目の前に富士山を見据える、晴れ渡った冬の休日、ツーリングの途中でインタビューに答えてくれたChiharuさん。荷物を満載した愛車「XLH1200S」を愛しそうに見つめながら話してくれたのは、大好きなツーリングや仲間の話だ。日本中を走った道にはハーレーを通して出会えた仲間との、あるいは1人で気が向くままに走ってきたそれぞれの思い出が詰まっている。この日も南アルプスでのキャンプの帰りだという彼女だが、バイクを降りればふつうの女の子。防寒着で身を包んだ笑顔あふれるChiharuさんに、大好きなハーレーライフを聞いてみた。
Chiharu●高校に入ってすぐの頃です。学校の近所にハーレーが停めてある駐輪場がありました。もう一目ぼれで、車種や年代とかはまったく分かっていませんでしたが、ハーレーだということはすぐにわかりました。それからですね、ハーレーを意識しはじめたのは。
Chiharu●自由にどこにでも走れそうで、そんな開放感に憧れていました。16歳で直ぐに免許を取りに行こうと考えていましたから。そんなときにハーレーを見てしまって。家に帰るには少し遠回りでしたが、毎日駐輪場の前を通ってハーレーを眺めていましたね。
Chiharu●いえ。ハーレーは憧れでしたが、「まだ自分が乗れるバイクではない」と考えていました。
Chiharu●教習所に中型を取りにいって400ccのバイクに乗っただけで、自分の手に余る重さでした。中型でそうですから、重たいハーレーは押すことすらできなかったでしょう。それに「外国のバイクは自分でメンテナンスできなければ駄目なんだ」と思い込んでいましたし(笑)。
Chiharu●YAMAHAの「ビラーゴ」に乗り始めました。自分でも扱える重さの250ccで、ハーレーに近い形のアメリカンを選び乗っていました。
Chiharu●自由に走れる開放感は間違いなくありましたし、どんどん走ることが楽しくなりました。250ccでしたので、それほど遠くには行けませんでしたけどね。
Chiharu●走る楽しさは教えてくれましたね。でもハーレーに対する憧れは変わらずにあって、そんなときに先輩が付き合っていた彼氏たちのキャンプに誘われたんです。そのときハーレー5台くらいと一緒に走ったのですが、まったく自分の排気音が聞こえないし、当然大きさも全然違うし…少し悔しくなりました(笑)。
Chiharu●キャンプでいろいろな話を聞かせてもらい、「絶対に乗れるよ」と励まされ、だんだんその気にはなりました。そのとき話した人たちは見た目と裏腹に非常に優しかったですね(笑)。初対面なのに私の話を真剣に聞いてくれて、本気で励ましてくれて。ハーレーを通してそういった人たちと知り合える喜びも、そのとき初めて知りました。自分もハーレーに乗ればそんな機会がもっと増えるのだろうとも考え、ハーレーへの憧れが増してきたんです。
Chiharu●免許の問題がありました。中型しか持っていなかったので。ハーレーにどんなに憧れても免許がなければどうにもなりませんから、時間がかかりましたが23歳のときに大型免許をやっと取得したんですよ。けれどやはり重たかったんですよ、教習所の750ccは。中型の時は400ccでどうにもならずに250ccにしましたけど、今度は750ccよりも大きなハーレーを目指すのですから、何度も倒れたバイクを起こす練習を繰り返しました。「ハーレーに乗るなら、このくらい起こせなければ…」とスポ根漫画みたいに(笑)。ショップに向かったのはコツを掴んで起こせるようになってからでした。
Chiharu●高校の帰りに寄り道して見ていたのはショベルヘッドだった、などハーレーのことは少しずつ勉強していて、当然ビッグツインも選択肢の中にはありました。それでもスタイリングのよさはポーツスターが一番でしたね。車重や取り回しを考えてスポーツスターに決めました。
Chiharu●イメージ通りで間違いはありませんでした。充分なパワーがありますし、峠でもカーブは楽しく曲がります。購入してからはスポーツスターを何度もコケて、今では楽に起こせるようになりました。
Chiharu●すべてが変わりました(笑)。不思議ですね。風景や感じる風が今までとはまったく違って見えましたし、初めてのキャンプで知り合った方たちから、他の仲間を紹介され、知り合いも次々に増えました。高校生のころの帰り道で眺めていたショベルヘッドのオーナーとも今は知り合いです(笑)。そんな出会いがたくさんあって、すばらしい仲間ができました。走る距離も増えてどんどん遠くまで走り、そこでまた友達ができて。そうやってそれまでの生活から何もかもが変わっていきました。
Chiharu●最初のキャンプに誘われなければ「キャンプ」自体、発想できないことだったかもしれません。近場の日帰りツーリングはしていましたけど、そこにキャンプという手段ができてもっと遠くまで走るようになりましたね。
Chiharu●安く済むトコロ(笑)。走り終わって疲れているのですが、荷物を降ろしてテントを張って焚き火をするのも楽しいですね。焚き火で料理をして、みんなでいるときは飲んで語って。一人のときはインスタントラーメンだけのときもありますけど、何度やってもワクワクしますね。
Chiharu●休みが合えば一緒に走ります。住んでいる場所がバラバラですから。昨日は南アルプスでキャンプをしたのですが、仲間とは現地で落ち合いました。帰りに一緒に走ることもあれば、自分のペースで走りたい場合は一人で走ることもあります。休みの都合で速く帰らないといけないときもありますからね。
Chiharu●ありますよ。一人でロングツーリングに行くときは、キャンプも当然一人です。
Chiharu●走ることに関しては、夜中でも怖さを感じることはないです。その先に楽しいことがまっていますから。キャンプではないのですが、ライダースハウスでその日の泊り客が私と、見知らぬ男性だけのときがありました。もちろん寝る部屋は別々で鍵も掛かったのですが、夜中にその男性が私の部屋を一所懸命開けようとしているんです。そのときは怖かったですね。
Chiharu●お風呂に入れないとか、トイレが遠いなどの些細なことならありますが、それ以上に楽しいことのほうが多いですよ。キャンプ場で知り合い友達になった人もたくさんいますし、北海道ではラーメン屋さんで地元の方に話しかけられ、泊めてもらったこともあります。怖いことに対する最低限の対処は必要でしょうけど、マイナスを考えるよりプラスを考えた方が楽しいですからね。
Chiharu●それはもう北海道です(笑)。どこを走っても楽しいんですが、本当に素敵な場所です。
Chiharu●本州にはない真直ぐな道。空や大地を広く見渡せ、地球が丸く感じられる。鼓動を感じながら流れていく風景…ハーレーでしか味わえないモノがあります。ハーレーに最高の環境があり、食べ物も美味しい。賑やかなキャンプ場があれば、湖の湖畔に一人だけというところもある。走った場所の一つ一つが鮮やかに思い出せる場所です。
Chiharu●北海道はまた行ってみたいですね。でも、まだ走ったことのない土地にも行ってみたい…。こうして話していて気付いたのですが、思い出に残る場所にはいつもスポーツスターで走って行っていますね。だから「どこを走るのか」も大事ですけれど、スポーツスターで走ることの方が私にとっては大事なことなのかもしれません。スポーツスターに乗ってどこかに向かえば、そこには大切な思い出が待っていてくれる気がします。
Chiharu●ハイ。手放すつもりはありません。できる限り乗っていきたいですね。
Chiharu●本当に素晴らしいモノですから、是非乗ってアチコチを走り回ってみてください。楽しくて素敵で。きっと今までと違った何かを感じられますよ。自信をもってお勧めします(笑)。ハーレーとは乗り物の様で生き物みたいで、いろいろなことを学ばせてくれる不思議なモノです。
笑いが絶えなかったChiharuさんへのインタビュー。前日は一人で夜道を6時間走って仲間が待つキャンプ場へ向い、到着したのは真夜中だったとか。言葉だけではなく、本当にスポーツスターが好きで、走ることが好きなことは少し話を聞くだけで伝わってくる。女の子だから、目には見えないそんな思いを感じることもあるし、女の子ならではの危険を感じることもあるであろう。それでも楽しむことを忘れずに、今までの経験を糧に変えている。明るさが夕陽に変わる富士山の麓で共にキャンプをしたChiharuさん。これから群馬に帰る頃にはまた真夜中になるのであろうが、仲間たちとの時間を大切にしている。静岡、神奈川、東京、集まった仲間たちもばらばらの方向へ向う。手を振り合って、再会を誓い赤く染まる空の下を走り出す。彼女の目に映る夕陽も同じ赤なのだろうが、大好きなスポーツスターというフィルターを通せば、何倍も綺麗に見えているのかもしれない。(大森 茂幸)