ちょっとした縁あって、筆者宅に2017年モデルのロードキングを預かっていたことから、両者のポジションを比べる機会に恵まれた。身長174cmの筆者だと、どちらのモデルとも足つきに大差はない。スペックを見比べると、695mmのスペシャルに対してロードキングは705mmとある。この身長だと、1センチ差はあまり感じないようだ。ホイールサイズが変更(ロードキング:F17 / R16、スペシャル:F19 / R18)している分、スペシャルの車高が高いものと思っていたのだが、カスタムスタイルに合わせてしっかりローダウンしているということか。
ハンドル位置は、スペシャルの方が遠い。プルバック型のロードキングと比べれば当然の結果ではあるが、両腕はほぼ伸びきった状態になり、ゆったりと背筋を伸ばして流すベースモデルと違ってやや前屈気味なポジションを強いられる。バガーというストリートバイクとしてのキャラゆえか、それでいてシート位置やステップボードがノーマルとほとんど変わらないことから、ロードキングに乗り慣れている人にとっては違和感と思えるやもしれない。
そしてこのハンドルポジションによって、ライディングフォームそのものが大きく変わっている。グリップ位置が遠いがゆえに、まるでスポーツバイクのような前屈姿勢でライディングを楽しむというまったく異なるロードキングの楽しみ方を秘めている。
一方、狭い状況でのUターンなどでは反対側の腕が突っ張ってしまい、取り回しに苦労することがありそうだ。フル装備仕様のベースモデルより約24kgも軽いが、それでも車重は355kgである。購入を検討される方はハンドルポジションをご確認いただきたい。
そうしてポジションを確認し終えたところで、発進してみると……やはりというべきか、初速が恐ろしく速い。正直、ハーレーとは思えない出だしの良さである。ミルウォーキーエイト仕様のストリートグライドに試乗したことがあるが、20kg以上も軽いスペシャルでのそれはまるで別物。一速での発進だけで、ミルウォーキーエイトのパフォーマンスを改めて思い知らされたようだ。
バガースタイルというコンセプトに則って、東京都内で走りこんでみることに。結果、それなりの流れに乗った一般道に加え、車の流れに合わせた渋滞が激しい環七通りと、あらゆるシチュエーションでのテストを行うことができた。
ストリートバイクとして乗りこなせるのは、相当の手練れに限られる。これが東京都内での試乗の感想だ。それぐらい、ロードキングスペシャルを乗りこなすのは容易ではないのだ。
これはミルウォーキーエイトの力によるところが大きいが、初速が速く、流れに乗った一般道でなら2速パーシャルで十分引っ張っていける。実際、3速に入れて走ったのはほんの数回で、4速に入れることは一度もなかった。それぐらいエンジン性能が高いわけだが、逆に言えば大いに持て余しているとも言えるのだ。
渋滞のなかに飛び込むと、そのキャラクターが一層顕著に表れる。グンっ!と勢いよく飛び出そうとするマシンをしっかり制御せねば、前のクルマに追突しかねない。355kgという車重を支えつつ、エンジンのパワーに振り回されないようコントロールするのは容易ではないし、時間が長引けば長引くほどライディングが辛くなってくる。極端なシチュエーションではあるが、世界屈指の渋滞都市とも言われる東京都内でのテストは、良くも悪くもロードキングスペシャルの性質を浮き彫りにしたように思えた。
翻ってハイウェイライドに持ち込むと、ロードキングスペシャルは持ち前の力強さでグングン高速域へと到達してくれる。フロント19 / リア18インチ化によって直進安定性はもちろん、スポーツバイクのようなコーナリング性能まで手に入れていたのだ。事実、タイトコーナーでかなり深めにバンクしても、ステップボードをこすることは一度もなかった。
一方、2時間近くロングライドしていると、その独特のハンドルポジションゆえか腕が疲れてくることも。これはハンドルだけでなく、フロントまわり全体の組み合わせによるところかもしれない。その点を見比べれば、プルバック型のロードキングは確かにツーリング向けとなっているわけだ。
スポーツバイクのようなフットワークと軽量化をはたしたとはいえ、私たち日本人にとってこのサイズ感のバイクはメガクルーザーに他ならない。それでもあえてロードキングスペシャルを選ぶとするなら、オーナー自身がバガースタイル、もしくはアメリカンカルチャーというものに強い憧憬の念を抱いていることが求められるように思えた。そんなことを考えながら、濃密なロードキングスペシャルの試乗を終えた。