今やすべてのモデルがローダウン仕様となっているスポーツスターファミリーのなかで、ローモデルの原点とも言える存在が不動のベストセラーモデルとして知られるこのXL883Lだ。元々は現在のXL883N アイアンに近しいスタイルだったが、2011年のマイナーチェンジによってタンクからホイールサイズなどその姿を大幅に変えることに。装いを新たにしたXL883L スーパーロー(以下スーパーロー)が狙う世界観とはどんなものなのか。そのヒストリーを振り返るとともに、未知なるスーパーローの楽しみ方を追求していこう。
ハーレーダビッドソンそのものの歴史に精通している人にとって、ローダウン仕様がハーレーのアイデンティティのひとつであることに疑いの余地はないだろう。そのスタイルから足つきの良さがクローズアップされるが、そもそもは”ロー&ロング”と呼ばれるカスタムバイクの黄金比から生まれたという経緯がある。最たる存在が1977年に生まれたショベルヘッドエンジン搭載のFXS ローライダーで、スポーツスターにその流れが入るようになったのは、1987年に限定モデルとして登場し、翌年から標準モデルとなったXLH883ハガーからだ。当時のハガーのシート高は679ミリと、このスーパーローの705ミリよりさらに低い。その背景には、スポーツスターを支持する女性ライダーの多さがあったと言われる。
その足つきの良さから市民権を得たハガーは、そこからレギュラーモデルに定着。そして、フルモデルチェンジをはたしたスポーツスターファミリーでその系譜を受け継いだのが、2005年に登場したXL883Lだ。このときのXL883Lは、オーソドックスなスポーツスターモデルであるXL883の前後を短くした仕様で、フロント19インチ/リア16インチに容量12.5リットルのスポーツスタータンク、ナローフォークと、今でいうところのXL883N アイアンそのものだった。フルモデルチェンジによるラバーマウント化で車格が大きくなり、重量も20キロ近くアップしたことから、XL883Lは女性を中心としたライダーに一層支持されるモデルとして注目を集めた。
2005年から2010年にかけて君臨した不動の人気モデルだったが、2011年、XL1200X フォーティーエイトがデビューした同年にマイナーチェンジを敢行。タイヤサイズはフロント18インチ/リア17インチとなり、フューエルタンクは容量17リットルのワイドモデルへと変更。そしてスーパーローの名が冠され、前年までのLとの差別化が図られた。また今年(2016年)はスポーツスター全モデル共通として、前後にプレミアムサスペンションが搭載された。
スーパーローというネーミングから、スポーツスター全モデル中でもっとも低い仕様と思われるやもしれないが、スペック表を見比べるとそうではないことに気づく。まずマイナーチェンジした2011年式と2012年式は643ミリとなっており、2010年以前の641ミリより2ミリ高くなっているのだ。しかも、2013~2014年式は695ミリ、2015~2016年式は705ミリと、少しずつ高くなってきている。よくよく見比べると、2011年と2016年では全長/全幅/全高、レイク角まで変わっている。前後サスペンションの変更による影響かと思われたが、それだとホイールベースが変わってくるはずながら、そこは1,500ミリから変化なし。全長をはじめ全体的にサイズアップしているので、ホイールもしくはタイヤが変わったのか? とも思ったが、前後タイヤが変わったという発表はない。メーカーからの情報がないためこれ以上は言及しようがないが、[2011~2012年式:643ミリ][2013~2014年式:695ミリ][2015~2016年式:705ミリ]と、2年ごとにサイズが大きくなっているようなので、よりコンパクトなサイズを希望される未来のオーナーは、初期モデルの中古車を探されると良いだろう。
本題に戻ろう。その名ほどローダウン仕様というわけでもなく、フロント18インチ/リア17インチという今までのスポーツスターになかったサイズの足まわりを持つスーパーローには、「一体何を目指したモデルなのだろう」という疑問が残る。やや幅広なフロントホイール&タイヤの採用から、フロントフォーク幅を広げねばならず、専用のトリプルツリーを作ることとなっているわけだが、スポーツスターらしさでもあるナローフォークを放棄したことで、”らしさ”はほぼ消え失せたと言っていい。スーパーローを選ぶ理由、スーパーローでなければいけない理由は、どこにあるだろうか。それを探るべく、早速試乗へと進んでいこう。
跨ってみた際にまず感じるのは、独特のポジションを生むハンドルバーとシートだ。まずハンドルだが、アップ気味のプルバック型となっており、両腕が持ち上げられつつも前方に突き出すほどにはなっていないニュートラルな仕様とされる。ミニエイプのXL1200V セブンティーツーやもっともニュートラルなXL883N アイアンと比べてみると、スーパーローがいずれでもないポジションになっていることがわかるだろう。
それは専用のソロシートにも言えることで、かなり鋭角なデザインながら、体が後方にずれないための設計になっていることが伺える。シート厚も足つきを考慮したギリギリの厚みにしつつ、プレミアムサスペンションとともにライダーへの衝撃を緩和する性能を残しているよう。アンコ抜き(足つき性を高めるため、シート内部の素材を削ってさらに薄くすること)をすれば705ミリというシート高がさらに低くはなるが、衝撃を和らげるクッションとしての性能はレベルダウンしてしまうだろう。
走り出して気づくのが、グリップの細さだ。これは2015年式のFXDL ローライダーやXG750 ストリート750にも見られるハーレーのグローバル戦略の一環で、アジアをはじめとする小柄な体格の人でも握り込みやすい細身仕様のグリップがこのスーパーローにも採用されていた。ハンドルバーそのものは従来のインチサイズで、スイッチボックスにも変更がなかったので、スロットルボディが細身の設計となっている模様。ぜひとも他のモデルにも取り入れてほしい部位である。
エンジンフィーリングの良さも重要なポイントだ。2016年版のXL883N アイアンでも感じたのだが、2007年から採用されているフューエルインジェクション機能の日本向けセッティングは年々精度を高めており、この2016年版は昨年以上に良くなっているのだ。このスーパーローも例に漏れず、昨年モデルまではスロットルを捻ってもスカスカした印象があったポイントでも、エンジンフィーリングがしっかり体に伝わってくる加速感を心地よく味わえるレベルになっていた。だからこそ、日本仕様のノーマルマフラーのままであることが逆に残念とも言える。燃費が向上するという点からも、未来のオーナーにはインジェクションの再セッティングをお勧めしたい。
コーナリングでは独特の加減を必要とするハンドリングに戸惑いつつも、フロント18インチ/リア17インチの足まわりが従来のスポーツスター(フロント19インチ/リア16インチ)とは異なる軽快感を与えてくれ、ストリートバイクとしての楽しさをしっかり味わえることにワクワクする。体がずれないシートにミッドコントロールというディテールからも、クイックな動きへの対応を考慮した設計であることが伺える。それでも調子に乗って倒し込んでいると、バンクセンサーをカリッと擦ったりするので、バランスの良いライディングを意識するよう促してくるモデルとも言えよう。
883ccという排気量に軽快な足まわりとパフォーマンスという点から、ストリートバイクとして文句なしのモデルだと言えるスーパーロー。そのなかで違和感を覚えるのは、その大きなフューエルタンクだ。街中であればガソリンスタンドに困ることはないので、XL1200X フォーティーエイトやセブンティーツーに見られるピーナッツタンク(容量7.9リットル)でもOKなはず。この疑問はストリート750にも当てはまるのだが、あえてビッグタンクを採用した理由はどこにあるのだろう。
アメリカで生まれたアメリカ人によるアメリカ人のためのオートバイ、それがハーレーダビッドソンだ。その点から見れば、いくらビッグタンクだからといって彼らがこのスーパーローで大陸横断をするかと言われれば、答えはノーだ。アメリカ人にとって、スポーツスターは大なり小なりストリートバイクであって、地図上では比較的近く見えるロサンゼルスからラスベガス(269マイル=約433キロ)でさえも、彼らならビッグツインを選ぶだろう。
カンパニーの意図するところは読み取れないが、日本人の観点から見れば、スーパーローはツーリングバイクとしても十分活用できるモデルでもある。リッター超えの大型バイクが増えつつある現代から見たら883ccは小さく見えるが、私たち日本人から見れば十分すぎるパワーを備えている。カワサキのW800よりも大きいと言えば、改めて883ccの十分さが分かろうというもの。もちろんハイウェイにおけるトップスピードの伸びなど、リッターモデルに及ばないところはいくつかあるが、純正や社外パーツにあるキャリアやステー、サドルバッグなどを取り付ければ積載はアップするし、ロングツーリングではそのビッグタンクが心強い味方となってくれる。
”スポーツスター”という存在に対してどんなイメージを抱くか、それも選考基準のひとつになるであろうスーパーロー。カスタムという点から見ると、どんなスタイルを目指すにしてもスーパーローをベースとすると、手を入れなければならない部位が多いので、いくら車両の販売価格が安いとはいっても結果的に高くつくイメージしかない。それなら最初からフォーティーエイトやアイアン、セブンティーツーをベースにする方がスーパーローよりも予算を押さえられるだろう。ならば、その販売価格に加えてノーマルのスタイルそのものを愛せる方が、バイクにとってもオーナーにとっても幸せなことと思える。
最終的な回答は未来のオーナーに委ねるとして、この”まったく新しいスポーツスター”の行く末を見守っていきたいと思う。
スポーツスターのラインナップにはXL1200T 1200スーパーローといったツーリング仕様のモデルもあるが、ストリートとツーリング、両方で活躍させたいという欲張りな人にこそうってつけの一台と言えるのではないだろうか。日本には積載力を高めるパーツが数多く存在するので、ツーリング仕様に変身させることは難しくない。そういう意味では、「ハーレーで走ること」や「旅の醍醐味」を教えてくれる稀有なスポーツスターだと捉えられる。そう、ある意味もっとも日本的なハーレーだと言えよう。