VIRGIN HARLEY |  XL1200V セブンティーツー試乗インプレ

XL1200V セブンティーツーの画像
HARLEY-DAVIDSON XL1200V Seventy-Two(2015)

XL1200V セブンティーツー

ハーレーの手法となりつつある
ファクトリーカスタムの代表格

近年の主流となっているメーカー提案型カスタムモデル「ファクトリーカスタムモデル」。ダントツの人気を誇るXL1200X フォーティーエイトはその急先鋒とも言える存在だが、その二番手として登場したのがこのXL1200V セブンティーツーだ。問答無用のチョッパースタイルに“セブンティーツー”という名称から、誰もが1970年代アメリカのカスタムシーンを席巻したチョッパーの再現とすぐさま察したが、一方で「なぜスポーツスターで?」という懐疑的な目で見られもした。随所に古き良き時代の匂いを漂わせるセブンティーツーについて、ライドフィールはもちろんながら、その先にある“ならでは”の魅力について迫ってみよう。

XL1200V セブンティーツーの特徴

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70’sチョッパースタイルを
そのまま体現したカスタムモデル

2012年2月、中間期モデルとしてハーレーダビッドソンジャパン(以下 HDJ)より発表されたのがFLS ソフテイルスリム、そしてこのXL1200V セブンティーツーだった。アメリカ本国H-Dウェブサイトで発表されてすぐにその噂は広まり、大きな話題となったのは記憶に新しい。今もその流れは続いているが、ことスポーツスターで言えば、2008年のXL1200N ナイトスターから始まったファクトリーカスタムモデルの最新情報だったのだから、話題になるのも当然のこと。もちろん、その前年にデビューしたXL1200X フォーティーエイトという稀代の人気モデルの存在があればこそ、ではあったが。

HDJから発表された当時のリリースには、『70年代のカスタムカルチャーにインスパイアされたナロースタイルのカスタムチョッパー』と題され、「今日のカスタムカルチャーに多大なる影響を与えた70年代のローライダーカルチャー発祥の地イーストロサンゼルスを走るルート72としても知られ、伝説的なクルージングコースであるホイッティア Blvd.(Whittier Boulevard) とその時代に敬意を表して名づけられた」とある。調べてみると、米ロサンゼルスの中心街に向かって斜めに伸びる Whittier Boulevard (ウィッター・ブールバード)と呼ばれるストリートがあり、マップ上には『Route 72』の文字が。1960年代、メキシコ系の若者がこのストリートを中心に、主に四輪のローライダー カスタムカルチャーの発信をはじめ、次第に大きくなった渦は1970年代でピークを迎え、現代に至るという。確かにロサンゼルスはアメリカのカスタムカルチャー発信地であり、日本人カスタムビルダー木村真也氏の工房である『chabbot Engineering』(Azusa)や人気カスタムビルダー ローランド・サンズ氏率いる『Roland Sands Design』(Boulevard)なども、このルート72から車で約20分ほどの圏内に居する。

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そうした背景をもとにこのセブンティーツーを見てみると、なるほどその名の由来となるイーストロサンゼルスの伝統をインスパイアしたモデルであることに疑問の余地はない。フルクローム仕様の排気量1,201ccエンジン『エボリューション』にフロント21/リア16インチとされるスポークホイール、そして砲弾型ヘッドライトなど、その土台となっているのは2010年までラインナップされたスポーツスター XL1200Cのよう。そこに純正カスタムパーツであるミニエイプバーにフォーティーエイトから用いたピーナッツタンクとソロシート、そしてチョップドリアフェンダーを配し、問答無用のチョッパースタイルにまとめらている。

注目したいのは、そのグラフィックとタイヤだ。ビンテージスタイルを目指すうえで選択肢に入るであろうホワイトリボンタイヤが標準装備とされるところは、さすがハーレーダビッドソンと唸らされるポイント。そしてグラフィックは、2013年モデルよりラインナップにも導入された特別塗装『ハードキャンディーカスタム』が用いられている。それも、他モデルなら1~2色だけのところ、このセブンティーツーのみ3色すべて採用されているのだ。

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1970年代のカスタムシーンから世に広まったキャンディーフレーク塗装。カスタムバイクのみならずヘルメットなどにも使われたこのデザインは、華やかだったアメリカのカスタムシーン最盛期の象徴であり、ファクトリーカスタムモデルを全面に押し出したプロモーションを仕掛けるH-Dカンパニーにとって欠かせないツール。間近で見ると、その技術の高さにただただ圧倒される。とにかくまぶされたフレークの量が尋常ではないのだ。ブラックベースコートに7回以上メタルフレークを吹き付け、さらにクリアコートを何層にも重ね塗りしているというメーカーにしかできない仕様で、その高級感は他モデルを圧倒する。当然ながらモノトーン仕様とこのハードキャンディーカスタム仕様とでは価格差があるわけだが、同じように再塗装するとなると、同じ塗装を日本で施すことは不可能なので、一度アメリカに送らねばならず、その費用はそこいらのペイント代の比ではない。購入を検討される方には、迷わずハードキャンディーカスタムを選ばれることをお薦めしたい。

XL1200V セブンティーツーの試乗インプレッション

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もはやお家芸の域とも言える
高い完成度にこそ魅力あり

跨がってみると、予想どおりのベタ足である。スペックを見比べてみると、710ミリという加重時シート高はスポーツスターラインナップ中で三番めの低さで、フォーティーエイトやXL1200Cと同等、そしてXL883N アイアンよりも低かった。身長174センチの私だとアイアンでも膝を持て余していたのだが、これだけ低いと足の置き場に困ってしまう。はるかに大きいアメリカ人だとどうなるのだろう……と思ったのだが、実際に街中を走り出して「だからステップ位置がフォワードコントロールなのか」と納得した。もしミッドコントロールだと、停車時に何かとステップが邪魔に思えてしまうかもしれない。ファクトリーカスタムモデルとされるモデルは総じてフォワードコントロール仕様が多いが、もちろんスタイルありきながら、近年の流行であるローダウン仕様との相性もあるようだ。

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エイプハンガーの位置はやはり独特。肩よりもやや高いところまで手があがり、それでいて見た目ほど乗りづらくもない。同じスタイルならFXDB ストリートボブが酷似モデルとして挙げられるが、フロントフォークおよびフレームの剛性が高く、その力強さと重量感で操るのがボブの面白さ。それに対してセブンティーツーはフロントタイヤが細くハンドリングもボブに比べてはるかに軽いので、フロントフォークからタイヤまでがハンドルと一体化しているような感じで転がしていく乗り方になる。どちらかと言うとかなり軽い印象で、XL883Rのようなダブルディスク仕様になれば重量とストッピングパワーがアップして面白く乗れそうなのだが、そうするともはやセブンティーツーである必要がなくなるので、ここが落としどころなのだろう。

ちなみに、真横からのスタイリング写真をご覧いただければ分かるが、このエイプハンガーはフロントフォークの角度にぴったり合わせて一直線を引くように取り付けられる。しかし、関東のとある正規ディーラーで話を伺ったところ、「そのままの角度だと、ショールームの一番前に置いても振り向いてもらえない。でも、ハンドルをやや前傾させたダーティなスタイルに変えると、通りすがりの人から『カッコいいねぇ』と声をかけてもらうことが増えるんです。だから、ウチではセブンティーツーのハンドルはやや前傾気味にしています」とのこと。確かにハンドルそのものは遠くなって乗りづらくなるが、見た目のワルさと言う点では、たったこれだけでガラッと印象が変わってしまう。

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そんな独特のハンドル位置に加え、ステップがフォワードコントロールとされるので、乗っている姿は両手足を大の字に広げているようになる。フラットなソロシートは走行風によって流されるライダーの体をホールドしてはくれないので、ハイウェイでそれなりの速度域で走ろうものなら、ハンドルにしがみつきながらの走行を強いられることになる。投げ出した足はステップを踏ん張ることはできないので、自ずとお尻で体を支えながら走らなくてはならず、結果的にロングツーリング時には臀部が痛くなってしまうことだろう。あらゆる要素をポジティブに捉えたうえで、セブンティーツーはストリート仕様のモデルであるという結論に行き着く。

ひとつ、H-Dカンパニーに対して疑問を投げかけるとすれば、なぜスポーツスターを土台にこのセブンティーツーを作ったのか、ということだ。ともすれば映画『イージー・ライダー』に登場するキャプテンアメリカ号さながらのシルエットを持つセブンティーツーだが、そもそもスポーツスターにチョッパースタイルは不釣り合いで、やるならば美しいトライアングルを描くリジッド型フレームのソフテイルモデルがベースではなかっただろうか。しかしながら、今のソフテイルであのスリムなシルエットを生み出すのはまず無理だとも思う。目指したいスタイルは明確にありながら、このH-Dカンパニーのインダストリアルデザイン部門にはさまざまなジレンマがあったであろうことは想像に難くない。それでも、これほどの完成度高いスタイルにまとめあげてきたセンスはさすがと言いたい。仮に他メーカーが“1970年代アメリカのチョッパースタイル”というテーマに挑んだとしても、セブンティーツーほどのまとまり方にはなるまい。ハーレーの販売戦略でもあるファクトリーカスタムモデル群は、ニュースタイルをデビューさせるたびに精度を上げてきており、今やお家芸とも言えるクオリティに達している。かつてのH-Dのアイコン、ウィリーGによって今のインダストリアルデザイン部門が育て上げられたことを思うと、“ウィリーGチルドレン”はその系譜をしっかりと受け継いでいると言えるのかもしれない。

XL1200V セブンティーツー の詳細写真

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セブンティーツーだけに採用される砲弾型ヘッドライトは、2010年までラインナップされたXL1200Cから受け継いだもの。
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H-Dカスタムパーツにラインナップされるミニエイプハンガーが標準装備とされる。肩よりやや高めのポジションが印象的だ。
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ハードキャンディーカスタム「カンクンブルーフレーク」仕様の容量7.9リットル ピーナッツタンク。「ビッグレッドフレーク」「クイックシルバーフレーク」など計5つのカラーが用意されている。
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フラットなラインが印象的なソロシートは、XL1200X フォーティーエイトから用いたもの。古き良きハーレーの伝統を匂わすシルエットだ。
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テールランプ一体型ウインカーとチョップドリアフェンダーというモダンな組み合わせのリアエンド。ハードキャンディーカスタムのロゴとペイントが華を添える。ちなみに2015年モデルよりリフレクター板の位置がナンバー上部に変わった。
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21インチ スポークホイールも2010年までのXL1200Cから引き継いだもの。フロントフェンダーはXL1200N ナイトスター仕様(現在はカタログ落ち)。
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好天時にはギラッと輝くフルクローム仕様のエンジン『エボリューション』(排気量1,201cc / 空冷4ストロークV型2気筒OHV2バルブ)。ラウンドエアクリーナーはセブンティーツー専用設計。
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フォワードコントロールのステップ。VロッドやFXDWG ワイドグライドほど遠くはないので、気になる方は試乗してみることをお薦めする。
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スポーツスター全モデル共通とされる二本出しサイレンサー。このスタイルで楽しむなら、やはりサウンドにはこだわりたいところ。
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フロントとお揃いでホワイトリボンとされるタイヤ。ビンテージカスタムの初歩とも言えるホワイトリボンが標準装備というのは嬉しい限り。

こんな方にオススメ

ハーレーダビッドソンに乗ることの
意味を教えてくれる特別な一台

スポーツスターとして見れば、そのディメンションはナンセンスという他ない。しかし、“ハーレーダビッドソン”として見るならば話は別だ。議論の中心は“乗りやすいかどうか”ではなく、“見た感じがカッコいいか”、“ワルそうに見えるか”。その点で言えば、このセブンティーツーは人気のフォーティーエイトにひけを取らない魅力を秘めている。誰が見ても分かるチョッパースタイルは、現代のストリートシーンにおいても色あせることがない輝きを放っており、演出された背景と組み合わさればそこはもう異国のよう。すでに明確な方向性を持ったファクトリーカスタムモデルゆえに、どちらかと言えば“自分と相棒だけの特別な風景”を求める人にうってつけのモデルと言えよう。まだ見ぬ風景へと導いてくれる水先案内人として、セブンティーツーは申し分ない存在となるだろう。

ハーレー2015年モデル特集記事の画像

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