昨年、米ハーレーダビッドソン モーターカンパニーは『PROJECT RUSHMORE』(プロジェクト ラッシュモア)なる題目のもと、ウルトラをはじめとするツアラー系モデルを大きくアップグレードさせて話題を呼んだ。と同時に、ながらくラインナップを飾ってきたロードグライドがそのプロジェクトに組み込まれておらず、ラインナップから姿を消したことでがっかりと肩を落としたファンも少なくなかった。FLTRXS ロードグライド スペシャルは、一年というブランクを経て満を持して登場した最新のツアラーTRで、デザインチェンジこそしたものの、このデュアルヘッドライトの復活は私たちに大きな期待感を抱かせてくれる。
ハーレーダビッドソンの歴史におけるディアルヘッドライトの歴史をひも解いていくと、なんと1929年までさかのぼる。ウォール街で大暴落が起こったこの年、カンパニーは29JDLと名付けた二灯型モデルを世に送り出した。翌1930年にも30VLという二灯型モデルを手がけたが、以降1980年まで単灯モデルが続く。その1980年、このロードグライドの始祖となるFLT80 ツアーグライドが登場。1982 FLTC ツアーグライドクラシックなどにその独特のフェアリングは受け継がれ、ハーレーダビッドソンにおけるレギュラーモデルとしての地位を確立するまでになった。
それゆえ、昨年のPROJECT RUSHMOREで大々的に刷新されたツーリングファミリーからロードグライドが姿を消したことは大きな驚きであった。ヤッコカウルのウルトラやストリートグライドと双璧を成す人気モデルのカタログ落ちは、今回復活を遂げたローライダーと同様にファンを失望させた。
今回上陸をはたしたのはFLTRXS ロードグライド スペシャルで、本国サイトを見ると他にFLTRX ロードグライドというベースモデルが存在する。また本国ではツーリングファミリーを彩るのが10モデルと、かつてない豪華さを誇るまでに。昨年のPROJECT RUSHMOREで登場したウルトラの高剛性フレーム&フロントフォークおよびブレーキシステムの変更を組み込んだラインナップに、カンパニーの意気込みが同ファミリーに注がれていることは容易に察することができよう。実際、このロードグライド スペシャルも、一昨年までのものとは違った仕様とされている。
繰り返しになるが、FLHTK TCおよびFLHTCU TCに採用されている高剛性フレームに49mm径フロントフォーク、そして前後同時に作用させられる新型ブレーキシステムが備わる。そのうえでこのロードグライドの特徴をピックアップしていくと、まずは新デザインのフロントマスクをチェックしたい。以前のモデルよりもややスリムになったシャークノーズフェアリングだが、ここだけでも内容が盛りだくさんなのだ。ヘッドライトはLED製の耐衝撃性デュアルDaymakerとされ、夜間走行時にその威力を発揮する。ここに昨年のヤッコカウルにならい、開閉機能を備えたスプリットストリームベントが三つ備えられた。これにより、ライダーへの風力を軽減させることを可能とする。またこのフェアリング自体も以前と比べて幅をスリムにし、内蔵されたスピーカーからのサウンドを効率よく楽しめる仕組みにした。タッチパネル式のインフォテインメントが搭載され、スマートフォンとの連動も可能となり快適なハイウェイライドが堪能できる。さらに高速巡航時でも片手で開けられるワンタッチ型サドルケースも新型ウルトラから引き継いでおり、ツアラーライダーには喜ぶべき機能アップといったところか。
次に注目したいのはハンドルバーだろう。一昨年のロードグライドと見比べても違いはあきらかで、写真の印象以上にハンドルバーそのものがプルバックされている。他のモデルには見られない特殊な形状のハンドルで、一見クセが強そうに見えるが、実際に乗ってみるとハンドリングはスムースである。また他の2015年モデルと同様にグリップも細くなっていることから、その扱いやすさは格段に向上している。
現ハーレーオーナーのリアルな声をヒアリングしたというPROJECT RUSHMOREと、その内容を見事にフィードバックさせた新型ロードグライド。その快適性は、乗り比べると手に取るように分かることだろう。