バイクが売れない」。何年も前から雑誌などでこの言葉を目にしてきた。この話を何となく知っている人は多いと思うが、いったいどれほどバイクが売れなくなったのだろうか。趣味としてバイクを楽しむ人が、それほど減ったのだろうか。80年代のバイクブームを知らない世代である筆者は「今でもかなりの数のバイクが街を走っているような…」と常々思っていた。そこで調べた数字が下のグラフ(日本自動車工業会調べ)だ。原付から大型二輪までを含めた数字では、販売台数はほぼ半減している。
しかし、純粋に趣味として楽しまれることが多い、軽二輪(126cc~250cc)、小型二輪(251cc~)で見るとどうなるだろうか。原付(1種、2種を含む)を趣味の乗り物として愛好している人も確かにいるが、“足”としてバイクを愛用する人を除外するために軽二輪、小型二輪に限定した数字を挙げることにする。下記は全国軽自動車協会連合会発表の、軽二輪・小型二輪の年別の新車販売データ。どちらも販売台数自体は下がっているものの、原付の販売台数の減少率と比べると排気量が高くなるにつれ、減少率の落差は穏やかになっている。小型二輪の新車販売台数のピークは1985年の14万3324台、2006年は8万2388台。バイクブーム時ほど一般メディアでバイクに関する話題が上らない現状を考えると「思いのほか健闘している」という気もするが、「バイクが売れない」というのは趣味のバイクの世界にも確かに当てはまっている。
次に紹介したいのは「今売れているバイクの多くは乗り換えで購入されている」こと。日本自動車工業会が2001年と2007年に行った調査を比較する。この調査は新車を購入したユーザーにアンケートを取り集計したものだが、「初めてバイクを購入した(=新規購入)」ユーザーに減少が見られ、乗り換えユーザーの割合が増加している。これは、新たにバイクの世界に入ってくるユーザーが減っていることを意味する。先ほど「新車の販売台数は思いのほか健闘している」と書いたが、それは既存ユーザーの買い替え、増車などに支えられているのだ。新規ユーザーが増えないと、バイク人口が徐々に減少するのは間違いない。既存ユーザーがバイクを愛し、支えていることは素晴らしいことだが、新規ユーザーをいかに獲得するのか、二輪業界の未来はここにかかっている。
最後に注目したいのは「若い人がバイクに乗らない」という話。国産アメリカンやトラッカー、ビックスクーターなど、ここ10年ほどを見ても若者に引っ張られたブームがあり、バイクに乗る若者は減っているという実感はない。この話を裏付けるデータはあるのだろうか。右グラフは日本自動車工業会の調査による「二輪車ユーザーの特性」データ。バイクを新車で購入したユーザーへ郵送によるアンケートを行ったデータだが、回答者に占める10代、20代の割合が年々減ってきている。20代は2/3、10代に至っては1/3にまで減少している。代わりに増加傾向にあるのが、40代、50代のユーザー。リターンライダーの話題がバイク雑誌や一般メディアで話題になることが多いが、この調査データを見ても年配のライダーの増加が窺える。ただし、この調査は「新車でバイクを買ったユーザー」へのアンケートのため、中古車を購入したユーザーを含めると違う結果になる可能性があることを明記しておこう。
以上のデータから「確かにバイクは売れなくなっていること」、「新たにバイクに乗り始めるユーザーの割合が減りつつあること」、「ライダーの平均年齢が上がりつつあること」が確認できた。趣味の多様化でバイク以外にも楽しいことが増えた、バイク以外にお金のかかることが多い、バイク自体に魅力がなくなりつつある、などさまざまな推測がなされ、話題に上っているが、これが現在のバイクを取り巻く状況だ。二輪業界の基本的な環境の紹介はこのくらいにしておいて、次回からはもう少しテーマを絞った二輪業界の現状を紹介することにしよう。