CVO シリーズは数あるハーレーの中でも最高峰の地位を占めるモデルラインである。CVO とは “Custom Vehicle Operation” の頭文字をとった略語で、メーカー純正オプションパーツをはじめとする豪華装備を全身にまとったファクトリーカスタムモデル。ハーレーの最終組立工場の特設ラインにて、選ばれた熟練工によって生産される至高のモデルとされている。基本的に FLH 系や FLT 系など大型カウルを装備したツーリングファミリーがベースになっているタイプが多いが、その中にあって FLSTSE3 ソフテイルコンバーチブルは唯一リジッド風フレームを有するソフテイルファミリーのモデルをベースとしているのが特徴である。
CVO はハーレーブランドの究極のファクトリーカスタムモデルを作る目的で、1997年にハーレーダビッドソン本社のデザイン部門を統括するウィリー・G・ダビッドソンの構想により立ちあげられたシリーズである。ハーレーの純正カスタムパーツビルダーである「スクリーミングイーグル」によってチューニングされたツインカム 110 エンジンを搭載。全ファミリーで最大排気量となる 1,801cc ( 110 キューピックインチ)の空冷OHV45度Vツインは FI と6速ミッションと組み合わせられ、圧倒的なパフォーマンスを発揮する。
今回紹介する FLSTSE3 は、2011年から日本に導入されたモデル。ソフテイルファミリーの由来であるリジッド風のクラシカルなスタイリングが特徴で、マッチドカラーフレームやクロームメッキを施したスティンガーカスタムホイール、本革製レザーシート&サドルバッグ、2点式オーディオスピーカーなどの豪華装備を備える。コンバーチブルの名のとおりウインドシールドやサドルバッグ、ピリオンシート、バックレストなどがデタッチャブル (脱着式) タイプで、好みによってスタイリングを自由に変えられる点も魅力だ。2011 モデルから zumo660 ナビが標準装備となり、ユーザビリティが向上。電子制御スロットルやオートクルーズコントロール、キーレスイグニッションと連動したセキュリティシステム、ABS システムなど最新の電子テクノロジーによって機能性と安全性も高められている。
ソフテイルコンバーチブルを目の前にして感じるのは圧倒的な存在感。その大きさもさることながら、ハーレーの最高峰シリーズである CVO らしいゴージャスな雰囲気が“本物”のオーラを放っている。マット調ブラウンに彩られた車体色と本革製のシート&サドルバッグの使い古したような味わいのある色調のマッチングが見事であり、よく見るとフレームまで同じ色で統一されていて、なんとエアクリーナーカバーのセンター部分まで本革製というこだわり様だ。
その大きさに比べると足着き性はすこぶる良好で、跨ると両足ベタベタ。調べてみるとシート高はなんと 620mm というローシートぶり! そのお陰で 400kg 近い車重でも不思議と安心感があり、低重心が故に取り回しも思ったより楽だ。ライディングポジションも大柄ではあるが、ハンドルの高さやステップ位置も極端なカスタム設定ではなく、むしろゆったりと旅を続けるのに適した設定になっているのが嬉しい。
エンジンを始動すると「ズドン」と腹に響く振動を伴って 110 キュービックインチの巨大Vツインが目を覚ます。エンジンを空ぶかしすると意外と振動が少なくサウンドもマイルドで、「ドコドコ系」というよりは「ドルル系」といった感じ。そう言えばソフテイル系エンジンはバランサーを内蔵していることを思い出した。電子制御スロットルと FI で調教された現代のビッグツインは、空冷 OHV という伝統的なエンジンレイアウトにも関わらずスムーズでマイルド。低速で日本の市街地を流していてもまったくストレスを感じることはない。
真骨頂はやはりハイウェイ。高速道路を法定速度に近いところでクルーズしているときが一番気持ちいい。6速で約 2,000rpm、マイル表示の速度計に目をやるとだいたい 65MPH (約105km/h) である。これは米国のフリーウェイでの一般的な法定速度と重なる。そのレンジでハイギアを使ってゆったり流しているときに、ライダーが最も快適であるように計算されて作られているかのようだ。ハーレーのエンジンは回し過ぎてもいい味は出ない。2,000 ~ 3,000rpm ぐらいが美味しい回転域であり、常用域なのだ。これが歴史の重みなのか……、よく考えられているなと思う。
そして、乗り心地の素晴らしさ。ソフテイルフレームならではの重厚で柔らかな乗り心地はまさにアメ車的。路面の凹凸をなでて滑るように進んでいく様は、まるで 「空飛ぶ絨毯」 に乗っているよう。アメリカ人の言う 「グライド感 = 滑空する」 そのものだ。これぞまさしくハーレーだけの世界である。
コーナリングも巨体に見合わず軽快で、ハンドリングも極めてニュートラル。シートにどっかり腰かけて、曲がりたい方向へ少し体重を載せるだけで素直に向きを変えてくれる。タイトコーナーでのバンク角の少なさはやや気になるものの、このモデルのキャラクターを考えれば妥当だろう。ブレーキは他のハーレーと同様、リア主体で速度コントロールしていくのが正しい方法で、穏やかなタッチながら効力的には必要十分なレベル。ABS も自然なモーションで扱いやすく、この重量を安全に止めるには欠かせない装備だ。
今回はトライする時間がなかったが、デタッチャブルタイプのウインドシールドやサドルバッグ、ピリオンシート&バックレストを取り外すことで、より軽快なチョッパースタイルも楽しめる点も魅力である。また、ウインドシールドと一体化されたナビやオーディオスピーカーは標準的なタイプだが、旅を便利に、より快適にしてくれるアイテムとしては十分だと思う。スマートキーを身につけているだけでエンジン始動や停止ができたり、バイクから数メートル離れると自動的にセキュリティ&アラームが作動するキーレスイグニッションも慣れてしまえば便利で安心なシステムだ。
オーナーになれる人は限られるだろうが、その世界観は格別。ハーレーのトップグレードにふさわしいパワフルな走りと上質感、そしてゴージャスな時間を楽しませてくれるモーターサイクルだ。