今回ご紹介させていただくのは神奈川県横浜市の「一国オート販売」スタッフ 梅島国彦さんだ。ハーレーオーナーの方から「信頼できるメカニック」として頻繁にその名をお聞きしていた梅島さん。メカニックとして多くの方から信頼を寄せられる理由とは一体。そこが気になっていたので、梅島さんにハーレーのメカニックには何が求められているのか、についてお聞きしてきた。普段メカニックの方にお世話になっていながらも、日々どのようなことを考えながら仕事をされているのか、意外に知られていないような気がする。メカニックとはどのような人たちなのか。じっくりと読んでいただきたい。
梅島●HDJでは整備技術向上のため、研修やビデオトレーニングが行われています。車体周りから電気関係まで多くの研修を経て一人前のメカニックを育てようとしているんです。そのようなトレーニングを受けた上で技術習熟度を5段階のランクに分けています。
梅島●そうです。さすがにアメリカまで行くのは大変でしたけれど、面白かったですよ。そもそも日本の研修制度はアメリカのディーラー向けトレーニングを参考にして創設されたのですが、日本のものとはちょっと違っています。アメリカのトレーニングではエンジンのボーリング講座まであるんです。日本ではエンジンをバラして、その後は内燃機屋さんに任せるのが普通なんです。でも、アメリカではディーラーには金属加工ができる施設やペイントブースといった設備まで整っています。ディーラーでほとんど何でもできるような設備があるんです。ですから、アメリカ研修時は、日本では行わないような内容の研修があります。
梅島●そこまでやるのはハーレーだけでしょう。国産メーカーのトレーニングとは、そもそもの考え方からして違います。日本車はボーリングなどまず行いませんから、そこまでのトレーニングをする必要がないのです。ハーレーは修理やカスタムはディーラーで完結してしまうことがほとんどです。ですからお客さんと接する最前線のディーラーにはいろいろな技術をトレーニングする必要があるわけです。例えば、ハーレーの整備マニュアルは非常に丁寧に書いてあります。「キャブレターとは何か」など基本的な知識から詳細な部品の解説まで事細かに説明されています。パーツの交換のみならず「エンジンをばらして加工して」がそう珍しくないハーレーだからこそ、基本的な解説から丁寧に記載されているのでしょう。国産メーカーのマニュアルだとメカニックであれば知っていて当たり前だ、という内容は省かれていてパーツリストのような内容です。どちらがいい、ではなく、そこはメーカーとしての考え方の違いですね。
梅島●ハーレーは構造が単純に見えるので、自分で簡単に作業できそうな気がしますよね。でも、実際は違うんですよ。国産車はクリアランス(部品同士の組み合わせの隙間)もガチガチなので、誰が車両を組みあげてもほぼ同じものができあがります。ただ、ハーレーは組み方一つで違うエンジンになってしまいます。クリアランスや締め付けトルクの違いなどで車両の状態がまったく変わってしまうんですよ。メカニックの知識や経験の差が色濃く出てしまうわけです。メカニックの技量に拠るところが多いバイクなんですよ。
梅島●そうです。ディーラーのメカニックへのトレーニングだけでなく、仙台市の「赤門自動車整備専門学校」にはハーレーのメカニックが学べる講座まであります。それだけの環境を整えて、安心して作業を任せられるメカニックを育てているんです。
梅島●勘違いして欲しくないのは「マスターオブテクノロジー」という肩書きはあくまでお客さん側から見たメカニックの技術レベルの目安だ、ということです。そのメカニックの今までの経験と知識修得の証になるものです。「★★★★★」の方は信頼できるメカニックであることは確かですから信用していただいて問題ありません。ただ、だからと言って「★」の人がよくない、というような安易な発想はしないでください。忙しくて研修をなかなか受けられない人もいます。資格にそれほど関心がなく、目の前のお客さんのハーレーを誠実に修理することに情熱を燃やしている人もいるかもしれません。
梅島●そうです。認定後も新しく学ばなければいけないことはどんどん出てきますので、日々学ぶ姿勢を意識しなければその肩書きには何の意味もなくなってしまいます。確かに「マスターオブテクノロジー」をいただいた時点では最新の情報を持っていたかもしれません。しかし、ハーレーも年々進化しています。ですから我々メカニックも日々進歩していかなければいけません。マスターオブテクノロジーに認定されたからといって、そこで学ぶことを辞めてしまうと、進化していくハーレーの速度についていけなくなってしまいす。
梅島●「頭を使った」経験の積み重ねをしよう、それを意識しています。そういう経験の積み重ねがメカニックを成長させます。オイル交換一つをとってみても「今日もオイル交換、嫌だな」と思いながらやるのと、そこに何かを発見しながら作業をするのとでは成長は違いますから。一概に年齢で話すのはよくありませんが、僕はオイル交換一つを見ても、若いメカニックには見えていない部分が見えている自信があります。それが経験の差ですね。オイルを「ただ抜いて、入れるだけ」であれば誰だってできるでしょう。そういう基本的作業の中でもバイクの状況を推し量ることだってできます。一見、基本的な作業に見えるオイル交換からも学べることは多いんです。
梅島●いくら経験を積み重ねたとしても、経験したことがないトラブルや修理が持ち込まれることは必ずあります。経験がないトラブルだと「なぜだろう?」と悩みますが、多くの経験を積み重ねていると、初めてのケースでも最短距離でトラブルの原因まで辿り着くことができるんですよ。日々見えない部分を意識して仕事をしていると、臨機応変にトラブルに対応できるようになります。経験の積み重ねがその自信を産むんです。
梅島●結局メカニックにとって一番大事なことは「日々発見をしながら作業を積み重ね、知識と経験を積み重ねていくこと」が重要です。マスターオブテクノロジーはその証の一つですので、大いに参考にしていただいて結構です。ただ、日々努力している現場の若いメカニックも進歩して行っていますから、それも見てあげて欲しいですね。若いメカニックは体系的な研修を受けながら、現場で自分の手で車両を触っています。その進歩の速度は非常に速いですよ。
梅島●最近は雑誌やインターネットに情報は溢れています。ですからお客さんによっては非常に詳しい人もいます。雑誌を隅から隅まで読んでいる人は珍しくありません。僕の知らないようなことを知っている人もいますよ。ただ、言い方はよくありませんが我々からすると、その知識は「かじっている」だけのことが多いので、自分の目と手で積み重ねた経験を重ねれば大丈夫です。経験の浅いメカニックだと、自分の知らない言葉がお客さんから出てくると慌ててしまうかもしれませんが、プロとしてひきだしが増えてくると、どんなお客さんにも対応できるようになります。
梅島●自分でエンジンを開けて持って来られる人もいますし、オイル交換をできない人もいます。個人がどこまでやっていい、とは一概に言えません。モノには理屈が必ずありますから、そこを理解して作業しているのであれば自分で行ってもいいでしょう。理屈を知らずに、ただ闇雲に作業を行うようであればやらない方がいいでしょう。オイル交換にしても「ただ抜いて、入れればいい」わけではないですから。「オイルの量はなぜ決まっているんだろう?」「オイルを入れすぎると何が起こるのか?」「サイドスタンドを立ててオイル量を測る車両とバイクを立てて測る車両があるのだろう?」など常に疑問を持って、原理を理解した上で作業を行うのであればいいでしょうね。
梅島●自分の愛車に興味を持つ、その仕組みがどうなっているんだろう、と疑問を持つのは当然のことですから構わないと思います。いろいろな雑誌にあるメンテナンス入門のコーナーはどの雑誌でもかなり人気のコーナーだと聞きます。稀に一般の人が行うのにはレベルが高すぎる作業の紹介もありますので、どんな人が喜んでいるのかな、と思っていましたが、自分でやりたいとは思わないけれども理屈は知りたいという人が多いようですね。そういう疑問を持つことは大事ですが、それを自分で作業やってしまうリスク、それはよく考えた上で作業を行った方がいいですよ。
ふと気が付けば、このインタビューコーナーを始めて1年が過ぎてしまっていた。その間に私の愛車も多くのメカニックの方に手を入れていただいている。いろいろなお店に愛車を預けてきたが決して適当に選んで預けたわけではない、「あのお店に触ってもらいたいから」そう思って預けてきたわけだ。突き詰めて行くとお店の技術の信頼性はメカニックの方に行き着く。普段あなたのバイクを触っている人の顔は思い浮かびますか? もしご存知ないのでしたら一度話しをしてみるのもいいかもしれない。どんな経験をされた方があなたの愛車を触っているのか、知っていて損はないだろう。(ターミー)