今回ご紹介させていただくのは東京都八王子市の「テイスト」スタッフ 河内山 友郎さんだ。ハーレー雑誌をよく読まれる方は「河内山 智さんじゃないの?」と思うかもしれない。実は、友郎さんは智さんの息子さん。最近は、昔からハーレーに携わっているショップ以外に若手のショップの台頭も激しい。友郎さんはそんな新世代の一員だ。偉大な父親の仕事も目の当たりにし、その狭間で日々鍛えられている友郎さんが考えるハーレー観、また悩みや理想とはどんなものだろうか。
友郎●小さい頃はバイクにそれほど興味を持っていませんでした。ただ、父親が古くからハーレーに関わっていたので、いつも周りにはハーレーがありました。「ハーレーが好き・嫌い」とかではなく、そんなことを考えることがないくらい当たり前に周りにあるモノでしたよ。自分で興味を持ちはじめたのは高校生の頃でしたね。
友郎●幼稚園の頃にミニモトクロスに乗せられた機会はありましたが、一度コケてから嫌になって(笑)。それから長いことバイクには興味がありませんでしたね。いろんなイベントにも連れて行かれて、今思うと小さい頃からスゴイ人たちにお会いしていましたが、当時はイベントに行くのは嫌でした。自分がバイクに乗れるわけでもないし、「怖そうなおじさん達」がいっぱい集まっていましたから。中学生になった頃からですね、またバイクに興味が出てきたのは。
友郎●高校1年のときに『HOTBIKE』主催のミーティング「LOVE&PEACE」にスタッフとして参加したことが直接的なきっかけです。それまでも「LOVE&PEACE」には遊びに行っていましたが、父親と一緒に行くとどうしても遅れての参加になってしまうんです。初めから参加してみたかったのと、スタッフとして手伝ってみたい、と前々から思っていました。それで『HOT BIKE』の池田編集長にお願いしてスタッフとしてお手伝いさせていただくことになりました。
友郎●ただの「友郎」としての参加でした。池田さんは他のスタッフの人に「最年少スタッフ、友郎。」とだけ紹介してくれました、変な特別扱いがなかったのが嬉しかったですね。当時は足がなかったので、NEKOパブリッシングのビルから「NEKOバン」に乗って他の荷物と一緒に運んでもらいましたよ(笑)。スタッフとしてミーティングに参加するまではミーティングはあまり好きではなかったんですが「LOVE&PEACE」にスタッフとして参加してからは変わりました。それまで当たり前のようにハーレーに囲まれて生活していましたが「ハーレーっていいな」と思うようになったのは「LOVE&PEACE」のおかげですね。
友郎●実際にハーレーに乗せてもらえたことです。ミーティング会場で仲良くなった人に「このハーレーに乗ってみなよ」と声をかけてもらって。自分でハーレーを運転して改めて周りにあったモノの「楽しさ」に気づきましたね。それからです、ハーレーに乗ろうと思うようになったのは。昔から当たり前のように周りにあったモノの良さ、それを偶然出会った人に教えてもらえた。だから感動できたんだと思います。そういう思い出深いミーティングなので「LOVE&PEACE」には今でも毎回スタッフとして参加しています。
友郎●何回目かの「LOVE&PEACE」で雷に打たれたことがあります。会場の電光掲示板に雷が落ちたとき雨で濡れた地面に電気が流れて。そのとき5人が雷に感電しましたが、その一人が僕です。一応、救急車乗せられて検査しましたけれど大丈夫でした。今思うといい経験でしたよ(笑)。
友郎●技術力が高いお店、センスのいいお店、いろんなショップはあります。ただ、僕は「テイスト」のスタイルが好きでこの世界に入ってきました。だから他のショップで修行しようと思ったことはないですね。もし「テイスト」に勤めていなかったら別の仕事に就いていたんじゃないでしょうか。
友郎●ウチは「ノーマルを生かしたカスタム」をします。ほとんどノーマルのままでもポイントを押さえることで印象がガラっと変わるんです。「ここも変えた、あそこも変えた」そういうカスタムもいいですが、ノーマルを生かしたカスタムがウチは得意ですね。
友郎●「引き算のカスタム」とも呼んでいます(笑)。ノーマル車両にカスタムパーツを足していくのはよくありますよね。ウチは一度余計なものを全部外した上で、必要なものだけをクオリティを高めて付け直します。それが「引き算のカスタム」です。そういう考え方が好きで、テイストで働こうと思いました。シンプルなもの、オーソドックスなものを提案していくスタイルが魅力的なんですよ。チョッパーやボバー、昔からあるオーソドックスなスタイルに興味があります。でも、近頃はそういったスタイルを壊したいという衝動にもかられるんですが(笑)。
友郎●「テイスト」を評価してくれているお客さんはその経験とセンスを好きになってくれている人が多いと思います。私もそこが好きです(笑)。父親の過去からの経験の積み重ねがその信頼を生んでいますが、僕も「自分らしいスタイル」を見つけてお客さんに提案していきたいと思っています。これが「Tomorrow Style」だ、という新しいスタイルを「テイスト」に注ぎ込みたいですが、もう少し時間がかかりそうです。ただ、日々の経験から学ぶことは多いですし、昔から家には父親が若い頃に見ていたハーレー雑誌が転がっているので、そこからインスピレーションを受け、自分の経験とセンスも磨いています。
友郎●父親や周りにいるショップの人のカスタムを目の当たりにすると、「自分なんてまだまだだ」と全ての差を痛感してしまいます。経験豊富な先輩の仕事を見ると何も言えなくなってしまうんですよ。父親の仕事以外でも「Hot Dock」さんや「ロナーセイジ」さんのような、創り上げられたものを見てどこのショップのカスタム車両なのかすぐにわかる、そんな人たちに囲まれて修行を詰んでいますから。幸運なことなのですが、凄すぎる人に囲まれているとプレッシャーがかかりますよ(笑)。
友郎●この業界で一人前だ、と言われるようになるには10年はかかりますので、まだまだ遠い道のりですけれど…。毎日、新しいことを学びながら「テイスト」らしいハーレーを創っていきたいです。
友郎●ハーレーはただでさえ存在感のある乗り物なので、あまりそれを誇示したくはないですね。とことんカスタムされたハーレーに一人で乗っている人より、ノーマルのハーレーに恋人を乗せてタンデムしている人の方が僕にはカッコよく見えます(笑)。バイクにだけ執着するんじゃなくて、そのバイクでいかに楽しむか、そこに目を向けたらもっとハーレーを楽しめるんじゃないかな、と考えているんです。ライフスタイルにハーレーを溶け込ませてもらえる、そんな楽しみ方を提案していきたいです。
友郎●昔から傍にあったもので、カッコいいものですね。どんなスタイルにも振ることができるカッコいい乗り物ですよ。僕にとってのハーレーは「真っ白なキャンバス」みたいなものです。自分の思い描くどんなイメージでも描くことができる、いいキャンバスです。経験と技術、センスをもっと磨いて、このキャンバスにカッコいい絵を「Tomorrow Style」の絵を描いてみたいですね。
当初は智さんにインタビューをお願いしようと思っていた。しかし、お店に遊びにお邪魔して友郎さんと話をしてみて「友郎さんのインタビューも面白いな」と気持ちが変わってしまった。新しくハーレー業界に入ってくるビルダーの卵の人はハーレーをどう見ているのだろうか、古くからハーレーに関わっている方と考え方はどう違うのだろうか、そういったことが知りたくて友郎さんにインタビューを行った。21歳と思えない知識と、21歳らしい感性が融合しているのが友郎さん。ハーレー業界の新世代にもこれからは注目していきたい。(ターミー)