近頃、女性のハーレー乗りが増えてきた。女性ハーレー乗りに向けた書籍が発行されるほど、多くの女性がハーレーを楽しみだしている。しかし、身長や体格の関係からか、スポーツスターやダイナ、ソフテイルオーナーが大多数を占めているようだ。女性には車重や大きさの点で、乗るのはなかなか難しいツーリングモデル。しかし、私の友人に身長152cmでロードグライドに乗る女性がいる。ツアラーに乗るために工夫を凝らし、努力を重ね、華麗にロードグライドを操る彼女を多くのハーレー乗りに紹介したい。なかでも女性に知ってもらいたい。そう思い富山県に住む祐太ママ(以下、ママ)にインタビューを行った。「女性でもツアラーに乗れる」と安易に薦めるつもりは毛頭ないけれど、本気で乗りたいと思えば乗る方法はある。そのことがこのインタビューから伝われば幸いだ。
祐太ママ●ウチのパパは若い頃からバイクに乗っていて、「いつかハーレーに乗りたい」という憧れがあったらしいんです。で、ある日「ハーレーが欲しいんだけど…」と相談を受け、我が家にハーレーがやってくることになりました。パパがハーレーに乗り出さなければ、私がバイクの免許を取ることはなかったでしょうね。
祐太ママ●むしろ「乗って欲しい」と思いました。小さい頃、近所のおじさんのバイクの後ろに乗せてもらった経験があって「バイクの後ろは気持ちいい」と知っていましたから。それに、パパが何十年も憧れ続けた乗り物ですからね。反対するなんて可哀想でしょう(笑)。そうやって我が家にやってきた最初のハーレーが2003年式XLH883H(以下、ハガー)でした。しばらくはパパが乗っていましたが、私が大型二輪免許を取ってからは、そのハガーが私のモノになったんです。
祐太ママ●パパとタンデムで大阪まで走りに行ったとき、女性のハーレー乗りと話す機会があったんです。その方もあまり身長が高くない人だったのですが、重いハーレーを颯爽と乗りこなしていました。パパが気持ち良さそうにスポーツスターに乗っているのを間近に見まして。それ以前も「自分で運転できたら面白そうだな」とは思っていましたが、自分が乗れるなんて思いもしませんでした。でも、その女性に会って「私もチャレンジしてみようかな」と。パパに相談したら「できることは、何でも応援するからがんばれ」と言ってくれたのも、私の背中を押してくれました。
祐太ママ●検定で落ちることは一度もありませんでしたが、教習車の重さには苦労しましたね。「小型→中型→大型」と軽いバイクから順番に教習を進め、少しずつバイクに慣れることで何とかなりましたけれど…。走りだせばバイクの重さは気にならなくなりますが、クランクなど低速で走行しないといけないところでは、よくバランスを崩して転倒しちゃっていました。
祐太ママ●がんばって何とかつま先がつく程度でした。免許が取れてから乗ったハガーより車高は高かった気がします。足つきは不安、低速バランスも不安…教習が進み、バランス感覚が身につくまでは「私はホントにハーレーに乗れるようになるの?」と不安だらけでしたね。
祐太ママ●「なぜその歳になって、大型二輪免許が取りたいの?」と思っていたみたいです。でも、教習が進むにつれ、私の熱意が伝わったのか、みんな応援してくれるようになりました。無事に教習が終わったときには、校長先生がわざわざ部屋に招いてお茶を出してくれて私の卒業を祝ってくれたくらいです。ついに免許が取れると、約束通りパパは私にハガーを譲ってくれました。代わりにパパはXL1200Cを手に入れて、夫婦でスポーツスター生活が始まったんです。
祐太ママ●ハガーは今のXL883Lと似た車高が低い車両なんですが、さらにローダウンキットを入れて車高を下げました。それとシートも幅があったので、K&H製シングルシートに交換しましたね。これで私でも安心して乗れるようになりました。
祐太ママ●教習車のCB750より足つきはよかったですが、その代わりにはるかに重く感じました。「倒したら、絶対一人では起こせない…」と最初は不安がありました。一度走りはじめると、重さも感じなくなるんですけれどね。重さには慣れるしかありません。
祐太ママ●乗り始めて2週間くらいのときだったかな。富山から大阪まで、高速を使って走りにいきました。高速も長距離を走るのも初めて。確かに不安はありましたけれど、パパが私を気にしながらずっと前を走ってくれましたし、私は負けず嫌いなもので。誘われるがまま走りに行っちゃいました。早い時期にそんな経験ができたおかげで、バイクに慣れるのは早かった気がします。
祐太ママ●スポーツスターに乗りはじめてから、あちこちのハーレー乗りの方のWebサイトに遊びに行くようになり、全国にいろんな繋がりができはじめましたから。まだ会ったことがない人に会う目的もあって、富山から出てパパと2人でいろいろなところに走りに行きました。スポーツスターの世界では神戸や名古屋でスポーツスターミーティングが開催されていたので、そこにも遊びに行ってさらに知り合いがたくさんでるようになりましたね。その頃からですね、我が家にハーレー乗りが遊びに来るようになったのは。旅先でお世話になった方にも遊びに来てもらって、富山のいいところを案内して楽しんでいます。もし、バイクに乗っていなかったらきっと知り合えなかった人たちが遠くから我が家に遊びに来てくれる、それもバイクの魅力の1つですね。
祐太ママ●ハガーはまだ手元にありますよ。なかなか乗れませんが、手放すにはいろいろ思い出がありますから。ロードグライドに乗るきっかけになったのは、パパがウルトラに乗り換えることになったからです。それまで883以外に乗ろうと思ったことはなかったですし、ビックツインなんて無理だと思っていました。でも周りから「883でウルトラに着いていくのは、大変だよ」と言われて。パパに「ビックツインに乗ってみる? 乗ってみたいモデルはない?」と聞かれたので「ロードグライドかな」と伝えたら、またパパが動き始めてくれました(笑)。
祐太ママ●ノーマルに跨ったとき、足はまったく着きませんでした。「ハガーのように簡単に乗れるものじゃないぞ」と思ったのですが、乗れるものなら乗ってみたかったんですよね。それにパパやディーラーの方が、私が乗れるように頭を捻ってくれるのを見て、またがんばってみようと。
祐太ママ●結構大掛かりでした。ハンドルはワンオフで製作し、7cm手前に。シートはハガーのときにお世話になったK&Hさんに連絡して、私の身長でも乗れるシートがあるかの相談に乗ってもらいました。いろんな人が工夫してくれたおかげで、身長152cmの私でも乗れるロードグライドが完成しました。
祐太ママ●納車の当日にありました。ディーラーから家にはまっすぐ帰らず、パパと一緒に高速教習だったんです。パパがハガーでいつでも交代できるように走ってくれたので、不安はそれほどありませんでしたけれど。足つきとハンドルの遠さ、そこが解消されていたので、最初は無理だと思ったツアラーも何とかなっちゃいました。
祐太ママ●納車まではナイショにしていました。周りをアッと驚かせようと思っていたんです。納車後にホームページでFLTRの納車報告をしたら、メールや電話でたくさん反響がありましたよ。「うそでしょう?」みたいな反応が多くて「絶対乗りこなせるようになるから」と、やる気が湧いてきました。
祐太ママ●ハガーよりさらに重い分、急ブレーキをかけると低速でバランスが取りづらく、コケちゃうことがあります。ですから、ブレーキ操作にはさらに気を遣うようになりました。でも、コケちゃうときは踏ん張ろうとしても絶対無理なので、下手に逆らわないようにしています。せいぜい「バタっ」と勢いよくコケないようにするくらいですね。
祐太ママ●バイクの基本的な乗り方は同じだと思うので、特別に乗り方に違いはないですね。教習所で学んだ基本操作を忠実に守って運転しています。他には…停車するときは急ブレーキができないので、信号がかわるタイミングを注意して見るようにしています。停車のタイミングがわかればあらかじめシートの左側にお尻を少しずらして、足を出しやすいように余裕を持って準備できますから。ただ、ロードグライドで一人で走りに行くことはまずないですし、いつもパパが前にいてくれてブレーキやハンドサインで停車タイミングを教えてくれるので、安心して走っていますけれど。
祐太ママ●フットポジションはスポーツスターのミッドポジションの方がよかったですね。FLTRのフットボードも納車時に5cm手前に引いてもらっていたんですが、やっぱり少し遠い。しばらくはそのまま乗っていましたが、フットボードは幅広なので足を付くときにも引っかかるんです。なので、FLTRだけどスポーツスターのミッドコントロールと同じポジションにできないか、とディーラーに相談してみました。でも、そういう既製品はないらしく、ワンオフで作るしかありませんでした。たまたまパパは機械加工が好きで、パパの友人でそういう設備を持っている人がいましたから、半年くらい試行錯誤を重ねてツアラーに取り付けられるミッドコントロールを作ってもらいました。ロードグライドだけれど、フットポジションはスポーツスターと同じ。なので今のこの仕様のロードグライドのことを「スポグライド」と呼んでいます(笑)。
祐太ママ●パパが何度も試作品をテストしてはやり直していましたね。私もミッドコントロールが完成するまでの半年間、滅多にFLTRに乗ることはできませんでした。ただ、じっくり考えて製作してもらった分、私にベストなポジションが手に入りました。本当に安心して乗れるツアラーになったと思います。製作過程などはホームページで公開していますので、ツアラーに興味がある人は覗いてみてください。全国を見渡してもツアラーに乗る女性は少ないようですが、工夫しだいで乗れないわけではない。自分で身を持ってそれを実感しました。
祐太ママ●ハンドルもシートもステップも車高も、パパが毎日考えてくれてやっと出来上がったのがスポグライドです。何もかもを私に合わせて作ってくれたので、不安を感じることはほとんどありません。車重は確かに重いですが、重い分高速では安定していますし、フロントフェアリングが風を防いでくれるので長距離を走ってもハガーとは疲れが違います。それに、意外かもしれませんがロードグライドはコーナーも案外走るんですよ。スポーツスターよりカーブは曲がりやすい気がします。夫婦揃ってスポーツスターでスタートしたハーレーライフですが、今は夫婦揃ってツアラー乗り。これからも二人であちこちを走っていろんな人に出会い、見たことのない景色を楽しんで行こうと思います。
祐太ママ●本当に乗る気があるのかないのか、必要なのはそれだけだと思います。覚悟を決めれば解決方法はきっとありますから。あと、自分が欲しいと思っているバイクは本当に自分に必要なのか、どういう使い方をしたいのか、そこをじっくり考えてみてください。もしそれがツアラーだったとしても、覚悟と工夫次第で乗ることはできます。女性だからってあきらめることはありません。
女性のハーレー乗りの知り合いは多いけれど、祐太ママに限らずみんな結構タフな走りをする。男性より運転が上手い女性ライダーも珍しくない。男性のように力で誤魔化すことができない分、基本がしっかりできているのだろう。大型二輪は確かに女性が乗るには厳しい分はある、ハーレーの中でもトップクラスの重さと大きさを誇るツアラーだと、ノーマルで乗れる女性は限られてしまうだろう。けれど、覚悟次第で、カスタムなどの工夫次第で乗れないことはない。祐太ママがロードグライドで走るのを後ろから眺め、そう実感した(ターミー)。