VIRGIN HARLEY |  横山 幸司(Sidos motor company)インタビュー

横山 幸司(Sidos motor company)

  • 掲載日/ 2007年08月31日【インタビュー】

ハーレーインタビューの画像

イイ大人をもドキドキさせてしまう
ハーレー人気の理由はここにある

京都に面白いカスタムショップがある。「サイドスモーターカンパニー」というショップだ。店構えの雰囲気には堅苦しい雰囲気は皆無。カスタムショップに多い“いかにもバイカー風”な店構えでもない。ハーレーのみを取り扱う専門店にしては周りのショップにはない飄々とした雰囲気が非常に変わって見えていた。ディーラーとカスタムショップのちょうど中間の雰囲気とでも言おうか、こういったスタイルのショップは実は少ない。サイドスはなぜこのような雰囲気のショップになったのか、ショップオーナーの横山さんに、これまでのハーレーとの関わりをお聞きしつつ、インタビューを行った。

Interview

本国まで行った研修プログラム
それが人生を変えてくれた

ー横山さんがバイクに興味を持つきっかけは?

横山●高校生の頃、京都の観光地「京都タワー」でエレベーターボーイのアルバイトをやっていたことがあるんです。そのときの先輩にバイク好きがいたのがきっかけですね。高校は途中でやめてしまったので「何か手に職を…」と考えて、好きなバイクの世界に飛び込んでいきました。

ー初めて勤めたショップは、有名なヴィンテージバイクのレストアショップだったとか。

横山●有名なのかどうか、何も知らずに勤めはじめました。たまたま求人があったところがそういうお店だった、と(笑)。輸入車だけではなく、陸王やメグロなどのヴィンテージバイクの修理ばかりをする毎日でした。そんな生活に特別疑問を持つこともなく、好きなバイクを触れて満足していたのですが、SUZUKIの「カタナ」が修理に入ってきたのがきっかけに転職を考えはじめたんです。

ーというと?

横山●その当時でも、カタナは発売からかなり経ったモデルでした。それなのに採用されている機構が見たことないものばかり。思わず「これ最新モデルですか?」ってお客さんに聞いてしまいましたよ。「旧いバイクばかりを触っていて、最近のバイクのことは何も知らないのはマズイかも」そう思い、別のショップに移ることを考えはじめたんです。

ー現行モデルも学ぶために、ですね。どこに移られたのでしょう。

横山●カスノモーターサイクル(以下、カスノ)です。ハーレーやDUCATIから国産車まで幅広く扱っているショップで、地元では昔から名の知れた老舗でした。それまでヴィンテージバイクばかり触ってきましたが、カスノは最新モデルばかりなわけです。これまでの経験は役に立ちません。採用してもらえれば「ゼロから学び直し」なのは覚悟していました。面接に行ったらバイクショップというよりは一般企業のような建物に「これは落ちたな…」と思いましたね。社長もかなり迫力があったので正直ビビりましたよ(笑)。でも面接で聞かれたのは「血液型は何や?」、「タバコ吸うんか?」、「いつから来れるねん」くらいで何故か採用してもらえました。

ー入社後、そのままハーレー部門に配属されたのでしょうか。

横山●1年目は明けても暮れても洗車と店舗の掃除。それくらいしか僕にやれることはなかったですから。掃除をしながらもこっそりと先輩の作業を盗み見て、できる限り技術を盗もうとしましたね。初めの頃は見られているのに先輩が気づいたら、体で作業しているところを隠されるんです。「そう簡単には盗ませないぞ」って(笑)。でも、毎日がんばっているのを認めてくれたからでしょうか。だんだんと作業を見せてくれるようになってきたんです。「作業が見えにくいなぁ」と思っていると、体をスッとずらして見えるようにしてくれることもありました。先輩の仕事から学んだことは、仕事が終わってから自分のバイクで練習します。わからないことがあって作業が進まないと「こんなことも分からんのか」とキツイ言い方をされてましたが、だんだんと教えてもらえるようになって。そうやって、毎日掃除ばかりしながらも少しずつ仕事を覚え、1年が経った頃から国産の逆輸入車を触らせてもらえるようになったんです。「見て盗め」そういう育てられ方をした最後の世代かもしれませんね、僕は。

ーハーレーを触るようになるまで時間がかかったみたいですね。

横山●カスノでは、先輩たちがそれぞれの得意分野を持っていました。あの人はハーレー、あの人はDUCATIってね。メカニックとして仕事を与えられるようになったとは言え「横山はハーレーが得意」と思われていたわけではありません。やりたいことをやるためには、自分で自分の仕事の幅を切り拓いて仕事を見つける必要がありました。

ーハーレーを触るために、横山さんがやったこととは?

横山●当時のカスノのハーレー部門は、スポーツスターやビューエルのメンテやカスタムが中心でした。ショップのイメージがスポーツ寄りだったせいか、ビックツインが欲しい人は他のディーラーに行ってしまうんですね。ビックツインも扱ってはいましたが、ビックツインのカスタムオーダーはあまりない。そこを切り拓くのが僕のチャンスかな、と考えたんです。といっても、カスタムの経験がなくお客さんの車両を手がけるわけには行きませんから、当時自分が乗っていた91年式ヘリテイジを実験台にカスタムを学ぶ日々でした。いろいろなメーカーのパーツを試しましたよ。同じカスタムをするしても、複数のメーカーのパーツがありますから。どれが良くてどれが良くないか、お客さんに自分から提案できるようになりたくてね。ノーマルで購入したヘリテイジも、カムにはじまって仕舞いにはストローカーまで組み込んだカスタム車両になっていました(笑)。

ー存分にハーレーを触れるようになった頃、ちょっとした事件が起こったんですよね。

横山●「カスノもビックツインのカスタムを手がけている」。やっとそんなイメージができてきた頃に、会社の方針でハーレーディーラーから撤退することになったんです(注:ビューエルは現在も正規販売店)。僕はディーラーを撤退することにも強い反対はありませんでした。ただ「せっかくハーレーに時間を注いできたんだから、最後にアメリカ本社研修にいきたい」と願いでたんです。ハーレーに携わった証として、研修が終わってもらえる修了証が欲しかったので(笑)。でも、その研修が「ハーレーで飯を食っていきたい」と本気で考えるきっかけになりました。

ー本国での研修の何が横山さんの火をつけたんでしょうか。

横山●まずは現地のメカニックの貪欲さ、でしょうか。それまで受けていた日本の研修とは熱が違いました。日本人メカニックは集団で講習を受けるのですが、わざわざ日本人の研修部屋に休憩中の現地メカニックが見学に来るんです。研修を受けていた日本人はそれなりに経験のあるメカニックばかりですから、みんなマニュアルにない独自の工夫を持っています。研修中の作業でそんな工夫を見せていると、アメリカ人メカから「なぜそんなやり方を?」と質問攻めに遭いました(笑)。別に問い詰めているんではなくて、新しい知識の吸収に貪欲なだけなんです。「エンジンを傷つけたくないから…」や「作業効率がよくなるから…」など理由がある工夫だと、ちゃんとメモを取り、それを今後に活かしてくれます。研修の講師も「マニュアルが全てじゃない。そこから発展したオリジナルな手法も素晴らしい」と認めてくれるのも新鮮でした。また、研修を受けている年齢層の高さにも驚かされましたね。60を過ぎているような方が、マニュアル片手にビューエルのコンピュータセッティングを学んでいるのを見たときは素直に感動しました。現地メカニックの貪欲さからは、大いに刺激を受けましたよ。

ーハーレーというバイクを見直す機会は他にもあったとか。

横山●レストランに行ったときのことですね。研修仲間と、現地のレストランに入ったら「何だこの東洋人たちは」という目で見られました。みんなハーレーのTシャツを着ていましたから、余計に目だったのかもしれませんけれど。席についているとウェイトレスに「どこから来たの? 何しに来たの?」と質問を受けました。「日本からハーレーのメカニック研修に来ているんだ」と説明をしたら、それが周りの人に伝わり、僕らを見る雰囲気が一気に良くなったんです。目が合った人は「わざわざ日本から、そうかそうか」みたいな感じで笑顔を向けてくれて。ハーレーに携わっているだけでここまで歓迎してくれるのか、と思うと「ハーレーは特別な乗り物なんだなぁ」という思いが強まったんです。

ハーレーにドキドキし続けたい
デイトナ行きはそのための刺激です

ー本社での研修がきっかけに独立を決めたわけですね。

横山●日本に戻ってしばらくしてから、決まっていた通りカスノはハーレーの販売から撤退しました。それまでのお客さんのメンテなどは引き続き行っていましたが、新たに車両を販売したりカスタムを受けたりはできなくなったんです。決まっていたことで了解していたんですが、一度火がついてしまったものはどうしようもありません。ただ、長らくお世話になったショップですから、後ろ足で砂をかけてやめることはやりたくありませんでした。何度も社長に自分の思いの丈を話し、社長に了解を得た上で退社させてもらいました。カスノで学んだことはたくさんありましたし、お世話になった人とはいい関係を保ちたかったですからね。

ー独立後はどんなショップにしたい、という思いがあったのでしょう。

横山●まさか自分が独立することになるとは考えたこともありませんでしたから「こんな新しいことをやる!」と、大それたことは特別考えてはいませんでしたよ。カスノ時代にやろうとしていたハーレーのカスタムスタイルを受け継ぎ、それまで自分についてきたお客さんに最高のサービスを提供する、そこからのスタートです。

ーお店の外観は他のショップより開けているというか、入りやすいですよね。

横山●外から中が見える店作りにしたかったんです。入りづらいお店にはしたくありませんでしたから。ここはもともとコンビニだった場所なので、表のガラスはそのまま使えました。僕の作業スペースは入り口に近いところに置き、誰がどんな車両を触っているのか、外から見えるようにしています。いまだに「カスタムショップは入りづらい」と思う人も多いですし、僕も外を歩く人から見られていると緊張感を持って作業ができますから。

ーラフな格好で接客や作業をしているのも入りやすさを考えて?

横山●こういう格好が好きなのもあるんですが、ハーレーのロゴの入ったツナギだと物々しいでしょう? お客さんにも好きな格好をして来てほしいので、僕もラフな服装でいいんです。ハーレー乗りって上下革で揃える人が多いですよね。それもアリだとは思うんですが、もうちょっと気楽にハーレーを楽しめばいいと思うことが多いので。お客さんもスニーカーにTシャツなんかで、楽にハーレーを楽しんで欲しいんです。ですから、ショップにはバイカー系のアパレルも置いていませんし、内装もまったくバイカーっぽくありません(笑)。

ーディーラー以外のカスタムショップとなると、どうしてもハードなイメージが強いカスタムショップが中心です。サイドスのような両方の中間にあるショップはもっとあってもいいでしょうね。

横山●個性を打ち出さないと埋没してしまいますから、ウチみたいなポジションのショップをやるのは勇気がいるかもしれません。でも、カスタムショップが入りづらいと思う人は多いらしく、ウチみたいなショップを求めている人は多いのかも、と感じる機会は増えています。「ココで買ったハーレーじゃないんですが、診ていただけますか?」なんて、恐るおそる尋ねてくる人が意外に多いんです。「お店を変えるって、お客さんには一大事なんだな」とつくづく実感します。もちろん、ウチはどんな方でもいつでも歓迎しますよ。

ー横山さんは毎年デイトナバイクウィークに遊びに行っていますよね。

横山●遊びというのは否定できませんが(笑)、アメリカのハーレーシーンをナマで見たいという気持ちも大きいですね。雑誌で見ていても、一部しかわかりませんから。今の日本の状況と海外の状況を交差させて新しいモノが生まれないか、そのために毎年渡米しています。向こうでは、日本人では思いつかないようなスケールの大きなカスタムも見られます。カッコいい悪いは別にしてね。車検やカスタムの規制が日本とは違うので、できる部分があるんでしょう。「目立てばいいと言っても、これはやり過ぎだろう(笑)」というカスタムもありますが、うーんとうなされるモノも多いですよ。日本の今の状況だけを見て小さくまとまるより、いろいろなモノを見ながら、これからのサイドスにフィードバックしていきたいと思います。

ーデイトナはお祭りですから、刺激を受けることも多いでしょうね。年に1度の気分転換にもなるんじゃないでしょうか。

横山●年齢を重ねるほど何かから刺激を受けることは少なくなってくるものですが、僕らショップ側の人間がそういう気持ちを失ったらダメですからね。若い頃は手に入れるといつまでも嬉しいものが、いろんなモノを手に入れやすくなる30代後半頃になるとドキドキしなくなってくる、ドキドキが持続できなくなってくる。そんな人であっても、ハーレーはドキドキさせてくれる乗り物です。ハーレーを世話する僕らもハーレーにドキドキし続けないとね。もっと安いバイクは他にあるのに、何百万もするハーレーをなぜたくさんの人が買うのか、たぶんいい大人をドキドキさせてくれる数少ないアイテムなんでしょう。手に入れてから、そのドキドキをずっと持ち続けさせてあげる…それが僕らが担うべき役割だと思います。そのために僕はこれからも毎年デイトナで遊びますよ(笑)。

プロフィール
横山 幸司
39歳。かつてHDディーラーだった老舗「カスノモーターサイクル(京都府)」でメカニックを勤め独立。現在は京都府京都市にて「サイドスモーターカンパニー」を主宰する。毎年デイトナバイクウィークに足を運びアメリカのハーレーシーンにも造詣が深い。

Interviewer Column

初めてサイドスを訪れたのは2年ほど前、アメリカでしか販売されていない単気筒のビューエル「ブラスト」を日本に入れられないか、という話で大いに盛り上がった。ブラストが話題にのぼるショップなんてほとんどない。毎年デイトナバイクウィークを訪れアメリカのナマのハーレーシーンを見ているから、こんな話題が出るのだろう。ショップの雰囲気といい、話題にのぼる車両の名前といい、他とはやや違う視点からショップを運営しているように思える。気軽に訪れられる雰囲気をもち、気軽なハーレーの楽しみ方を教えてくれるショップ、サイドス。これまでのハーレーシーンに少なかった、こういうショップが増えていくのは、今後のこの業界には必要なことだろう。(ターミー)

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