トラディショナルな輝きと現代の走りを高次元で両立したソフテイルフレーム。その最大の特徴は 1957 年に終わったリアサスペンションのないリジッドフレームのように見える美しいシルエット。リアエンドの三角フレームをピボットマウントし、ガスを封入したリアショックはトランスミッションの下に見えないよう配置されており、往年のフォルムを再現しつつも快適な走りが味わえる。2011 年の夏に発表された 2012 ラインナップでは全5機種が存在していたが、今春この FLS ソフテイルスリムが加わり、全6モデルに拡張。もともとソフテイルファミリーはラインナップが充実しており、バラエティに富んだシリーズ。2012 モデルもまた、個性的なモデルが出揃ったことになる。
それでは FLS ソフテイルスリムを見ていこう。まず感じたのは余計なものを省いたシンプルさであり、それは「FLS」という車名でも示しているとおり。FL といえば、いまでこそ 17 インチ化されているモデルもあるが、そもそもは前後 16 インチの足まわりにビッグツインエンジンを搭載した機種であり、その装備は大型のヘッドライトやフルカバードフロントサスペンション、ステップボードとシーソーペダルの組み合わせ、大柄なサドルシートなど重厚な佇まいであることが基本。今回発売されたソフテイルスリムはそこを抑えつつ装飾を抑え、単純明快なモデルに仕上げてきた。これはなにをモチーフにしているのか、あるいはどんな新しいスタイルなのか、すぐには頭の中を整理することはできなかったが、ニューモデルリリースにあたってのハーレーダビッドソンジャパンの資料を読んで納得した。そこには 『 1950年代のハーレーダビッドソンの象徴的なクラシックカスタムボバーをほうふつとさせるスタイリング 』 とあり、なるほど、まさにアメリカ 50’s のカスタムボバー。その解釈で間違いはない。
1950 年代といえば、1945 年に終局を終えた第二次世界大戦以後、戦勝国であるアメリカは世界でもっとも豊かな国となり、たとえば四輪車でみても高度成長期の裕福さを象徴するような派手なデザインやオープンカーが数多く登場、その裕福さを世界に誇った黄金期であった。そんな時代の幕開けに登場したのが、1948 年のパンヘッドであるが、その頃の車体がまさに今日の FL のルーツ。エンジンは 1,200cc の FL と 1,000cc の EL が2本立てで用意され、車体は四輪車同様、当時としては派手なペイントや豪華なエンブレム、上級感を漂わすディープフェンダーなど装飾のあるモデルが出現し、評価される時代であった。しかし、そんななかカウンターカルチャーとして確立していたのが、ボバーカスタムである。それはノーマルのフレームや燃料タンク、フロントフォークなどをそのまま活かしつつ、ディープフェンダーやガード類などの装飾部品を取り払う、あるいは切り落としてシンプルにしたスタイルで、確かに FLS に目をやるとクロームメッキを効果的に残したエンジンや車体、ヴィンテージ感を強調する前後スポークホイールをはじめ、チョップド・フェンダーやスッキリとしたリアエンドなど、FLS はそれを強く意識していることが一目瞭然である。
さて、いよいよ跨ってみよう。ソフテイルモデルは足つき性が良く、女性や小柄な人でもビッグツインモデルを臆せず乗れると評判がいいのだが、FLS もまたシート高が低そうだ。実際に跨ってみると予想通り両足はベッタリ、ヒザもゆったりと曲がっており「ずいぶん足つき性がいいな」と思ったら、加重時シート高は 605mm で、なんと 2012 ラインナップの中で最もシート高が低いとのこと。“ハリウッドハンドルバー”と名付けられたハンドルは、いわゆるオフロードバイクのようにサブフレームが真ん中に通されており、これもまた悪路の多かった時代をイメージした FLS 専用のもの。ワイドにみえるが、実際のグリップ位置はバーが程良く絞り込まれ、それほど広くない。むしろ FL モデルにしてはナロー気味と言っていいだろう。フットボードの位置は標準的だが、シート高が低いため座った位置が深く沈み込んだ感覚になり、ステップ位置が若干高く感じる。つまり、その分だけヒザが大きめに折れ曲がり、やや前傾気味となる上半身と合わせ、ムードのあるライディングポジションを形成。カスタムボバーといえるだけのことはあり、一癖あるポジション。味気のないものよりも、このくらいの個性がなければむしろ面白くないと思うのは筆者だけではないはずだ。
いまさらだが、クロームメッキを主張しすぎないよう効果的に使ったツインカム 96B エンジンは、本国仕様ではラウンド型のエアクリーナーが組み合わされているが、日本仕様では楕円形のタイプを採用していることに気づく。これは FXS ブラックライン でも同様で、理由は不明。こだわるのであればカスタムは自由自在であるから、気にするレベルの話ではないだろう。タンクオンのイグニッションをひねり、エンジンを始動させクラッチを繋ぐと、低速から力強いトルクが味わえる。ツインカム 110 や 103 の試乗機会をいただき、そちらを味わった経験がある自分としては、1,584cc はもはや物足りないのではと心配になったが、決してそんなことはない。このトルクフルな低中速は、むしろツインカム 96B の熟成を改めて再確認した次第で、フューエルインジェクションが供給するスロットル開度に見合った混合気が燃焼室で効率良く爆発している感じが、スムーズな吹け上がりとともにいっそう印象強く感じ取れる。
フロント 16 インチの足まわりは粘り強いグリップ感を感じる安定志向で、タイトコーナーやUターンもグルグル回る。前傾気味のポジションも手伝い、コーナリングはついついペースが上がり、ハンドリングの感覚は FXDF ファットボブ に近い。その逆に対極となるのが FXS で、ヒラヒラな軽快感を追い求めるならブラックラインを選べばいい。そんなふうに他機種のキャラクターが明確にイメージできたのは、FLS の存在理由が乗れば乗るほど明確になってくるからで、どのモデルにもないオリジナリティにあふれていることは一度跨れば気づくはず。ソフテイルファミリーのバリエーションが、ますます魅力的になったと最後に断言し、筆を置きたい。