VIRGIN HARLEY |  遠山 康秀(イーストアーバン)インタビュー

遠山 康秀(イーストアーバン)

  • 掲載日/ 2004年08月01日【インタビュー】

ハーレーインタビューの画像

人生を愉しむ理想の大人
遠山康秀のハーレー道とはいかに

こだわりのカスタムショップを経営する遠山さんは物心ついたときからのアメリカ好きだ。アメリカ好きが高じ、若干21歳でアメリカに渡った経験がある。当時は1ドル360円の時代。遠山さんはそんな頃にアメリカ暮らしを経験し、今のようにハーレーの情報がなかった時代にハーレーを乗り回していた。今の私たちは簡単にアメリカに渡り、ハーレーに乗ることができるが、この当時、それは相当「無茶なこと」だったに違いない。そんな遠山社長の熱いこだわりをお聞きしてみた。

Interview

いろんな情報が簡単に手に入るから
お客さんも 勉強不足になりやすいのね

ー遠山さんが若いころは、ハーレーに乗っている人は多かったのですか?

遠山●ハーレーに乗っている人は全然いなかったよー、ショップも今ほどなかったしね。1ドル360円で、大卒初任給が5万円の時代に79年式のローライダーが175万円。しかもローンが最高24回払いで金利が年利27%(笑)。今思うとよく買えたよね。

ー初任給が5万円の頃に175万円(笑)、今で言うマンションを買うような感覚でしょうか?

遠山●そう。いまだに古い人は「ハーレー一台で家が買える」って思っているけど、それは当時の感覚からきているんだよ。その時から比べると今はいいよね。いまだにローライダーの値段はその当時とほとんど変わっていないから。ハーレーって実質20年以上値上がりしていないんだよね。

ー今でも充分、高いですけどね(笑)。それにしても、車両がそんなに高価だったということは、カスタムをするのも大変だったんじゃないですか?

遠山●うん、大変だった。当時はパーツの種類も今ほどなかったし、あっても値段が高かった。だから自分で工夫してパーツを作ったりもしたよ。当時のハーレー乗りはみんな、そんな苦労をしていたから、お互い相談しあって知恵を出しあってたんだ。自分達でメンテからカスタムまで全部やってると、技術も知識も少しずつついてくる。そのときの仲間が今はショップをやっていたりするんだ。たとえば『HOT-DOCK』の河北君や『サムライ』のタメさんとかね。昔からの仲間とは今でも仲がいいんだよ。

ーショップ同士で横のつながりがあるんですか?

遠山●未だに仲間のショップに遊びに行ってるよ。そういう仲間同士の繋がりから、『ハーベストタイム』っていうミーティングが生まれ、そこから今のカスタムショーの『クールブレーカー』が生まれたんだよ。豊富なパーツを作ったり、イベントを企画したりしてたんだね。そういう意味で、今の人は恵まれているよねぇ。

けどその分、弊害もあるよね。いろんな情報が簡単に手に入るから、勉強不足になりやすいの。今はいろんなショップや雑誌がアドバイスしてくれるから、カスタムはしやすくなっている。でも自分のスタイルを持って、溢れている情報に流されないようにしないと、ショップや雑誌の言いなりになってカスタムをし続けることになるよね。そんなの嫌だろうし、絶対すぐ飽きちゃうと思うんだ。自分で考え抜いたマシンってのは、もっと愛着が湧くだろうし、さらに乗るのが楽しくなるものだからね。 情報が多いっていうのはいいことばかりじゃないんだね。例えば…そうだね。あなたが自分のハーレーのパワーに物足りなくなったらどうする?

ーボアアップは高いですから…キャブレターの交換でしょうか。

遠山●だよね。雑誌やインターネットを調べればそう書いてあるよね。でもノーマルのキャブレターって実は良くできていて、ノーマルのキャブを少しいじるだけで十分なパワーがでるんだよ。CVキャブのままである程度のパワーアップができるのに、キャブを交換しちゃうんだよね。パワーアップ=キャブ交換っていう情報が安易に手に入るから、その他にも方法があるってことを考えつかないものなんだよ。ハーレーは大排気量でパワーもあるから、エンジン周りはカスタムする必要はそれほどないんだよ。調子のいいノーマルは充分速いし、一番乗りやすいしね。

人が跨った姿を含めての「カスタム」
それがウチの流儀だね

ーなるほど。ではイーストアーバンさんではどんなカスタムをお勧めしていますか?

遠山●まず第一に、うちはカスタムショップではあるけれど、チューニングショップじゃない。だから安易にエンジン周りのカスタムは薦めないね。それよりもオーナーが自分のバイクに跨った姿をショーウインドーで見て、ほれぼれするようなバイクを一緒に作りたいな。各パーツの組み合わせや、オーナーが跨っている姿などを想像しながらバランスがいいバイクをね。

ーオーナーが跨った姿にもこだわるんですか?

遠山●バイクだけが格好良くても意味がないからね。乗っている人が無理をして乗らなければいけないようなバイク、バイク単体ではカッコいいけど人が跨ると格好悪いバイクは好きじゃないなぁ。

ー人が跨った姿を含めての「カスタム」なんですね。そんなこだわりが積み重ねられて「イーストアーバンスタイル」と呼ばれるスタイルが出来上がったんですね。

遠山●それは褒め過ぎだよ(笑)。確かに、ハーレーのカスタムショップとしては、うちはそれなりに認知されている。ただ、うちはハーレーショップではあるけれど、そのイメージには縛られたくないのね。というのも、「イーストアーバン」の中心には確かにハーレーのカスタムがあるんだけど…。それだけじゃなくて、来てくれる人の「毎日を楽しく」してあげられるようなショップでありたいんだよ。

ーハーレーショップだけでは満足できないんですね。

遠山●そう。ハーレーだけの人生っていうのもちょっと寂しいじゃない。もちろん僕はハーレー馬鹿だけど、それがすべてじゃない。僕の場合、好きなことがたくさんあって、その中心にハーレーがあるだけなんだよ。だからうちのお店にはハーレーだけじゃなく、雑貨や古着も置いてあるでしょ。いろんなお客さんに来て欲しいのね。バイクだけじゃない、いろんな話をしてあげたいし、して欲しいかな。だからハーレーに乗っていなくてもいいから、気楽に遊びにきて欲しいですね。

だってさ、そうじゃない。世の中楽しいことはいっぱい転がってるよね。別に、自分をひとつの枠に絞らなくてもいいじゃん。趣味の世界なんだから、好きなことは全部やっちゃえばいいんだよ。音楽やファッション、映画など、いろんなモノが好きで、その中にオートバイがあって、それを全部楽しむっていうのがカッコいいよね。それが僕の「スタイル」なんだよ。

今の時代に、速く走るのは合わないと思う
バイクには『癒し』が求められているのかもね

ー情報多寡な中での自分の確立。その大切さは、ハーレーだけではなくすべてに言えることですよね。でも、それを立ち上げることはすごく難しい。なのに、遠山さんは明確に自分のスタイルを築きあげている。なにか、日々心がけていることなどあるのでしょうか?

遠山●んー、そうだな。今は「スローライフ」を目指したいなって思っている。仕事としては「スロー」にやっていたらご飯が食べれないけど、何事も『自分のペース』で取り組めたらいいなと思っているねぇ。

ーなぜ「スローライフ」を目指そうと思ったのですか?

遠山●最近1週間が過ぎるのがやたらと早くない? あっという間に1週間が過ぎるんだ。昔はもっと1週間が長かったんだけどなあ。今は世の中の動きが早すぎて、そのペースに乗って生活しているだけで疲れちゃうよ。だから「スローライフ」を目指してる。もちろん「のんびりと、気ままに仕事をしたい」って、そんなことを目指しているわけじゃないんだよ。

世の中の忙しさに巻き込まれて「自分」を見失わないように気をつけ、生活のペースは自分が握って自分の時間を自分で作り出す、それが僕の目指す「スローライフ」なんだ。慌しく仕事をして、なんとかハーレーを維持して、なんとか乗っています、っていうのはあまり楽しくないよね。自分が作った時間の中だと、ハーレーをもっと楽しめるんだよ。

ー「たまたまできた時間」ではなく、「自分の時間」でハーレーを楽しむということですね。

遠山●そのとおりだよ。「自由な乗り物」だからさ、ハーレーは。スローライフを目指して、乗り方もずいぶん変わったよ。昔はガンガン飛ばして走るのが好きだったんだけど、最近はもうなくなったよ。

ーなぜ飛ばさなくなったのですか?

遠山●100キロで走る視界は気持ちいいよね。でもスピードが上がってきて、160キロ以上になるとだんだん世界が尖がって見えてくるんだよ。最初は扇形に広がっていた世界が、スピードが上がるにつれて尖がってきて、視界がだんだん線に見えてくるんだよ。200キロを越えるとピーンと細長く張った、直線しかない世界になってくる。自分に余裕があったころは、有り余るパワーをそんなところに費やしていたけどね。でも、それって危ないじゃない(笑)。

それに、今の時代にはそんな走り方は合わないと思うんだ。世の中がこんなに早いんだったら、のんびり走ればいいんじゃないか、そんなに尖がらなくてもいいんじゃないか、と思うようになってきたんだよ。昔は暮らしがのんびりしていたから、有り余るパワーをバイクにつぎ込めたのかもしれないけど、今は世の中の流れが速すぎるから、バイクではゆっくり走りたいと思うんじゃないかな。昔のバイクには「刺激」が、今は「癒し」が求められはじめているのかもね。

プロフィール
遠山 康秀
52歳。ショベルのスポーツスターの老舗「イーストアーバン」の代表取締役社長。乗り手も含めて考えたカスタムという独自の「イーストアーバンスタイル」を展開する。物腰の柔らかいトークと多趣味ゆえの独特のハーレー観で、熱烈的ファンを持つ神奈川の雄。

Interviewer Column

「スローライフ」。下手をすると勘違いされそうな言葉だ。今回、遠山さんにお聞きした「スローライフ」とは「忙しさ」から逃げ出すことではない。自分の「スタイル」を確立し、世の中に流されず日々を過ごしていくこと、それが遠山流の「スローライフ」だ。現在は多くのカスタム雑誌があり、流行のスタイルは日々変わっていく。そんな中で流されずに「イーストアーバンスタイル」を確立し、独自のスタイルを持ち続ける。それは本当は難しいことのはず。おそらく、自分の「スタイル」を確立している遠山さんだからこそ、現在のカスタムシーンの流れの中で独自の個性を生み出し続けられるのだろう。ただ流されているだけでは、そこに「スタイル」は生まれない。そんなことを今回のインタビューで気づかされた。(ターミー)

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