VIRGIN HARLEY |  高橋 奈津子(ハーレーダビッドソン横浜南)インタビュー

高橋 奈津子(ハーレーダビッドソン横浜南)

  • 掲載日/ 2010年05月24日【インタビュー】

ハーレーインタビューの画像

レディースカスタムというブームを生んだ
アイディア豊富なディーラーウーマン

神奈川県内3ヶ所でハーレー正規ディーラー3店舗を展開していたイーグルスター グループ。そのひとつ港南戸塚店で店長を勤めていた高橋奈津子さんは、2009年に生まれた女性のためのカスタムスタイル「レディースカスタム」の発案者。既成概念を打ち破るオリジナリティ溢れるアイディアにより、新しい女性ライダーを多く生み出した。そんな高橋さんとはどんな人物なのか。このインタビューを通して見えてきたのは、同じ女性ライダーとしての目線を持つナチュラルなキャラクターだった。

Character

2005年よりイーグルスター南横浜店に勤務、その後同店店長を勤め、現在イーグルスター港南戸塚店の店長に。今やハーレー界におけるカスタムスタイルのひとつとして定着しつつある「レディースカスタム」の先駆者として知られる存在。女性ならではの視点から生み出される企画や提案は高い評価を受けており、その個性に惹かれて訪れるユーザーも多い。そんな新しいブームから、2009年にはハーレーダビッドソンジャパン主催のカスタムコンテストにおいて「レディース賞」が設置され、さらにはクロームコンサルタントとして複数台数が入賞するなどの実績も。現在はハーレーダビッドソン横浜南に勤務。愛車は2008年式 FLHX ストリートグライドと2008年式 スポーツスター XL883。

高橋 奈津子/ たかはし なつこ

  • 高橋 奈津子
  • 生年月日/7月15日生まれ
  • 出身/神奈川県横須賀市/同市在住

Interview

ファーストバイクはファットボーイ
ディーラー勤務までの足跡をたどる

ー初めて乗ったバイクは何だったんでしょう。

高橋 ●最初からハーレーでした(笑)。それまで乗ったことがあると言えば、弟が乗っていたHONDA CBR400の後ろぐらいで、それも用事があったために仕方なく、といった感じです。そのときも「もう二度と乗りたくない」と思うほど怖かった覚えがあります。ところがハーレーに乗せてもらえる機会がありまして、それが全然怖くなかったんです。それからハーレーの魅力に取り憑かれ、「自分でもハーレーに乗ってみたい」と思うようになりました。ハーレーでなければ、バイクに乗ろうという風には思わなかったでしょうし、実際今でも教習車以外はハーレーにしか乗ったことがないです。ハーレー以外のバイクは考えられないほど、ハーレーが大好きです。

ー最初に選んだモデルは。

高橋 ● FLSTFファットボーイでした。どうしても100周年記念のエンブレムが付いたハーレーが欲しくて、「スポーツスターぐらいがちょうどいいかな」という想いを持ちつつ、ディーラーにお邪魔したんです。ところが来店したのが10月と、在庫車両がほとんど残っていない時期だったのでスポーツスター系モデルがありませんでした。するとお店の方が「女性でも慣れればビッグツインを乗りこなせますよ」とおっしゃられたのを受けて、思い切って展示されていた100周年モデルのFLSTFを購入しました。

ーすでに免許は持っていたんですか。

高橋 ●いえ、まだ取得していませんでした。それまでは原付バイクすら乗ったことがなかったので、ハーレーを購入してから教習所に通い出しました(笑)。普通自動二輪免許取得までは、一般の方と比較すると倍近くの金額と時間を要してしまいましたが、すでにハーレーを購入していたので諦めるわけにはいきませんでした。大型自動二輪にステップアップしてからはスムーズに進みましたね。確か大型を取得したのはクリスマスイブだったと思います。

ーちょうど寒い時期に突入するときに取得されたんですね(笑)。それからファットボーイとの蜜月が始まったんですね。

高橋 ●それが、翌年4月に転職することになり、引越しと同時にファットボーイも手放してしまったんです。

ー転職されてから新しく購入されなかったんですか。

高橋 ●ええ、しばらくバイクとは無縁の生活を送っていました。けれどハーレーを見かけたり、ハーレーの音を聞くと羨ましくて……ハーレーの雑誌は毎月買っていましたね(笑)。そのとき私は「バイクではなくて、ハーレーが好きなんだなぁ」って思いました。そうして1年ほど過ごしていたとき、とある求人広告にイーグルスター南横浜店の求人募集が掲載されているのが目に留まって、一度受けてみようかと思い問い合わせてみたんです。

ー転職するにあたり、不安はありませんでしたか。

高橋 ●それはなかったですね。ちょうどこの求人を見たとき、「自分には大型自動二輪免許という資格があり、しかもハーレーに乗っていた。これを生かせる仕事だ」とポジティブに捉えられました。

ーそうしてイーグルスターに就職、南横浜店に勤務されるようになった、と。

高橋 ●そうです。そして1年あこがれ続けたハーレーを再び入社してすぐに手に入れました。今度は15周年限定モデル・FLSTFファットボーイを購入したんです(笑)。これもかなりカスタムしました。手放すのが惜しいぐらい…。

ー限定モデルに弱いんですか(笑)。

高橋 ●そうかもしれません(笑)。実はツーリング系モデルにも惹かれていたのですが、2005年当時はどれもブラックなど男性的なカラーリングのものしかなくて、自分の好みではなかったんです。「ホワイトとかあれば乗り換えるのになぁ」と思っていました。すると2008年、パールホワイトのFLHXストリートグライドが登場して、「これだ!」と思い乗り換えました。

ー白いストリートグライドですか。特に決め手だったポイントはどこでしょう。

高橋 ●ストリートグライドを見ればお分かりになるかと思いますが、全体的にカウルで覆われているモデルで、そのカラーリングが車体の印象を強めますよね。これまでは黒や濃紺といったディープなカラーが多かったんですが、このパールホワイトは一気に可愛らしさをアップさせていました。当時はなかった可愛らしいカスタムをするうえでちょうどよかったんです。そして音楽を聴きながら走れて、サドルバッグも付いているなど、遠乗りするのにうってつけのバイクだと思いました。

ーカスタムは、もちろんH-D純正パーツのみですか。

高橋 ●ええ、正規ディーラー店勤務ですから当然です(笑)。ただ、カウル付きのパールホワイトというカラーリングを選んだ段階からカウルのイカつさを逆手に取って“可愛らしいカスタムをしたい”という想いがあって、オリジナリティを出す意味でピンストライプを入れたり、シートを張り替えたり、刺繍を施したり、スワロフスキーでのデコレーションをしたり……と、いろんな手法を取り入れてみました。

ー女性の携帯電話に見られる遊び心ですね。

高橋 ●私がイーグルスターに勤めるようになった頃、女性オーナーのほとんどがハーレーのカスタムは「男らしいダーティなスタイル」という認識でした。私もファットボーイが限定モデルだったため、外装を大きく変えるカスタムをすることができず、クロームパーツを多用してシートを換える……といった程度に留めざるを得ませんでした。でももっと女の子らしさが前面に出た可愛らしいカスタムがあっていいんじゃないか、と思っていたんです。だから自分の愛車でその想いを表現してみました。

ーそれが、後にブームを呼ぶ「レディースカスタム」構想に繋がるわけですね。

ブームを生んだレディースカスタム
これからも斬新な企画を練っていく

ー南横浜店から港南戸塚店に異動されたのはいつ頃でしょうか。

高橋 ●この港南戸塚店ができたのが2008年5月のことで、私が異動してきたのは2009年6月からです。

ー先ほど話に出た「レディースカスタム」構想は、まだ南横浜店に在籍されていたときだとか。

高橋 ●そうです。キッカケは2008年夏に晴海ふ頭で開催されたハーレーダビッドソンジャパン(以下HDJ)主催の女性ライダー向け大試乗会『レディース・デビューライド』でした。そこにカスタム車両を出展することになっていて、私のFLHXを持っていったんです。そうしたら会場で注目を集め、多くの人から「可愛いハーレー!」と声をかけてもらいました。するとその光景を見ていたHDJ販売拡張部の方から「あのカスタム車両は誰のですか」と聞かれたので、私のバイクだとお伝えしました。そして2008年9月にその方が南横浜店に来店され、「HDJプロデュースのレディースカスタムという企画を行うことにしました。そこで高橋さんに4台のハーレーをカスタムをお願いします」と申し出てこられたんです。

ーそのカスタムは、高橋さんのFLHXと同じテイストで、ということだったんですか。

高橋 ●そうです。「ああいったカスタムは前例がなくて、しかも多くの女性ユーザーが興味を示したこともあり、それで大々的に取り組むことになったのです」と。モデルはFLHXストリートグライド、FLSTNソフテイル・デラックス、FXDBダイナ・ストリートボブ、スポーツスターXL883Lの4つで、『ピンクを用いること』という制限以外はすべて自由に企画していい、ということでした。

ー期間はどのぐらいかかったのでしょう。

高橋 ●2008年9月から着手しはじめて、2009年1月よりスタートした『アメリカン・ワールド・フェスタ』(以下AWF)第1回会場である宮城・仙台にはすでに納めていたので、製作期間は4ヶ月ほどでした。カスタムパーツを選んだりするのは意外に早かったんですが、一番難しかったのはピンクというカラー制限が入ったことですね。かなり頭を悩ませた記憶があります(笑)。

ーAWFは何ヶ所か帯同されたんですか。

高橋 ●この年、ほとんどのAWFに足を運びました。仙台をはじめ、熊本や福岡、岡山など、10ヶ所以上の会場を訪れるなど、AWF行脚でした(笑)。レディースカスタムの評判は上々で、ご主人や恋人と一緒にイベントに来られた女性が「可愛い!」と見入られる場面を何度も目にしました。さらに2009年6月に催されたHDJ主催の大イベント『富士ブルースカイヘブン』でも展示され、同様に女性やお子様にとても好評でした。一番嬉しかったのは、「レディースカスタムを見て、ハーレーに乗りたいと思いました」と声をかけてもらったときです。感無量でした。

ー問い合わせも増えたんじゃないでしょうか。

高橋 ●増えましたね。実際に展示していた車両を購入してくださった方もいらっしゃいましたし、来店されていろいろお話を聞いているうちに「私はこんなカスタムにしたい」という要望をおっしゃられて、そこからカスタムプランを練ったり……というケースも多くなりました。昨年以来、レディースカスタムがさらに広がっていっているように感じています。

ー確かに昨年の登場以来、新しいブームとなった感があります。

高橋 ●これまでなかった女性のためのカスタムが、新しい火付け役となったのかもしれません。特に女性は男性と違い、「思い切りがある」ことと「妥協をしない」という2点が特徴的で、こちらが提案するカスタムプランでも「とことんやりきる!」という傾向があるので、カスタム車両にも個性がはっきり出てきますね。

ー2010年、HDJが新たな設定としたレディースカスタムにも企画を出されましたよね。

高橋 ●はい、全部で12案出しました(笑)。昨年と違い、今年は私だけでなく他の正規ディーラーにも企画への参加を要請する形式だったので、「すべてお任せだった昨年だけで終わったと思われちゃいけない!」という危機感を抱きました。「何が何でも1案は通そう!」と。

ー追われる立場としてのプレッシャーですね(笑)。

高橋 ●本当にプレッシャーでした(笑)。お陰で1案、FXSTソフテイル・スタンダードのプランを採用していただけました。本当はスポーツスターXL883Lのプランが一番気に入っていたんですが、不採用だったのは仕方ないと割り切り、他の案と合わせてショップオリジナル企画としてカスタム車両を製作、店頭に展示することにしました。

ーレディースカスタムは高橋さんの専売特許となりつつあるのでしょうか。

高橋 ●自分としては、そういう風にしたいと思っています(笑)。来店される女性の多くが「初めてバイクに乗ります」という方で、私自身もそうした経験を持っているので、ディーラーとしてよりは、「初めてのバイクがハーレー」といった同じ経験を持つ女性ライダーでの視点で提案できることを私のカラーにしていきたいと思っています。

ー新しいカスタムプランなどは考えておられるのでしょうか。

高橋 ●もちろんです。最近は若い人のバイク離れが業界で問題視されているので、20代前半の男子向けの「ボーイズカスタム」を考案中です。

ー具体的にはどんな感じですか。

高橋 ●考案中なのでまだ明かせませんが、価格的にも手が届きやすいスポーツスターをベースに、フルペイントやカウル加工、そしてオリジナルのデザインを組み込んだユニークなモデルに仕上げる予定です。

ー文字通り「ハーレーに囲まれた日常」を送られているんですね。

高橋 ●よく「ハーレーに乗るようになって、人生が変わった」という言葉を耳にしますが、私の人生はまさにそのとおりで、ハーレーとの出会いから大きく変わりました。中でもこのイーグルスターという正規ディーラーに勤められたことが大きかったです。レディースカスタムについても社長の理解があり、女性向けのイベントには惜しみなく費用を捻出してくれるなど全面的にバックアップしてくれました。

ー港南戸塚店のオリジナル企画も多数あるそうですね。

高橋 ● 女性向けのツーリングや乗り方教室、プロのカメラマンにより撮影会をやっておりまして、女性のお客様にとても喜んでいただいています。「イーグルスターで買ってよかった」と言われるたびに嬉しくなりますね。当店の女性ツーリングでは、いろんなデザインのハーレーが多数集まるので、とても華やかなんです。走っていると、とても目立つんですよ(笑)。それもすべて私がデザインした車両ばかりなので……本当に嬉しい限りですね。ディーラーの女性社員と話していて「私も高橋さんのような企画がやりたいと思っていたんです」という声を聞いて、自分はすごく恵まれた環境にいるんだと実感しました。

ーではこれからも、新しい企画や取り組みに挑戦していかれるのですね。

高橋 ●もちろんです。来店してくださる女性の要望をお聞きし、その方の個性を引き出せるようなオリジナル・ハーレーが手掛けられるよう、提案力も磨いていきたいですね。

Interviewer Column

この取材のキッカケは、文中にも出た2010年レディースカスタム企画に採用されたFXSTソフテイル・スタンダードの車両取材だった。初めてお会いしたときから「こんな女性ライダーがいるんですよ」、「こんなカスタムハーレーも手掛けているんですよ」と驚くほどの提案の嵐をいただいたのだが、そこでお会いした女性ユーザーさんに話を聞くと、みんな口を揃えて「高橋さんのようなカスタムがしたい」、「理想は高橋さんのスタイルです」と言う。今回のインタビューで、ディーラーウーマンとしてよりも、同じ体験を持つ女性オーナーの目線で提案する等身大の姿そのものに、人を惹きつける魅力があるのだと改めて感じさせられた。「バイクに乗って、バイクを楽しむ」ということに性別や年齢の差など関係ない、それぞれが思うように楽しめばいい。そんな当たり前のことを教えてもらえた取材だった。

文・写真/VIRGIN HARLEY.com 編集部 田中宏亮

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