VIRGIN HARLEY |  内山 悠インタビュー

内山 悠

  • 掲載日/ 2008年05月09日【インタビュー】

ハーレーインタビューの画像

好きなバイクで走り込みたい
たまたまそれがハーレーだった

「ハーレーの魅力は?」と聞かれたらみなさんは何をイメージするだろうか。「ドコドコとした鼓動」、「ゆっくり流しても面白い」、「いかようにもカスタムできるパーツの豊富さ」などを挙げる人は多いはず。そういったことがハーレーの大きな魅力なのは確かだ。しかし、それとは違った観点からハーレーを楽しんでいるユーザーもいる。ハーレーで「スピード」や「スポーツ」を求める人たちだ。革ツナギを着て、サーキットを走るのではない。一般道や峠、ダートにまでハーレーで足を踏み入れることを楽しんでいる人がいるのだ。周囲を見渡しても、そういった趣味の人はなかなか見当たらないだろう。本来ハーレーが得意とする走りではないからだ。今回紹介する内山さんもそんなハーレーの楽しみ方をする一人。ハーレーパーツ専門店「カチナパーツ」に勤めつつ、日々の通勤までもダイナでいかに速く走るか、の訓練の場としている。ハーレーでなぜ速さを求めるのか。ハーレーでスポーツライドにチャレンジする限界とは。じっくりと話をお聞きしてきた。

Interview

ハーレーを手に入れたのは22歳
若いウチに乗り始めたかった

ーバイクに乗り始めたのは20歳を過ぎてからだとか。

内山●10代の頃はバスケットボールに夢中になっていて、バイクには一切興味がありませんでした。でも、大学の頃のアルバイト先にバイクに詳しい人がいて、その人と仲良くなるうちに少しずつバイクに興味を持ちはじめたんです。

ー初めて手に入れたバイクは何でしたか?

内山●YAMAHA「SR」です。空冷で、ドラムブレーキのバイクが欲しかったんですよ。最初のSRは先輩から譲ってもらったモノでしたが、フレームにクラックが入ってしまって。それで2台目のSRを買って、とにかく毎日乗っていました。

ーSRの次がハーレーですよね? いきなりのステップアップですが、なぜハーレーを?

内山●当時、SRの世界ではトラッカーカスタムが全盛だったのですが、同じトラッカースタイルのベース車両として人気だったのがスポーツスターだったんです。自分の好きなスタイルにカスタムができ、しかも大排気量。SRに乗り始めて間もない頃から気になるバイクでした。本気でハーレーを手に入れることを考え始めたのは22歳の頃だったかな。当時、大学のある大阪から故郷の広島まで月に1、2回ほど往復していたのですが、SRだとさすがに辛くて。長距離でも快適に走ることができるバイクが欲しくて、真剣にハーレーのことを調べはじめました。

ー大学生なのにハーレー…よく思い切れましたね。

内山●親からの借金で買うようなことはしたくなかったので、1年間かけて頭金を貯めました。ハーレーには長く乗るつもりでしたから、トラブルの少ない新車を買ったんです。学生なので、当然ながら現金で買える余裕はない。親に保証人になってもらわないとローンが組めませんから、働いているフリをして80回の長期ローンを組みましたよ。払い終わる頃は30歳…先が長すぎて現実感が湧かないローンでした(笑)。

ー選んだのは今のダイナ・スーパーグライドですよね。最初はスポーツスターに興味があったのでは?

内山●最初はスポーツスターのXL1200Sを考えていたのですが、購入するまでの間じっくりとハーレーのことを調べてみたんです。スポーツスターとビックツインのエンジンの違いや、どんな人が乗っているのか、までね。その過程で有名なMC「Hells Angels」のメンバーにツインカムのダイナ乗りが多いことを知りました。特にFXDX(ダイナ・スーパーグライド・スポーツ。現在は生産されていない)が多かったようです。かなりの距離を一気に走ってしまう彼らがダイナを選んでいる…それでダイナに興味を持ちました。ダイナは長距離も走ることができて、街乗りにも不自由しない車体サイズ。大阪~広島間を往復することを考えると、スポーツスターよりダイナの方が僕には合っているかな、と。

ーFXDXではなく、FXDを選んだのはなぜでしょう。スポーツライドならFXDXの方が…。

内山●今考えるとその通り。前後サスはFXDXの方がいいモノが採用されていましたから。今のダイナにもFXDXの純正サスをわざわざ探してつけているくらいです。ただ、ダイナに乗り始めた頃は今ほど“スピード”や“スポーツ”に傾倒していなかったんですよ。20万円近い価格差は学生には大きかったわけです(笑)。

ー大学生でハーレーデビュー。周りの反応はいかがでした?

内山●誰かが乗り始めるとハーレー熱は伝染するようですね。触発されてハーレーを手に入れたり、それまでバイクに興味が無かったのに免許を取りに行きはじめたりする仲間もいました。ただ、嫌がらせも多かった。大学の近くにハーレーを停めていると、何度もシートに唾を吐きかけられましたよ。お金持ちの学生だと思われたのかもしれません。よくも悪くも目立つバイクなんだな、と思いました。

ー私の通っていた大学にはハーレー乗りはいませんでしたねぇ。いたら確かに目立つかも…。

内山●学生でハーレーは確かに珍しいですし、維持するのは楽じゃありませんが、できるだけ早く乗りたかった。「お金を貯めてから乗ればいいじゃないか」と思う人もいるでしょう。でも、ハーレーを現金で買えるほど貯金をするなんて、時間をかけても僕には多分無理。ある程度は貯められても他の誘惑にきっと負けてしまうはず(笑)。ローン金利の支払いなんて、早くハーレーに乗る代償だと思えば気になりませんし、ローンなら学生であっても何とか払っていけますからね。それに、20代前半でハーレーに乗るのと、30代を過ぎてから乗るのでは、ハーレーの楽しみ方、魅力の感じ方も違ってくるでしょう。お金はないけれど、時間は学生の方がたっぷりある。そういう時期にハーレーに乗るのもアリでしょう。

ーダイナは大学の頃からカスタムしていましたか?

内山●学生の頃はカスタムにそれほどお金をかけられませんでした。社会人になってからですね、手を入れはじめたのは。でも最初は、リアサスのローダウンなど乗り心地が悪くなるカスタムもやってしまっていました。そうやってノーマルの良さに段々と気づいたわけですが(笑)。長く乗るにつれて、「短すぎるサスはダメ」、「街中を走るにはハンドル幅が広い」、「フロントフォークが柔らかすぎる」など、自分の走りに合わせるためには、どこをカスタムしていけばいいのか、少しずつ気づきはじめました。

ハーレーは遅い。そう思うのなら
乗り手の技量が理由でしょう

ー今の片鱗が見え始めたのは社会人になってからだったのですね。

内山●本気でバイクに向き合い始めたのは確かにその頃からでしょうね。当時は休みが週に1日あるかどうか、という営業の仕事をしていましたが、うまく休みが取れたときは朝早くから夜遅くまでずっと走り回っていました。

ーお昼頃に起きてからのんびり走る方が楽でしょう。ストイックな楽しみ方をしていたんですね。

内山●平日は始発から終電までずっと働いて、ダイナに乗る時間なんてありませんでした。平日に乗れない分、休日はたっぷり走らないと精神的にスッキリしなくて。それに、朝早くからたっぷり走ると不思議と頭がスッキリとするんですよ。朝から晩まで走っても、疲れるというより気力が湧いてくるように感じていました。その頃からですね。「もっと長い時間ダイナに乗りたい」と思うようになったのは。

ーそれで営業の仕事を辞め、「カチナパーツ」に転職することになった、と。

内山●前の仕事を辞め、「しばらくは充電期間」とのんびりとしていたのですが、ハーレー雑誌で募集広告を見てカチナパーツにお世話になることにしました。「ハーレー業界で働きたい」と強く願っていたわけじゃないんです。商売の勉強がしたくて、それを学べる仕事を探していたんですよ。でも、あらゆるメーカーのカタログが見られて、お店にやってくるお客さんのハーレーも見る機会も多い。結果的に恵まれた環境で働くことができていますね。

ーたくさんの人がお店に来るので、内山さん好みの走りをするお客さんとも出会えたのでは?

内山●それがそうでもないんです。ハーレーでスピードやスポーツを追求している人は関西にもいると思うのですが、滅多に出会う機会はありません。毎日通勤で走っていると、いろいろなハーレーを見かけます。速そうなペイントのハーレーでも走りは案外大人しかったり、足回りをきっちり固めていてもタイヤはセンターしか減っていなかったり(笑)。関東の方ではハーレーでスピードとスポーツと追求している人は少なからずいるみたいなんですが…。僕みたいなハーレーの楽しみ方をしている人は、週末に一人で走っているのかもしれませんね。

ーハーレーでとことん走りこむ人は少ないでしょう。フレームやエンジンが重く、スポーツ向きではないのでは?

内山●国産のスーパースポーツなんかには当然ついていけません。でも、どこまで追いかけられるか、が楽しいんですよ。バイク自体はハンデがありますが、乗り手の技量である程度まではカバーできます。公道でスポーツバイクのポテンシャルを使いきれている人なんていないですから。「ハーレーは遅い」と言われますけれど、ハーレーのポテンシャルを全部使いきろうと思ったら大変ですよ。スポーツバイクに乗る友人が最近ノーマルのXL883Rに乗り換えましたが、何も触っていない状態なのにメチャクチャ速い。遅い速いのかなりの部分は乗り手の技量によるモノで、足りない一部分をカスタムでカバーすればいいと思っています。僕みたいなハーレー乗りの方が少数派でしょうけれど、速そうに見えるのにのんびりと走っているハーレーを見ると、ちょっと残念です。「そのバイク、もっと別の楽しみ方もあるんだぞ」って思いますね。

ーただ、今は同じスタイルで走っている仲間がいるんですよね。関西にも同じ匂いの人間はいるということでしょう。

内山●7年近くダイナに乗ってきて、やっと数人ですよ(笑)。でも、神戸にはハーレー乗りを中心に地元のバイク乗りが集まる小さなイベントが月に1、2回あって、そこには同じようなスタイルでバイクを楽しんでいる人たちもいます。人と一緒に走ったり、そういう場に顔を出したりするのはあまり好きじゃないんですが、誘ってくれた人が面白い人で。今、ダイナを修理に出している「紫雲クラフトワークス」の松村さんなのですが、ノーマルだろうが、チョッパーであろうが尋常じゃない走りをする人です。そういう人が集まるイベントなので、僕なんかよりキレた走りをする人が他にもいますね(笑)。別にスピードとスポーツを求めている人たちばかりが集まる場ではないですが、仲間やそこにやってくる人たちに刺激を受けて、もっとうまく、もっと速く走りたいと強く思うようになりました。

ーでも、今は事故でダイナは修理中(笑)

内山●もう5ヶ月も乗っていません…でもあと少しで完成(笑)。事故で全損に近いダメージを受けたので、フロント剛性UPのために倒立フォークを入れたり、エンジンをオーバーホールついでにボアアップしたり、まだ運転が下手なのでコーナーでステップやマフラーを擦ってしまうためマフラーをハイパイプにしたり…以前からやってみたかった仕様にカスタムしてみました。見た目は地味ですが、これで走りもかなり変わるはず。今回の取材のおかげで久しぶりにダイナを見ることができましたが、早く乗りたくて仕方がないですね。

ー今のダイナはかなり距離を走っていたでしょう。あちこちガタも出てきていたのなら、乗り換えてもよかったのでは?

内山●今のダイナがいいんです。このダイナに走る楽しさを教えてもらいましたから。新車から乗り続けている間にエンジンがツインカム96へと新しくなっていますが、もっと新しいモデル、もっといい車両と気にしていてもキリがありません。修理にはフレームの修正まで必要でしたが、思い入れがある自分のダイナでどこまで走ることができるのか、そこにチャレンジしてみたいんですよ。

ー自分の愛車にこだわりを持つのは素晴らしいことですね。でも、なぜハーレーでスピードやスポーツを追いかけているのでしょう? ハーレー以外で追求する方が楽ですよ?

内山●もし僕がDUCATI好きだったら、DUCATIで走りを追求していたはず。たまたま出会ったのがハーレーで、それで走る面白さを知りました。だから、ハーレーはどこまで走ることができるのか、試してみたいんですよ。ハーレーのポテンシャルを限界まで使いきるのは、僕にはまだまだできません。ダイナで市街地からワインディング、ダートや林道にまで走りにいきますが、走る度にダイナにはまだまだポテンシャルがあることに気づかされます。乗り手の技量がまだまだともなっていない。今回のカスタムでさらに車両のポテンシャルが上がったでしょうから、乗り手が追いつくのがまた大変です(笑)。

プロフィール
内山 悠
29歳。兵庫県の「カチナパーツ」に勤める。YAMAHA SRを経て、22歳で2002年式FXDを購入。以来「FXDでいかに速く走るか」にこだわり続けている。2007年に事故に遭い、愛車が廃車寸前になるものの、馴れ親しんだFXDへの愛情は深く、長い修理の後に復活を遂げた。

Interviewer Column

思い返してみると内山さんとの付き合いは案外長い。最初は「大人しそうな青年」というイメージだったが、話してみると、走ることにかけてはかなりの情熱家だった。カスタムに興味がないわけではない。走りをスポイルする方向性のカスタムをしないだけ。見た目に派手なカスタムより、自分のイメージする走りに近づけるカスタムを好む。勤め先のカチナパーツの前でフロントフォークのオイル量に悩み、足回りが固まればその日のうちに走り込んでチェック。そんな内山さんの姿を見て「ホント好きなんだなぁ」と思ったことは数知れない。のんびりゆっくり走るのも確かにハーレーの魅力だ。しかし、ハーレーの懐は深く、スポーツライドですら許容するポテンシャルも持っている。それを活かし、楽しんでみるのもハーレーの魅力の1つ。そういう楽しみ方に共感を覚えた人がいたら、ぜひカチナパーツを訪れてみて欲しい(ターミー)。

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