ノスタルジックなFLモデルが大半を占めるソフテイルファミリーに新たなFXモデルとして仲間入りしたのがこのFXSB ブレイクアウトだ。その一年前にCVOモデルであるFXSBSE CVO ブレイクアウトがデビューし、そこから生まれたスタンダードモデルという異色の経歴の持ち主なのだが、このブレイクアウトの魅力はそれだけにとどまらない。チョッパースタイルを継承するソフテイルモデルとして大きな期待を背負う同モデルの特徴とその背景に迫ってみた。
ここ数年のハーレーダビッドソン フルラインナップのソフテイルからFXスタイルが消えつつあることに気付いている人は、かなりのツウと言えるだろう。改めておさらいをすると、ソフテイルファミリーにはパンヘッド時代のスタイルを今に伝えるFLモデルと、映画『イージーライダー』に登場するキャプテンアメリカ号に象徴されるようなチョッパースタイルを基盤とするFXモデルの2パターンが存在する。かつてはFLとFX、それぞれ半分ずつモデルが用意されていたのだが、2010年頃からFXモデルの数が減っていっていた。2011年には、FLが5モデルあるのに対し、FXST ソフテイルスタンダードとFXCWC ロッカーC、そして新顔のFXS ブラックラインの3モデルだけ。その翌年(2012年)にはFXSTとFXCWCの2モデルが同時にカタログ落ち。たった一台でFXスタイルを継承していたFXS ブラックラインも、2014年にこのFXSB ブレイクアウトと入れ替わるように姿を消した。
そうして登場したブレイクアウトだが、その前に、2013年にデビューした兄貴分であるFXSBSE CVO ブレイクアウトについてお話しよう。これまでは各ファミリーに配されていたスタンダードモデルをベースにカスタマイズされたCVO(カスタム ヴィークル オペレーション)が登場する……というのが常だったのだが、ベースモデルがないフルオリジナルCVOの登場は驚きをもって迎え入れられた。デビュー時の販売価格が295万円という最上級仕様とは思えない破格の値段であったことや、CVOゆえの特別仕様モデルが持つ独特の高級感や完成度などから世界中で人気を博した。そのスタイルに魅了された人々が正規ディーラーに予約するも、限定生産だったため日本には限られた台数しか入ってこず、予約者の希望に添えないケースが起こるなど、過去に例のないムーブメントをCVO ブレイクアウトは引き起こしたのだ。2014年モデルラインナップでは333万円(税込)で販売されているCVO ブレイクアウトだが、その装備を見てみると、仮にFXSB ブレイクアウトをベースにカスタムしても、おそらくこの価格でおさまることはない。カンパニーの出血大サービスとも言えるモデルでもあるのだ。
今までとは逆のパターンで登場したFXSB ブレイクアウト。前任者が華々しくデビューしたこともあってやや影が薄くなってしまった印象は否めないが、正規ディーラーで現在人気が高いモデルについて伺うと、「1位は不動のXL1200X フォーティーエイト。そしてじわじわと2位につけているのがこのブレイクアウトなんです」という話を複数件で聞いた。ベースとされるのは、これまた鮮烈なデビューを飾った“ファクトリーカスタムモデルの究極系”FXCW ロッカー。240ミリという極太リアタイヤを標準装備とするためのオリジナル設計のフレームに印象的なデザインのオイルタンク、そしてロー&ロングのチョッパースタイルはまさにロッカーのそれ。CVO ブレイクアウトやロッカーに比べるとかなり落ち着いた印象のモデルだが、ここからカスタムして自分色にしていく楽しみが味わえる”ハーレー流”の申し子とも言えるのではないだろうか。CVO ブレイクアウトが自身の理想型ならそちらを購入すればいいわけだが、「俺だったらハンドルはこれだな」、「シートはもっと派手にしたいな」、「思い切って塗装もオリジナルにしてしまいたい」という“自分だけの一台”を求める人にとってはうってつけのキャンバス。カスタム欲をそそってくるあたり、さすがはFXモデルといったところか。
240ミリのワイドタイヤに攻撃的なドラッグバー、フォワードコントロールといった個性的な組み合わせから、「こいつは相当なくせ者に違いない」という想いを試乗前から胸に秘めていた。FXSTB ナイトトレインやFXCWC ロッカーC、そして兄貴分のCVO ブレイクアウトと同系統のモデルに何度か乗っており、そのたび苦戦させられた過去があったからだ。今回はFLSTN ソフテイルデラックスと2台でインプレッションツーリングへと赴いたのだが、優等生と評したくなる快適な乗り心地が魅力のデラックスとの対比により、良い意味でこのブレイクアウトの特徴を掴み取ることができた。
言い表すならば、“言うことを聞かない直線番長”である。その特徴を最大に活かせるのはハイウェイに他ならないわけだが、低い重心と240ミリ ワイドタイヤの恩恵から、直進安定性は他の追随を許さないと言っていい。どっしりと腰を構えてパワフルに突き進むライドフィールは、ワイドタイヤが路面を鷲掴みにしているのを実感できるほど。ウインドスクリーンなど持たないネイキッドクルーザーたるブレイクアウトゆえ、当然ハイウェイでスピードに乗れば走行風がライダーの体を直撃する。が、その地を這うような突進力は走行風を切り裂いていくかのよう。これでセッティングをベストな状態にしてやれば、どれだけパワフルな走りになるのだろうか……想像しただけでワクワクしてしまうほどだった。余談だが、アメリカ・フロリダで米仕様のブレイクアウトに乗った某出版社の編集部員は、「日本で乗るブレイクアウトとは別物だった。セッティングであれほど走りが変わるとは知らなかった」と驚いていた。環境次第で、ブレイクアウトの表情が大きく変わる感想だと言えよう。
一方で、ハイウェイでのコーナリングではその巨体とポジション、そしてワイドタイヤが攻略を困難なものにする。車体を傾けるだけでクリアしていける緩やかなカーブに法定速度めいっぱいの速度で入っていくと、思いのほか曲がっていかず車体が徐々に外へと引っ張られるような走り方になってしまった。ワイドタイヤゆえ、大半を占める平面部分はべったりと路面を掴んでいるが、車体を倒し込んでのコーナリングとなると、タイヤの外側のわずかなカーブに頼らざるを得ず、しかも重心の低さ、そしてコーナリングには不向きなドラッグバーという設計から、“曲がれない”わけではないが、「よし、曲がるぞ」と飛び込む前の心の準備が必要になる。そのうえで操作確認をし、確かめながら“曲がらせていく”ことが求められる。もちろん速度を落としていけばいいだけのことだが、それまでの直線でめいっぱいスピードを出したまま飛び込んでしまうと、想定以上に曲がりづらい経験をするかもしれない。
となると、ストップ&ゴーが多いストリートではコントロールする際のハードルが若干あがってしまう。ロー&ロングのスタイルゆえにホイールベースも長いブレイクアウトでは、狭い路地での曲がり角は注意が必要だろう。ちなみに房総・千倉にある限りなくU字に近い急なカーブに差し掛かった際、「どこまで耐えられるか」を確認してみたくなり、ちょっとスピードに乗った状態で車体をできる限り寝かし込んでいくと、イメージしていたほど寝かし込んでいないところでバンクセンサーを擦ってしまった。それも、フォワードコントロールに取り付けられてあるバンクセンサーを、である。基本的にバイクには「走る」「曲がる」「止まる」の要素が求められると言われるが、すでに「曲がる」を放棄しているかのようなブレイクアウト。決して“曲がれない”わけではないが、他のモデル以上に気を使いながらコーナーに入っていくことを求められると思っていただければ幸いだ。?
“万能型”デラックスとの対比となった“猪突猛進型”ブレイクアウト。「バイクとして見たら……」という意見もあろうかと思うが、違うモデルなれどハーレーに乗る人間としては、「ならば他メーカーのモデルを選んでみては」というところだろうか。“アメリカの魂”とまで言われるハーレーダビッドソンが生んだやんちゃ坊主ブレイクアウト。ここまでトンがったモデルを作れる懐の深さは、やはりハーレーダビッドソンならではだ、というひとことに尽きるだろう。?
「ブレイクアウトの存在意義は?」と聞かれれば、「フォルムの美しさこそブレイクアウトのアイデンティティだ」と僕は答えるだろう。1,710ミリという長いホイールベースからも分かる”ロー&ロング”スタイルは、チョッパーカスタムを語るうえで欠かせない要素。それを重量級の現行モデルで見事に表現しているところに、車体の美しさはもちろん、カンパニー開発陣の哲学を感じずにはいられない。もちろん本モデルは置物などではなく、走ってこそのモーターサイクルであるわけだが、そうした日本人の既成概念を軽やかに打ち破ってくれている。こうしたところに惹かれる人というのは、日常には満足できず、日常を超越したいと切望している文字どおりブレイクアウトな方ではないだろうか。誰の意見にも左右されない“鉄の意思”を持った人生を歩んでいる人に、盟友(とも)として欲しい一台である。