2011年のデビュー以降、人気ナンバーワンモデルとして不動の地位を固めたフォーティーエイトが、5年越しにマイナーチェンジを敢行した。グラフィックチェンジは毎年恒例ながら、本年度モデルへのアプローチは今までとひと味違う。プロジェクトチームのリーダーを務めた米ハーレーダビッドソン モーターカンパニーのインダストリアルデザイナー ベン・マッギンリー氏は、プライベートでもスポーツスターに乗る御仁で、以前から抱いていたというフォーティーエイトの改善すべき点に着手。彼の手が加えられたフォーティーエイトは、大きく生まれ変わることとなった――。
「走行性能の改善」、それが今年のフォーティーエイトとアイアンに課せられた開発コンセプトだ。「ダークカスタム」を前面に打ち出してはいるものの、その本流はハーレーダビッドソン創業110周年に脚光を浴びた「世界中のハーレーオーナーの声をモデル開発にフィードバックする」という『プロジェクト ラッシュモア』にある。スタイリングやグラフィックにこだわるのはハーレーならではながら、オートバイである以上、“乗って楽しい”がなければバイクライフは長く続かない。いわばハーレーの原点回帰を表した今回の取り組みと言えるのだ。
ことフォーティーエイトに関しては、その佇まいに見られるスタイリングの美しさは申し分ないものの、実際に乗ってみると、快適という表現からどんどんかけ離れていってしまうポイントが少なからずあった。ローダウンモデルゆえのショートストローク・サスペンションによるデメリット、そして専用設計の41ミリ フロントフォークでも制御しきれないファットタイヤが生むフロント過重(コーナリング時に大きく切れ込んでしまう)など、スポーツスターと呼ぶには憚られてしまう弱点が多々見受けられた。
今回のバージョンアップは、そうしたフォーティーエイトの“モーターサイクルとしてのバランス”に対して真摯にアプローチしたものだ。大きなポイントは、【1】前後サスペンションの改善」、【2】それにともなうシート性能の向上、【3】ABS機能の搭載の3点。
まず【1】のサスペンションだが、リアにはアイアンと共通となるアジャスタブル機能付きのプレミアムサスペンションが採用され、フロントはダイナモデルと同じ49ミリの高剛性フロントフォークおよび専用トリプルクランプへと変更。特に後者はフロントマスクの印象までも変えているので、ビジュアルという点で以前のモデルと見比べると違いは歴然だ。
足腰を支えるサスペンションをグレードアップしたことで、見直す必要が出てきたのが【2】のシートだ。以前はそら豆型ソロシートが用いられていたが、デザインは申し分ないものの、いざハイウェイを走るとホールド感がなく、走行風で体が後ろへ流れてしまっていた。これに対し、サスペンションの動きをサポートするための素材とライディングを支える設計という観点から、今回の新デザインシートが誕生したのだ。
そして、大きなトピックスとなるのが【3】ABS機能の搭載だ。すでにツインカムモデルやVロッドモデルには搭載されている現代バイクに不可欠な機能が、ついにスポーツスターにも導入されることに。今回はフォーティーエイトにのみ搭載されたのだが、ダイナ用49ミリ フロントフォークの採用とリンクするところでもある。ABSユニットはフレーム下部に備わっているのだが、フロントブレーキの動きを制御するため、トリプルクランクの裏側にセンサーが換装されているのだ。
いざ走り出すと、サスペンションのしなやかな動きに驚かされる。ちょっとしたギャップを乗り越えるとき、緩和されなかった衝撃がライダーをダイレクトに襲って体を跳ね上げていた以前のフォーティーエイトと比べると、しなやかに衝撃をやわらげてくれるなど、しっかりと仕事をしてくれている。もちろんスピードをあげればその分衝撃は大きくなり、296ミリというショートストローク リアサスペンションの限界に達してしまうが、そもそもハイスピードで攻める乗り方をするバイクではないので、必要にして十分なグレードの性能を持つと評価したい。
衝撃緩和に関しては、やわらかい素材を用いた新デザインシートも役立っているよう。実際に開発にたずさわった米カンパニーの日本人デザイナー ダイス・ナガオ氏からも「サスペンションをサポートする役割を担う点から再設計した」と聞いており、開発陣の狙いどおりの効果が出ている。ただ、着座した際に体がかなり沈み込むほどのやわらかさで、もう少し反発力があってもいいのでは?という感想を抱いたのも事実。張りのないシートだと着座位置が定まりにくいので、好みによっては違うシートを検討していいだろう。
鍛え抜いた上腕二頭筋をほうふつさせる極太フロントフォークと高剛性トリプルクランプがもたらした恩恵も大きい。かねてからの弱点であったコーナリング時の切れ込みは綺麗に払拭、以前にはなかった安定感がフロント全体に与えられたことで、メガクルーザーのような力強い走り生み出していた。その風体は、凶暴なアメリカの闘犬アメリカン・ピット・ブル・テリアのよう。パフォーマンス系カスタムをしていけば、ますます手がつけられなくなっていくだろう。
49ミリ フロントフォークの前後16インチホイール&ファットタイヤを備えたモデルで思い出されるのが、ダイナの異端児FXDF ファットボブだ。ツインカム96エンジンにディッシュホイールというさらなるキャラクターを備え、重戦車のような走りが魅力のモデルと比べると、エンジンやフレーム強度、スイングアームなどが頼りなく見えてしまう。こういった内容の展開はキリがなくなってしまうのだが、より高いパフォーマンスを求める人は、思い切ってファットボブに乗ってみるといいだろう。
そのファットボブはミッドコントロール仕様なのだが、フォーティーエイトも同様にミッドコントロール化すれば、足を“突き出す”のではなく“踏み込む”ようにできるので、今以上に走って楽しいバイクになるだろう。そうすればコシのあるシートに換えてもリアサスペンションへの負荷は軽減されるので、296ミリのままでもしっかりパフォーマンスを発揮してくれるに違いない。新型フォーティーエイトの購入を検討する方には、こんな乗り方もぜひご検討いただきたい。