ここ10年ほどのハーレーのラインナップに詳しい人ならばご存知であろう、このアイアン883は元々ファクトリーカスタムモデルとしてデビューした過去を持つ。かつてスタンダードモデルと呼ばれていたのはXL883というスポーツスター(2010年にカタログ落ち)で、そのXL883と入れ替わるように現れたのがアイアン883だった。
フロント19/リア16インチホイールにスポーツスタータンク、39mmナローフォークと、アイアン883と同じディテールを備えながら、単色カラーでスポーツバイクらしく前後サスペンションがしっかりとした長さを保っていたXL883。つまり、アイアン883は「ブラックアウト」「ロースタイル」を取り入れたXL883のファクトリーカスタムという位置付けだったのだ。
そのXL883に続いてXL883L(現在のスーパーローとは異なるモデル)、XL1200R、XL1200L、XL1200Nナイトスターなどが姿を消し、そして2014年を最後にXL883Rがカタログ落ち。気がつけば、スポーツスタータンクを有するモデルはアイアン883だけとなっていた。昔馴染みのハーレー乗りにしてみれば、アイアン883をスタンダードと呼ぶことに違和感を覚えるところだが、往年のスポーツスタースタイルを残すのはこのモデルをおいて他にない。
「ダークカスタム」をテーマに掲げるハーレーダビッドソンにおいて、アイアン883はその申し子とも言える存在だろう。メーカーが手をかけたファクトリーカスタムモデルではなく、無垢なモデルをどう自分色に染めていくかと夢想することが、ハーレーに乗るうえでの大きな愉しみである「カスタム」の本質が詰まっているからだ。最初からエンジンやディテールがブラックアウトしているアイアン883ならば、黒を基調に一層ダーティなスタイルへと昇華させられる最適なベースモデルでもある。
そのアイアン883は、2016年式より大幅にバージョンアップした。フォーティーエイトもセットで手がけられたのだが、このアイアン883はハーレー本社に所属する日本人デザイナー ダイス・ナガオ氏が責任者となってプロデュースしたもの。「もっとファッショナブルに、もっとスポーツライドを楽しめるように」と、前後サスペンションをグレードアップ(フロントはシングルカートリッジ方式に、リアはプレミアムライドサスペンションに変更)し、さらにホイールもカッティングがキラリと光る9スポークに。さらにシートもタックロール型とし、タンクにはアメリカの象徴たるハクトウワシをあしらった。ヨーロッパ勢から「(XL883Rのように)ダブルディスクブレーキにしてほしい」との要望があったが、「ホイールの美しさを見せるため、シングルディスクのままとした」と打ち明けてくれた。
「このモデルは、スポーツスター本来のシルエットを継承する貴重なもの。先代デザイナーらに敬意を表するという意味でも、基本的なスタイルはそのままに、より楽しくハーレーを乗り回せるようにしたかった」(ダイス・ナガオ)
2017年モデルからはスプロケットもU.S.仕様のライトなタイプとなり、さらに走りへの期待値が高まったアイアン883。それでは改めて、試乗インプレッションへと挑んでみよう。