサスペンションを変える際はフロント側とバランスを取ることが重要。フロント側を変えずにリアを上げれば、フロントフォークが立ちスポーツ寄りの乗り味に、リアを下げればフォークが寝て直進性が強くなる。あえてフロントを変えずにそのまま、とわかっていてカスタムをする分にはいいが、フロントフォークのオイル量を調整したり、フォークスプリングを変更したりと、前後のバランスを取ることも考えてもいいだろう。フロントフォーク側の車高を落としたり、長いフロントフォークに変更したりするときも同じ。サスペンションは前後のバランスが重要なのだ。