佐藤千尋さんが乗るのはグースネックのリジッドフレームにショベルエンジンを搭載したカスタムバイク。フロントフォークは74スプリンガーを装着し、前後16インチのスポークホイールを装備したオールドスクールチョッパーだ。
「そうなんですね。わたし詳しいことは良くわからないですけど、衝動的に勢いでこのバイクを買ってしまったんです」
10代のころからバイク好きだった彼女。自分で乗るならクラシカルなハーレーと以前から決めていた。スタイルで好きなのは、サイドバルブのWLや戦前モデルのナックル。しかし、さすがにそれは初心者には扱えない年代のオールドモデルだからと友人に言われ、仲間のアドバイスによってショベルエンジンが搭載されたカスタムバイクにも興味を抱くようになったという。
「いとこもはとこもハーレー乗りなんですよ。自分の周辺にやたらハーレー乗りが増えてきたなと感じていたら、なんと、普段は山ばかり登っていた父親がハーレー乗りになっちゃった。これにはちょっとビックリ。いきなり買ってきちゃったんですよ。この赤いソフテイルを」
お父さんの幸雄さんは、3年前にこのソフテイルを手に入れた。山遊びの仲間がハーレー乗りで、初めて連れて行かれたミーティングでバイク乗りの楽しそうな雰囲気に魅了されて大型二輪免許を取得。仕事帰りにショップへ行き、そこで売れ残っていた赤いソフテイルカスタムを新古車として突然購入してしまったと笑う。何だか、親子ともども自分の感性に素直に、勢いで生きているのだ。
「娘の千尋が免許を取って、最初に僕のソフテイルに乗ろうとしたら立ちゴケですよ。あれには笑ったな。大丈夫? なんて言いながら二人でゲラゲラ笑ったね」
彼女が手に入れたチョッパーは、元々ショーモデルとして製作されたもの。はとこの友人が所有していたが手放すというので後を引き継いだ。彼女にとって初めてのハーレーが、この手強そうなチョッパーになったのだ。
「みんなに勧められて買ったんですけど、お父さんのソフテイルでさえ手強いと感じたのに大丈夫かなって。でもスタイルは大好きだし、乗りたい! という気持ちが大きいと何でも克服しちゃうものですよね。今じゃ、しっかりとキックで始動させることにも慣れたし、楽しく乗っていますよ」
ハーレーに乗るようになってから、親子の会話が急に増えたと笑うふたり。以前は、どことなく距離を置いている親子関係だったようなのだ。今は親子でもありバイク仲間でもある父と娘。ハーレーは、もつれていた心の糸を繋いだのだ。