ソフテイルスリム(以下スリム)のデビューは2012年、中間期モデルとしての登場だった。同タイミングでスポーツスター XL1200V セブンティーツー(現在カタログ落ち)も現れ、「ボバー & チョッパー」というハーレーの伝統とも言えるカスタムスタイルを踏襲した2モデルのラインナップ入りは、カンパニーが推し進めるファクトリーカスタムモデルの強化を感じさせるものと言えた。
前後16インチのスポークホイールに油圧式フロントフォーク、大きなヘッドライト & ナセル、ビッグタンクからリアエンドにかけて形成される無駄のないシルエットと、文句のつけようがない FL レーサー「ボバー」そのものを体現している。ヘリテイジソフテイルクラシック、ソフテイルクラシック、ファットボーイ & ファットボーイローと、どちらかと言えば重量級というイメージが強かった FL のラインナップに、まったく真逆のネイキッドスタイルで現れた新星がこのスリムなのだ。
その性質は数値にも表れている。装備が多いヘリテイジ(347kg)やディッシュホイールを備えるファットボーイ(333kg)はともかく、デラックスの333kgをはるかに下回る321kgという重量は特筆モノだ。
300kgオーバーのモデルでスポーツする……日本人にとってのベーシックなバイクライフには生まれ得ない価値観ではあるが、半世紀前から現代にかけてのアメリカでは至って当たり前のハーレーライフとして存在し続けてきたものでもある。そう、かつてはリジッドフレームにVツインエンジンを載せた FL モデル(前後16インチ & 油圧式フロントフォーク)でレースをしていたのだから。それがこのスリムが体現する「ボバー」なのだ。
タンクグラフィックが単色ばかりなのも、ボバーの原点である1950年代の世界観を踏襲してのもの。1970年代チョッパーの再現とも言えるセブンティーツーなどに配されるハードキャンディーカスタムと比べるといささか地味にも見えるが、シンプルであるがゆえにカスタムグラフィックが映えようというもの。そう、スリムはオーナーに対してオリジナリティを求めてくるモデルとも言える。
2016年モデルより、ソフテイルモデルはすべてエンジンがツインカム96Bから103Bへとスープアップ。そこで気になるのが、「ツインカム103Bエンジンとソフテイルの既存構造との相性」だ。排気量は1,584ccから1,689ccへと変わり、そのパワーを各モデルがどう受け止めるのか。とりわけスリムはもっとも軽量なモデルなので、よりエンジンのパワーをダイレクトに反映させる存在と言えよう。
どちらかと言えばストリートユースを主眼に置くスリムのツインカム103Bについて、是か否か問うべく、実走を試みた。