従来から一部モデルに採用されていた「インジェクション」が、2007年よりハーレーの全車種に採用されました。お客様から「インジェクションって何?」と尋ねられることが多いので、キャブレターモデルとの違いからインジェクションモデルのメリットまで、ここでご紹介させていただきます。
バイクに限らず、自動車などガソリンで動く乗り物はすべて、ガソリンと空気を混ぜ合わせたもの(混合気)をエンジンに供給し、プラグからの火花でそれを爆発させ走る仕組みになっています。キャブレターもインジェクションも「混合気を作ってエンジンに供給する」点では同じ役割を担っています。異なっているのは混合気を作る方法、それだけです。キャブレターモデルは乗り手がスロットルのスロットル操作やエンジンの状態などに応じて、機械的な仕組みで混合気の濃さや供給量を調整しています。ハーレーに取り付けられるキャブレターを数えると何種類ものキャブレターがあり、ハーレーの100年以上の歴史の中で大きく進化を遂げてきました。しかし、燃費や車両性能の向上や近年の環境問題への注目の高さなどから、次第にインジェクションへの注目が高くなってきています。
一方で、インジェクションモデルは電子制御、要するにコンピューターによって混合気を調整しエンジンに送り込む仕組みになっています。キャブレターモデルではできなかった、あらゆる走行シーン最適な混合気を供給することが可能になる技術なのです。ちなみにハーレーの世界では「インジェクション」と呼ばれることが多いこの機構、一般的にはEFI(Electronic Fuel Injection)と呼ばれることが多いです。
もともとは超高度を飛ぶ飛行機のために開発された技術ですが、50年以上前に車の燃料制御のために採用されるようになりました。バイクの世界でインジェクションが採用されたのはやや遅かったのですが、当初大排気量モデルから始まったインジェクション化の波は広がり、現在は原付にまでインジェクションが採用されています。なお、ハーレーにインジェクションが採用されたのは、皆さんの想像よりも昔の話です。1995年にエボリューションのウルトラモデルに、インジェクションが採用されていました。エンジンがツインカムエンジンに変更された後、ソフテイルやツーリングファミリーでインジェクションが採用されはじめ、2006年からはダイナファミリーが全車種インジェクション化されました。そして2007年モデルから全モデルがインジェクションモデルとなったのです。
ハーレー社は10年の時間をかけインジェクションを熟成させ、時期が来たと判断した上でインジェクションを採用しています。ちなみに2007年モデルのインジェクションシステムは、従来のモノとは違う、まったく新しいモノを採用しており、さらに進化しています。
エンジン冷間時にも綺麗に霧化された濃い混合気をエンジンに送り、始動性がよいことが挙げられます。冬では、特に恩恵を感じることが多いと思います。キャブレターだと気温が低すぎて、綺麗に霧化された混合気が作れず、始動性の悪さを感じることがありましたから。蛇足ですが、インジェクションは『エンリッチナー』による混合気の濃さの調節も電子制御で行われるため、エンリッチナーの戻し忘れなどもありません。
次に、燃費のよさ。最適な混合気に調整し、常にエンジンに供給することができる。つまり「無駄なガソリンを使わない」メリットがあります。キャブレターモデルに比べると、燃費はいいですね。ただ、気持ちよくスロットルを回せるため、回しすぎで燃費の良さを実感できない方もいらっしゃいますけれど(笑)。ちなみに、常に最適な混合気がエンジンに送られるため、不完全燃焼を起こすことが少なくなり、プラグのカブりも少なくなりました。
最後にセッティング。低速から高速までなど、あらゆる走行シーンで最適な混合気を作ってくれるため、キャブレターのようにセッティングに悩まされることがほぼありません。キャブレターでは100%完璧なセッティングを出すことは事実上不可能で、オーナーの乗り方に合わせて個別にセッティングを合わせていたのですが…。インジェクションではそういうことはなくなりますね。
今までのインジェクションモデルでは、キャブレターモデルとは若干のフィーリングの違いを感じる方がいらっしゃいました。実際、2007年モデルのインジェクションはフィーリングが大きく進化しています。機械仕掛けのキャブレターに独特のフィーリングがあるように、インジェクションモデルにもそれはあります。ぜひ一度、試乗してみてほしいですね。どちらか言われないとキャブレター仕様かインジェクション仕様か気づかないかもしれませんよ(笑)。インジェクションモデルの場合も、エンジン内部でピストンが上下する動作はキャブレターモデルと同じですから、一般に「ハーレーらしい鼓動」と言われるロングストロークエンジンの爆発力は充分に感じられるはずです。
また、インジェクションモデルの場合、キャブレターモデルのように距離を走るにつれてセッティングがずれたり、部品の磨耗や汚れが原因でオーバーホールしたりするようなことはまずありません。機械が擦れ合って磨耗する部品もありませんから、ほぼメンテナンスフリーと言ってもよいかと思います。
スロットル操作や吸気温度、エンジン温度など各種センサーが用意されていて、そこからコンピューターが拾ってきた情報をもとにインジェクター(ガソリンを射出する装置)から射出されるガソリン量が調整されています。2007年モデルから、新たにエギゾーストパイプに「O2センサー」が装備され、排気ガスの濃度などの情報も分析するようになりました。排気ガスかららフィードバックされた情報をもとに、従来のインジェクションモデル以上に最適な吸気調整が行われ、より進化したインジェクションシステムが採用されています。
2007年モデルからハーレーには『EITMS』という機能が搭載されています。これはエンジンが一定温度(摂氏158度)に達すれば、アイドリング時のみリアシリンダーが休む機能です。信号待ちなどで停車しているとリアシリンダーが休み、単気筒になります。スロットルを捻り走り始めるとリアシリンダーが動き出し、Vツインサウンドを奏ではじめます。長時間のアイドリングでオーバーヒートするのを防止するために搭載された機能ですが、この機能は、ディーラーにあるコンピューターで設定が可能です(1回の変更のみ無料)。2007年モデルにお乗りの方は「EMSあり」、「EMSなし」を設定し試してみてください。リアシリンダーだけでアイドリングを刻むハーレーは、なかなか面白いですよ。