2005年のデビュー以来、その姿を変えることなく10年連続でのラインナップ入りを果たしたFLSTN ソフテイルデラックス(以下 デラックス)。決して派手ではないが、FLSTF ファットボーイ、FLSTC ヘリテイジソフテイルクラシックと並ぶ“FLの重鎮”の一台として君臨している。毎年登場するさまざまなニューモデルに負けない安定した人気の秘訣はどこにあるのか。あまり多くを語りたがらないタイプとも言えるデラックスの心のうちに迫ってみよう。
デラックスがラインナップに登場したのは2005年。ちょうどその2年前になる2003年に100周年を迎えたカンパニーのラインナップは30種類(インジェクションモデルとキャブレターモデルそれぞれ一台ずつカウント)におよんだのだが、翌2004年にFLSTS ヘリテイジスプリンガーがカタログ落ちし、いわゆるソフテイルFLモデルはファットボーイとヘリテイジだけになった。デラックスは、そんなFLのニューカマーとして仲間に迎え入れられたわけだ。
そのスタイルを見れば、カンパニーがデラックスに込めた想いが分かろうというもの。ホイールを包み込むワイドな前後フェンダーにソフテイルフレーム、油圧式フロントフォーク、“墓石”と呼ばれるトゥームストーンテールランプ、フォグランプ付きヘッドライト、クラシカルなデザインのサドルシートと、1949年に登場したパンヘッドエンジンのハイドライグライドをイメージしたもの。そこにホワイトリボンタイヤや翼がデザインされたオリジナルのエンブレムなどが加わり、“現代版ハイドラグライド”として世に送り出されたわけである。
XL1200X フォーティーエイトがFLの代名詞とも言える前後16インチ&ファットタイヤという装備を取り入れたり、ダイナモデル初のFLスタイルを採用したFLD スイッチバックが登場するなど、ボーダレスとなりつつあるH-Dニューモデル群だが、ノスタルジックな雰囲気を今に伝えるデラックスやヘリテイジ、ファットボーイの特徴を他モデルが取り入れているという背景から、このスタイルはH-Dが戻るべき原点と言えるものかもしれない。事実、他メーカーと見比べてみれば分かるが、ソフテイルフレーム、油圧式フロントフォーク、前後16インチといったものを取り入れているのはハーレーしかいない。ひとえにカンパニーとして現代に伝えるべき歴史があることはもちろん、このスタイリングこそハーレーのアイデンティティである証だ。
デラックスに関して言えば、女性ファンの多さが挙げられる。ノスタルジックな雰囲気のなかにもモダンな可愛らしさを持ち合わせていることなどが理由と思われるが、はたしてそれだけなのだろうか。巷では「足着きが良い」と言われているデラックスだが、実際に跨がってみると、身長174センチの私ならベタ足だが、160センチ未満の女性が跨がると踵が地に着くことはない。東京~南房総という日帰りながら往復で約300キロを走り、そのうちなる魅力に迫ることにした。
近年のソフテイルファミリーに目をやると、そのほとんどがFLモデルでFXはFXSB ブレイクアウトだけ。FXS ブラックラインも2013年を最後に姿を消すなど、FL人気の高さが伺えるラインナップとなっている。それゆえ、FLS ソフテイルスリムやFLSTFB ファットボーイローなど人気モデルに試乗する機会が多かったこともあり、デラックスとしっかり向き合うことが少なかった。貴重な体験と楽しみだった今回のインプレッション、実際に乗ってみると……期待どおり、いや期待以上の楽しさがそこにはあった。
その秘訣は、ライディングポジションの良さにある。分厚いサドルシートが体を優しく受け止めてくれるのだが、ただ厚みがあって柔らかいというわけではなく、ピンと背筋が伸びるような垂直な姿勢を保てる仕様になっているのだ。フットボードの位置も、身長174センチの私だとヒザが曲がる余裕をもったポジションで、ハンドル位置も遠すぎず近すぎず。フットブレーキもボードに踵を置いたまま踏み込めるので、足の力が無駄なくブレーキに伝わり、安定した制動が可能となる。ハンドル幅もワイドで扱いやすく、仮にハンドルを大きく切ったとしても、片方の腕が伸びきる、または届かなくなるというようなことはない。ちなみに160センチ未満の女性が乗ってみた感想としては、「ハンドル幅やフットボードに不満はないが、あえて言うならシートの幅広さ。股間部分がワイドなので、足が外に開いてしまい、足のポジションがいまいち定まらない」というもの。大柄なアメリカ人は気にならない部分なのだろうが、オーナーになることを検討している女性には、細身シートに換えることで解消するという方法をおすすめしたい。
ここ数年ほど、200ミリや240ミリといったワイドなリアタイヤを備えたモデルが登場するソフテイルファミリーだが、このデラックスはスポーツスターと同じ150ミリタイヤを履いている。カスタム欲が強いオーナーだとリアエンドのインパクトに欠け、物足りなさを覚えるかもしれないが、ラインナップ中もっとも細いこのリアタイヤはライディングにおいて想像以上の恩恵を与えてくれる。まずソフテイルという大柄なボディと力強い走りを支えるには“必要にして十分”な太さであり、直進安定性を損ねることはまったくない。そして旋回性の高さもデラックスの特徴で、タイトな曲がり角でもきちんとバンクしつつクリアーできるポテンシャルの高さには驚かされた。おそらくデラックスでこういう“攻めた乗り方”をする人は少数派だろうが、例えば山道などで思いのほか急なコーナーだった際、その高い性能がオーナーを助けるということもある。そういう意味でも、非常に優れた仕様だと言える。
ヘリテイジのようにウインドシールドが備わっているわけではないが、ハイウェイでも十分な速度と風を楽しむことができた。ご覧のとおり、デラックスはスピードを出して楽しむバイクではない。優先すべきはノスタルジックな雰囲気であり、速度を出しすぎず流す感じで走れば、体が受け止める風も強くはないし、その速度域で楽しめる鼓動とライドフィールを与えてくれる。改めてハーレーダビッドソン本来の楽しみ方を教えてもらったような気持ちで、「デラックスなら50代、60代、そしてその先まで乗り続けられる」と思わせてくれる底なしの魅力を味わわせてくれた。もし自分がオーナーとなったらフューエルインジェクションの設定だけは変えたいと思うだろうが、将来購入を検討したい一台であったことに違いはない。?
デラックスの原型となるのはパンヘッドエンジンのハイドラグライドだと申し上げたが、そのハイドラグライドと言えば初の油圧式フロントフォーク採用モデルで、今から65年前の1949年に登場した。実に半世紀以上も前から残っているわけで、デラックスほかヘリテイジ、ファットボーイらFL御三家の存在そのものがハーレーの歴史と言っても過言ではないことがお分かりいただけたかと思う。そこに加えて快適なライドフィールを持ち合わせているというのだから、ハーレーの歴史に浸りつつ、デラックスとともにいつまでも歩み続けていきたいと思える一途な方がオーナーにふさわしい。デラックスも、その変わらないデザイン同様に、そんな実直な愛を受け止めてくれること請け合いである。