2014年の『プロジェクトラッシュモア』にて大幅な進化を遂げたウルトラリミテッドだが、2017年モデルでは完全新作エンジン『ツインクールドミルウォーキーエイト107』を搭載。排ガス規制の世界基準「EURO4」に対応するのはもちろん、排気量を拡大しVツインエンジン本来の性能を最大限に引き出すことに成功している。バッドウイングフェアリングやロワーフェアリングといった充実のツーリング装備、前後とも連動するブレーキングシステム、ハンドリングを軽快にする高剛性フレームと、最高のエンジンを生かす骨格を持ち合わせた最新鋭のメガクルーザー。いち早く渡米し、ワシントン州西端のオリンピック半島にてテストライドをおこなった。
ひと目でハーレーダビッドソンだと分かるバッドウイングフェアリングをハンドルマウントし、その重さが操作系に影響しないようフロント17インチ、レイク角26度の熟成され尽くしたディメンションで対応。見た目では想像がつかぬほどワインディングでも軽快に走り、今回パワーアップされたVツインエンジンで、その走りにますます磨きをかけた。
4バルブ化によって「スムーズで軽やかになるばかりで、味気ないものになってしまったのかも……」と、試乗前は不安に思ったが、その心配は無用だった。昔ながらのハーレーVツインらしさがあり、ドコドコとした鼓動感に満ちたエンジンとなっている。全域でトルクが太くなって、より力強いパワーフィールを得ているが、45度Vツインならではの不等間隔爆発による心地良さを取り戻している。ツインカムをエボリューション以前のシングルカムにし、フライホイールを新設計して慣性を増したことによる影響だろう。
新生ミルウォーキーエイトエンジンには、ツインカム時代同様にシリンダーヘッドの排気バルブまわりに冷却のためのウォーターラインを持つツインクールド式も設定。ロワーフェアリングを持つウルトラ仕様に採用され、このウルトラリミテッドはその筆頭だ。
バットウイングフェアリングにLED式のヘッドライトや補助灯、大容量の積載量を誇るツアーパックなどを装備した威風堂々のスタイルは、フラッグシップモデルならでは。クオリティの高い外装のペイントも目を見張るものがある。
バリエーションモデルとしてサスペンションストロークを短くし、専用シートなどで足つき性を重視したウルトラリミテッドローもラインナップされるが、6段階調整機構付きのグリップヒーターはこのスタンダードにしかない。ハンドルグリップも太いインチ径のしっかりとしたものが用いられ、パッセンジャー用フットレストもコチラの方が大きい。
こちらはサスペンションをロープロファイル化し、専用シートによって足着き性をさらに向上させたウルトラ リミテッド ロー。堂々たるスタイルや装備内容はリミテッド同様だが、グリップヒーターは未搭載。グリップも握りが細く、手の小さい人でも操作しやすい。
当然、コンフォート性に長け、これぞ King of Highway と呼ばれるフラッグシップモデルに相応しいクルージング力。ロングライドでも疲れ知らずの大陸横断ツアラーだ。
前後サスペンションの一新で身のこなしが軽くなった。初期荷重ではしなやかに動き、路面を丁寧に追従し、負荷がかかるストロークの奥ではしっかりと踏ん張ってくれる。足まわりの強化は高速巡航での安心感向上だけでなく、ワインディングでも軽快な走りをもたらした。
8月下旬に発表されて以来、待ちに待ったファーストライドの機会。それは9月に入って間もない、アメリカ・ワシントン州タコマで開かれたメディア向け試乗会で得ることができた。ミルウォーキーエイト搭載車の実車を目の当たりにしてまず感じたのは、車体サイズに変更はなく、全体のムードはツインカム時代とほとんど変わらないこと。「一段とデカくなるのでは……」と懸念していたが、その点においてはひとまず安心だ。
跨ると足着き性が大幅に良くなっていることに気付く。プライマリーチェーンケースの出っ張りが少なくなっていて、カバーだけでなくケース自体も薄くなっている。左足が地面へ出しやすい。そして、エアクリーナーケースも張り出しがなくなっていて収まりが良い。燃料タンクを両膝でしっかりニーグリップできるから、加速時や減速時に安定感が増しライディングの次元を上げてくれる。
日本導入モデルは2017年式から、ヨーロッパ仕様に準ずることとなった。排気音がより元気になり、歯切れの良いサウンドが楽しめるはず。今回試乗したのは北米仕様で、音量規制の兼ね合いからエキゾーストノートがより元気だった。
始動がスムーズなのはセルモーターの強化によるもの。アイドリングが850回転と低く落ち着き、心地が良いのも報告しておかなければならない。ギアを入れ走り出すと、低中速トルクがさらに力強く、あっという間にクルージングスピードに達する。4バルブ化によってスムーズさばかりが際立ち、ドコドコとした鼓動感が影を潜めるのではないかと試乗前は不安に思ったが心配無用。1カム化、フライホイールの再設計、低回転化などさまざまな角度からのアプローチで、ハーレーのビッグツインらしさは健在どころか、エボリューション以前のようなテイスティなものを取り戻しているといっても過言ではないだろう。ハイウェイに上がると、頬が緩んだ。
より足着き性を向上させたウルトラ リミテッド ロー。シート高はスタンダードのウルトラリミテッドが740mm、ローが675mmと65mmほど低く、コンパクトなライディングポジションとなるようハンドルもプルバックされている。
身長175cmのテスターが乗った場合、ウルトラ リミテッド ローなら両足カカトまでベッタリ地面に届く。重量感のあるウルトラリミテッドで、この足着き性の良さは取り回し時に安心感が増し、ありがたい。しかし乗り心地の良さはスタンダードが上。どちらを選ぶかは乗り手次第だ。