今年でデビュー20周年を飾ったスポーツスター XL1200C 1200カスタム(以下 1200カスタム)は、その歴史が示すとおり、スポーツスターモデルの中でも古参のファクトリーカスタムモデルとして世に送り出された。バージョンアップを経て今なおラインナップに君臨する同モデルは、ファクトリーカスタムモデルの増加からやや影が薄くなった感が否めないが、これまでとは違った魅力を兼ね備えた一台へと進化していた。改めて、スポーツスター初代ファクトリーカスタムモデルの真の魅力に迫ってみよう。
フォーティーエイト、セブンティーツー、1200T スーパーロー、ロードスター、そしてアイアン883と、スポーツスターのラインナップはすでにカスタムされたモデル――ファクトリーカスタムモデルがひしめくファミリーとなった。しかし、1990年代のスポーツスターはそのほとんどがオーソドックスなものばかりで、1996年にデビューした1200カスタムは、カンパニーが指し示すカスタムスタイルのひとつとして手がけられ、登場とともに大いに注目を集めた。
1996年式 XL1200C
メッキ仕様の1200エボリューションエンジンにフロント21/リア16インチ スポークホイール、メーターブラケット一体型ライザー、プレート型エンブレム、エンジン左側のビッグホーン、そして多数のメッキパーツと、他モデルにはないきらめきを放つチョッパーモデルは、ハーレーファンのカスタムカルチャーを多いに刺激するものだった。その姿は2004年のスポーツスター・ラバーマウント化でも継承され、ベストセラーモデルとしての地位を築いていった。
2011年モデルが発表された際、1200カスタムがついにラインナップから姿を消したのだが、翌年の中間期モデルとして復活。それも、2011年に鮮烈なデビューをはたしたフォーティーエイトの特徴を引き継いだ前後16インチ仕様となって、である。以前のフロント21/リア16インチというフットワークのチョッパースタイルは、2012年の中間期モデル セブンティーツーに受け継がれた。
元祖ファクトリーカスタムモデルというアイデンティティを持つ1200カスタムだが、もはやスタンダードなXL883などは姿を消し、ファクトリーカスタムモデルでラインナップが形成されるほど乱立するまでになった今、その存在感はやや薄れつつある。しかもニューカマー(当時)のフォーティーエイトのスタイルを落とし込まれたことを思うと、「フォーティーエイトのベースモデル」というポジションで見られても致し方ない側面もある。
それでも、この1200カスタムにはオリジナリティがある。一言で言えば、きらびやかさと実用性の両立であろう。「カスタム」の名を継承しているだけあって、数々のメッキパーツに専用ライザー&ハンドルバー、オリジナルデザインのテールライト、そしてフォーティーエイトのキャスト化によって唯一となった前後16インチのスポークホイールを備える。そこに、容量17リットルというビッグタンクとミッドコントロールステップ、ポジションをラクにする専用プルバックハンドルバーが加わり、ネイキッドなスポーツスターでありながら快適なツーリングを楽しませる仕様となっている。2016年モデルからはフロントフォークがシングルカートリッジ式に、リアもプレミアムライド・エマルジョンショックが標準装備されるようになった。
「スポーツスターはハーレーのネイキッドスポーツ。ツーリングならビッグツイン!」と言われるが、排気量600?800ccクラスのバイクをツーリングモデルとして手がける日本において、883モデルでさえ十分ツーリングバイクとして使われるのだから、リッターオーバーのスポーツスターはツーリングバイクというカテゴリーで扱われるものと言えよう。その点から見ても、1200カスタムはある意味万能モデルとして手がけられたイメージすらある。
久しく触れる機会がなかった1200カスタム、改めてそのキャラクターに迫ってみよう。
基本設計はフォーティーエイトと同じながら、加重時シート高はフォーティーエイトの710mmに対して、1200カスタムは725mmとやや高い。身長174cmの筆者にとっては誤差の範疇で足もベタ着きするほどだが、身長が低くなるほどその差が大きくなるため、気になる方は一度比較してみてほしい。
その足着きの違いに影響するのが、シートだろう。2003年以前のエボスポーツ時代から継承されるダブルシートは、股間部分が膨らんでいて足が外開き気味になる構造に。足が外に開けば、当然足着きは悪くなる。その点、比較的フラットなフォーティーエイトのそら豆シートは足着きに大きく貢献していると言えよう。実際にまたがって足着きが気になった人は、ノーマルシートをベースに肉抜き(アンコ抜き)するか、細身の国産シートに交換するのがいいだろう。とりわけ国産シートには長距離乗車時の負担を軽減するものもあるので、長い付き合いを検討する方はぜひ自分に合った製品を見つけてほしい。
フットポジションはミッドコントロール仕様で、停車時に足を降ろすとステップがパンツの裾にかかるのがやや難点。一方、フォワードコントロールステップのように両足を突き出したままのライディングではないから、ステップをしっかり踏ん張れるのでフォームそのものへの負担が分散され、結果丸一日ツーリングを楽しんだ後の疲労感に差が出てくる。「手に入れたバイクでいろんなところへ走りに行きたい」という方には、このミッドコントロールステップのモデルがちょうどいい。
ハンドル位置をライダー寄りにする1200カスタム専用のライザーと、同じく専用のハンドルバーによって、腕のポジションは背筋をピンと伸ばした状態でもヒジにゆとりができるほど。ロードスターのような前屈姿勢にならないところも、ツーリングバイクとしてのキャラクターだと言えよう。
全体的にニュートラルなポジション設計になっているので、フォーティーエイトやロードスターのような特異な姿勢にならないところにスポーツスターらしさを感じる。近年、日本仕様のフューエルインジェクション設定がグレードアップしてきたことから、排気量1,201ccのエボリューションエンジンも必要にして十分なパワーを発揮してくれ、リッターオーバーモデルらしい力強さを味わわせてくれる。マフラーやエアクリーナーを好みのものに換え、リセッティングをしてやれば、さらにパワフルな走りを楽しめることだろう。同時に燃費も向上するので、新オーナーとなる方にはぜひインジェクションチューニングをご検討いただきたい。
しかし、ノーマルセッティングのままだからだろうか、実際に走り出してみるとリッターオーバーのパワーに振り回される感じがまったくしない。むしろ、うまく操ってやれば必要なところで必要な加速を生み出し、かといって出過ぎていないのでシングル仕様のフロントブレーキ&リアブレーキでしっかり制動させてやれる。ミッドコントロールによってステップ荷重がしやすく、さらに車高も一定の高さになっているので、街中のカーブでもしっかりバンクさせてクリアしていける。バージョンアップした前後サスペンションの働きも寄与して、立ち上がりからの加速もスムーズになっている。今や「スポーツスターモデル随一のスポーツ仕様」の座はロードスターによる独占状態になっているが、この1200Cにも十分な性能が備わっているようだ。
そこで、気づかされた。右左折時に妙な切れ込みを見せる2015年以前のフォーティーエイトも、ステップをミッドコントロール化するだけでバランスが良くなるのではないか、と。往年のFLスタイルを再現した前後16インチ型スポーツスターには「ライディング自体はどうなの」と懐疑的な目を向けられていたが、この1200カスタムは街中はもちろん、ワインディングを走るうえでも十分な性能を持ち合わせていることを立証してくれた。