ソフテイルなのに、スポーティ。ツインカム96Bエンジンでデビューしたスリムの第一印象がこれだった。デラックスやファットボーイのイメージが強かったからか、ソフテイルモデルというだけで重量級と思い込んでいた先入観をあっさりと吹き飛ばしてくれた一台だった。
単に重量だけで見れば、スポーツスターはもちろんダイナモデルの方が断然軽い(それでも200kg台だが)。フレームだってスポーツライドに寄せたツインショック構造の2ファミリーに勝るわけがない。それでもスリムに乗って「スポーティだ」と思わせられたのは、オフロードバイクを思わせるハリウッドハンドルバーや前後16インチホイールから成る FL スタイルであることに加え、スポーツスターモデルと同じ150mmというリアタイヤ幅にも秘密があるだろう。
同じ150mmのソフテイルデラックスを除いて、他のソフテイルモデルはいずれも180mm以上の幅を持つリアタイヤを備える。ひとえに直進安定性を狙ったもので、翻って150mmリアタイヤがスリムに採用されているわけは、ボバースタイルを忠実に再現しつつ、その軽量モデルの旋回性を味わってもらおうというカンパニーの意図とも言えよう。
そんなスポーツソフテイルに、ツインカム103Bエンジンがさらなるパワーをもたらすわけだ。いざ走り出してみたところ……「できればダブルディスクブレーキにして欲しかった」と思わずにはいられない、持て余すパワーを制御するのに苦労するモデルに仕上げられていた。
スロットルをひねれば、ツインカム103Bエンジンが唸りを上げ、軽いといっても321kgもあるスリムの重さを微塵も感じさせないほどの勢いで吹っ飛ばしてゆく。3速で時速80kmを軽く超えていくので、タウンユースでここまで入れることはまずない。高速道路でも、最大6速まで入れると法定速度を軽く超えてしまうほどだ。これでインジェクションチューニングなんかかけたら、一体どうなることやら。かといってノーマルのままももったいない……などと思わされるマシンだ。
パワーが有り余っているがゆえ、制御も容易ではない。スピードに乗った状態でギアを落とし、エンジンブレーキをかけて制動しようとすると、そのストッピングパワーが大きすぎたのか行き場を失い、ホイールスピンを起こしてしまうことも。乗り手の感覚で言うと、ケツが振れるのである。決して安定感を失うほどの振れではないが、これが雨天時などのウェットコンディションでやると、ドキッとするだけでは済まないのでは、などと思ってしまう。
我々日本人より体が大きい欧米人なら、このサイズ感とパワーであっても、ある程度コントロールすることは難しくないだろう。しかし、バイクに乗り慣れていない日本人という目線から見たツインカム103Bのスリムは、じゃじゃ馬以外の何物でもない。
ウルトラをはじめとするツーリングファミリーの重量級モデルを苦もなく走らせるためのエンジンとして生み出されたツインカム103(スリムにはバランサー付きのツインカム103Bを搭載)だが、スリムに搭載されたことで、その性能がどれほど凶暴なものか証明されたという印象だ。マシンそのものがコントローラブルであるだけに、このハイパワーエンジンとどう付き合っていくのか。スリム購入を検討するオーナーにもっとも考えて欲しいのはこの一点だ。