ロー&ロングスタイルに21インチのフロントホイール、そしてVロッドかと思わされる戦闘的なライディングポジションと、進化系ハーレーダビッドソンと形容して差し支えないスタイルを有するブレイクアウト。今や唯一のFXソフテイルとなった同モデルは過去に何度かインプレッションを行ってきたが、2016年モデル時のエンジン変更(ツインカム96B → ツインカム103B)は同サイト初である。元々荒々しかったそのライドフィールがどう変わったか、改めて街へと駆け出してみた。
ハーレーダビッドソンの歴史においてソフテイルがはたしている役割は大きい。最大の特徴は一見するとリアサスペンションを持たないように見える三角形のシルエットが印象的なフレーム構造「ソフテイルフレーム」に他ならない。実際にはフレーム下部に専用のサスペンションシステムが内蔵されており、外側から見えるトライアングルはさしずめスイングアームと言ったところか。
このトライアングルなくして、ソフテイルは語れない。というのも、この形状は1903年に創業したハーレーダビッドソンが1950年代まで採用していた当時のノンサスペンションフレーム構造「リジッドフレーム」に由来するからだ。今でこそ「モノショック」「ツインショック」と言ったリアサスペンションありきのフレーム構造が当たり前となっているモーターサイクルだが、まだリアサスペンションという発想がなく、しかも未舗装の道路が多かったアメリカでは走行時に加わる衝撃の大きさから「ハードテイル」(ハードな衝撃をもたらす尾っぽ)とも呼ばれた。
1984年、「かつてのリジッドフレームのシルエットを蘇らせよう」と生み出されたのがこのソフテイルフレーム、そしてFXST ソフテイルだった。ソフテイルの呼び名は、サスペンション内蔵のリジッド型フレームを「ソフトテイル」(柔らかい尾っぽ)と呼んだことと言われている。以来、ブラッシュアップを重ねつつもソフテイルフレームのシルエットは変わることなく、30年以上の歴史を刻んできている。
そのソフテイルファミリーは大きく2タイプに分かれる。前後16インチ(もしくは17インチ)の「FLソフテイル」と、21インチ(もしくは19インチ)のフロントホイールを備えるカスタムタイプの「FXソフテイル」だ。FLS ソフテイルスリムやFLSTN ソフテイルデラックスら ずらりと揃うFLに対し、現ラインナップでFXソフテイルはこのFXSB ブレイクアウトのみ。言うなれば、初のソフテイルモデルであるFXST ソフテイルの伝統を受け継ぐ唯一のモデルとも言えるわけだ。
前方に突き出した21インチホイールとロー&ロングというカスタムスタイル、そしてフューエルタンクからリアエンドにかけて描かれる流麗なシルエットはまさにFXならでは。それでいて、240mmものリアタイヤにドラッグバー、フォワードコントロールステップと、そのキャラクターはアメリカンマッスルカーのようなインパクトあるモダン仕様となっている。これぞ21世紀仕様のFXソフテイルと言えよう。
2016年モデルより、ソフテイルファミリーは全モデルとも「ツインカム103Bエンジン」にバージョンアップすることとなった。フレームやサスペンションシステムはもちろん、モデルそれぞれの変更はなし。つまり、エンジンのみのパワーアップが図られたわけだ。
1,690ccという排気量とパワーは、今のソフテイルに必要なものなのか。そしてそのパワーを得たブレイクアウトは、以前のツインカム96Bと異なる挙動となっているのか。
650mmというシート高から、またがった際のフットポジションは膝が曲がってのベタ足と、まったく悪くない。それも身長174cmという筆者の身長によるもので、シートが幅広なことからどうしてもガニ股になってしまう。身長が低くなればなるほど、カカトが浮き気味になるものと思われる。
そのシート高から車体そのものもロースタイルになっており、カスタムバイクの王道スタイル「ロー&ロング」を実現しているが、ライディングに直接関わるホイール軸間距離(ホイールベース)は1,630mmと、他ラインナップされるモデルと見比べるとさほど長い方ではない。最長はワイドグライド(1,730mm)で、ナイトロッドスペシャルやマッスルより短いのはもとより、ソフテイルスリムやファットボーイ(ともに1,635mm)の方がスペック上やや長いのだ。このブレイクアウト、実は思いのほかコンパクトにまとめられている。
ドラッグバーにフォワードコントロールという組み合わせから、ライディングポジションは「くの字」を描くスタイルに。スピードが上がれば必然的に体を伏せるようになり、バイクにしがみつくようなフォルムとなる。ステップをしっかり踏ん張れないのはデメリットとも言えるが、ワイドグライドやVロッドモデルに比べるとフットポジションはそれほどワイドではないので、着座位置をやや前目にできるシートを採用することでポジション調整は可能だろう。
一文字型のドラッグバーも、その名だけ聞けばハンドリングに難がありそうに思えるが、実際はネーミング以上に幅広でゆとりあるポジションが印象的な仕様に。こう言うと身も蓋もないが、ブレイクアウトに合わせた操り方が身につけばコントロールは難しくないだろう。
コントロールという点で言えば、他モデルに比べて操りにくくなっている大きなポイントがリアタイヤ幅だろう。240mmというタイヤ幅は他メーカーモデルはもちろん、ハーレーのラインナップ中でもっとも太く、その幅から接地面が広く直進安定性に秀でている一方、コーナリングではバイクをバンクさせづらくしている。そのインパクトあるリアエンドこそブレイクアウトの見どころなので「乗り味は二の次」と、大らかな心でとらえて乗るのがいいだろう。
そこで、「ツインカム103B」である。一長一短がはっきりしたブレイクアウトゆえに、エンジンのパワーアップはそれぞれの特徴をさらに尖らせることになるのでは、という懸念があった。
予想はある意味的中した。高速道路でのスピードライドでは、その驚異的なパワーでぐんぐんとスピードアップしていき、日本の速度制限を考えると6速ミッションを使うことはまずないのでは? というほどの力強い疾走感を味わわせてくれた。以前ツインカム96Bのブレイクアウトに試乗したことがあるが、そのパワフルさは比ではない。2015年以前のブレイクアウト・オーナーが試乗したら、歯ぎしりするのではと思えるほどだ。
そのパワーはデメリットにも大きく左右する。大雑把な操り方でもリカバリー可能なスポーツバイクやクルーザーと違い、踏ん張りが利かず重量もあるブレイクアウトはコーナーをクリアする際にはある程度の操作手順をしっかり入力することを求められる。ツインカム103B化はそうした繊細なコントロールをさらに難しくした感が否めない。慣れていないとパワーが出すぎてしまい、油断すると胆を冷やすシーンに出くわす可能性もある、ということだ。
「パワーアップしたならフロントブレーキもダブルディスク化しては」と思うところだが、それを実現しているのがCVO プロストリート ブレイクアウトということなのだろう。しかし、こちらはこちらで倒立フロントフォークとの組み合わせからハンドリングが相当に重くなってしまっている。これまた一長一短あるところか。
身長180cm以上あるライダーなら、それなりにライディングを楽しみながら乗り回す楽しさを感じられるだろう。逆に筆者よりも身長が低い人だと、そのポジションから安定させることに力を注がねばならず、ロングツーリングにでも出かけようものなら帰路に着く頃にはドッと疲れを覚えるに違いない。やはりブレイクアウトはアメリカ人のためのバイクだと言える。