思い返してみるに、そのデビューは鮮烈だった。今でこそハーレーのニューモデルの発表は全世界同時となっているが、日本に上陸する半年も前のデイトナバイクウィーク(アメリカ・フロリダ州)で突如姿を現したフォーティーエイトは、オーディエンス注目の的となったことはもちろん、ネットを介してあっというまに世界中へと広まっていき、フォーティーエイトはファンの関心を大いに引き寄せた。
それまでフロント19 / リア16インチというホイールサイズが標準とされていたスポーツスターモデルに、FLスタイルである前後16インチホイールがフォーティーエイトには投入されたのだ。そこにカスタムバイクを彷彿させる分厚いタイヤが備わり、ハーレー乗りにとっては馴染み深くも”スポーツスター”を前提とすると違和感とも言えるシルエットが誕生した。
そして、オールドファンにとっては懐かしく、新規ファンには斬新にも映ったピーナッツタンクがラバーマウントモデルでついに復活。そのピーナッツタンク初投入となった1948年モデル「S-125」の年号から「フォーティーエイト」と名付けられ、2010年夏、ついに日本の地を踏んだ。
排気量1,201ccのエボリューションエンジンを搭載したフォーティーエイトは、フットポジションをフォワードコントロールとし、さらにテールランプ一体型ウインカー & ボブフェンダーによるリアエンドと、当時からカンパニーが精力的に取り組んでいた「ファクトリーカスタムモデル」の急先鋒にふさわしいスタイルを与えられていた。フォーティーエイトはともすれば「カスタムなど不要」とでも言わんばかりの完成度を誇っていたとも言える。
フォーティーエイトのスタイルそのものは、1960年代アメリカで一世を風靡したビンテージレーサースタイル「ボバー」である。現在のFLS ソフテイルスリムやFLSTNソフテイルデラックスなどに継承されている前後16インチホイールから成る「FLスタイル」は、往年のハーレーにとっては標準的な設計だった。リアサスペンションという概念がなかった当時のフレーム「リジッドフレーム」は過去の遺物となり、そんな古き良き時代を思ってこのホイールサイズをスポーツスターに導入するカスタムショップがいくつか現れはしたが、まさかこの手入れをカンパニーがやるとは想像だにしなかった。
そのうえでの、マシン全体のシルエットの美しさである。今思い返しても、フォーティーエイトが与えた衝撃の大きさは当然のものと言えた。日本のメーカーがどれだけアイディアを絞っても、こんなモデルは生み出せない。なぜならば、フォーティーエイトは日本にはないカルチャーから生まれた発想の権化でもあるからだ。
カスタムされ尽くした感があるフォーティーエイトだったが、2016年、アイアン883とともにマイナーチェンジを敢行。その前年に登場したオプション扱いのプレミアムライドエマルジョンサスペンションが標準装備となり、フロントフォークも現ダイナモデルと同径となる49mmサイズのものが付与された。真新しいデザインの9スポークホイールにソロシートまで手に入れたニューフォーティーエイトは、ライディングパフォーマンスの向上を目的に大幅なバージョンアップをはたしたのだ。
一長一短あるとも言われるフォーティーエイト、そのキャラクターは濃さを増したのか否か。改めて潜在能力を探るべく、走り出してみた。