1999年に登場して以来、その独特のフェアリングから他のツーリングモデルにない存在感を放ってきた FLTR ロードグライド。目を引くポイントと言えばデュアルヘッドライトというそれまでのラインナップにないデザイン面だが、もっとも重要な点はこの大型カウルがフレームマウントされていること。これにより軽快なハンドリングを実現、新しいツーリングファミリーの楽しみ方を提案するモデルとして君臨し続けた。そのロードグライドが10年の時を経て、ついにハーレーのフラッグシップの代名詞たる“ウルトラ”の名を冠したハイグレードモデル FLTRU103 ロードグライド ウルトラとして姿を表した。キングツアーパックや103キュービックインチにパワーアップしたツインカムエンジンなど、ウルトラの名にふさわしい装備となったロードグライドの真の魅力を探るべく、インプレッションを行った。
まずは改めて、ベースモデルである FLTR ロードグライドの特徴について整理しよう。デビューは1999年、同じく新たに登場したツインカム88エンジン(排気量1,449cc)を心臓にラインナップに加わった。以降10年以上に渡って愛され続けているロードグライドだが、その特徴はフロントフェアリングだろう。ハーレーの特徴でもあるヴィンテージテイストとは真逆の近未来的なデザインのカウルには、高いウインドプロテクション効果を生み出すほか、カウルそのものがフレームマウントとされていることから FLHTCU ウルトラクラシック・エレクトラグライド などと違ってカウルの重量をフレームに預けるスタイルとし、結果それまでのツーリングモデルになかった軽快なハンドリングを実現。その重量感に四苦八苦していたユーザーにとっては朗報であり、ツーリングファミリーにさらなる楽しみ方を提案するモデルとして、今なお多くのオーナーに支持されている。2010年にはファクトリーカスタムという形で FLTRX ロードグライド カスタム が登場。そのハンドリングを活かす意味でボディ全体をコンパクトにまとめ、スポーティなイメージを植えつけることに成功。タウンユースというジャンルにまで乗り込むアグレッシブさが印象的で、ロードグライドにさらなる可能性を感じさせた。
今回ウルトラ仕様となったこの FLTRU103 ロードグライド ウルトラは、ファクトリーからの提案というよりも、ロードグライドのヘヴィユーザーからの強い要望に応えたというイメージがある。というのも、H-D正規ディーラー店にてロードグライドのオーナーがどんなカスタムをするかと聞くと、ほとんどの人がツアーパックラゲッジをチョイスするという。確かにツーリングファミリーのモデルである以上、ストリートメインの FLTRX などとは違って求められるのは快適なツーリング用機能だ。その点で言えば FLHTC や FLHTCU と比較された際、ツアーパックラゲッジの有無は大きな差となっていたのだが、今回のウルトラ化によって標準装備することとなり、その差は埋まることに。さらにツインカム96エンジンは2010年モデルの FLTHCU と同じく103キュービックインチにアップ、また足つき性を向上させるワンピースナローシート(加重時シート高は699mm)や4スピーカーのハーマン / カードン社製アドバンスオーディオシステムの採用など、ロードグライドは文字通りフラッグシップモデルにまで登りつめたわけである。
今回初めてインプレッションという名目でロードグライドに乗ったのだが、想像していた以上にハンドリングが軽快なことが嬉しい驚きで、これまで抱いていたツーリングモデルのイメージが偏見であったことを教えてくれた。重量そのものは変わらないから停車時の取り回しでは学ぶべき点が多々あるが、一度走り出してしまうとその軽やかさが安心感を生み、慣れてくるにつれてコーナリング時のバンク角を深くさせたりと、ライディングを向上させたくなる心情を掻き立ててくれる。ストリートでもその能力を如何なく発揮、ストップ&ゴーでの安定感もなかなかのもので、当初抱いていた先入観はどこへやら、順調に流れているときなど乗っているバイクがツアラーだということを一瞬忘れさせてくれるほど快適だった。フロント17インチ / リア16インチにホイールベース1,630mmという組み合わせが生み出すバランスは絶妙で、走行時のバランス感覚を身につければ直進でもコーナーでも車体の重さに四苦八苦することなくスムーズに流していける。渋滞にハマった際は少々気を使うが、男性ライダーであればそれほど腕に力を込めずとも取り回せるだろう。
そして本モデルが属するツーリングファミリーの真骨頂と言えば高速道路走行である。都内から東名高速で御殿場まで走ってみたが、ここでのテスト走行でも好バランスのライディングが楽しめる。当初はロードグライドの特徴である軽快なハンドリングが「逆に直進安定性を損ねているのでは?」というギモンを抱いていたのだが、その心配は杞憂だった。フロント130mm / リア180mmという前後タイヤ幅が路面を踏み締めるような安定感ある走りを生み、車体をブレさせることなく高速域での走行を味わわせてくれる。103キュービックインチとなったツインカムエンジンは腹の底から盛り上がってくるようなトルクを体感させてくれ、ウインドプロテクションも効果を発揮してくれるので体への負担は少なく、どこまでも走っていけるような気になれる。22.7リットルと十分な容量を誇るフューエルタンクは、東名高速の東京⇔浜名湖SA間なら無給油での走破を可能とする。ある程度スピードを出してからABSを作動させてみたが、車体に必要以上の負荷をかけることなく、タイヤのロックを防ぎつつ減速させてくれる。新機能の4スピーカー搭載のハーマン / カードン社製アドバンスオーディオシステムも申し分なし。停車時には違和感なく音量を下げ、そして発進すれば気分を高揚させてくれるサウンドを楽しませてくれる。
気になったのはフロントフェアリングのスクリーンの高さだ。174cmのライダーだとちょうど目線がスクリーンの切れ目と平行になり、景色が歪んでしまうきらいがあった。当然ながら身長や体型で異なってくるので、購入を検討する方は一度跨って確認してみることをオススメする。ツアーパックラゲッジについては言わずもがな、その容量に文句のつけようなどない。サドルケースにETCを搭載すれば鬼に金棒、高速道路を走りたくて仕方がなくなること請け合いである。
「本当はツーリングモデルに乗りたいと思っているんですが、私は体が小さいので取り回しに不安があるんです」、そんな声を聞いたことが何度かある。確かにツーリングモデルのスペックを見てみると、2011年モデルなら一番軽い FLHR ロードキングや FLHX ストリートグライドでさえ車両重量が368kgもある。よほど体格に恵まれた人でない限り「取り回し? 余裕ッス」とは言えないだろう。しかし、ことロードグライドに関して言えば、必要なのは取り回す際のバランス感覚を得ること、つまり“慣れ”と言っていい。もちろん面構えについて好みが大きく分かれるところではあるが、体格を問わずツーリングを楽しませてくれるロードグライドの間口の広さは一度体験してみるべき。フェアリングのデザインに対する好みすら打ち消してしまう快適性を有しており、他モデルと乗り比べたらその違いをはっきり体感できるだろう。たとえ小柄なライダーでも無理なくコントロールできる懐の深さこそ、ロードグライドの真の魅力であり、FLTRU103 ロードグライド ウルトラはさらなる高みへといざなってくれる存在なのだ。
新しいウルトラの登場という意味で言えば、ツアラーファンにとっては嬉しいラインナップ増ということになるでしょう。当店で過去にロードグライドを購入された方のほとんどがツアーラゲッジを装着されていますので、オリジナルカラーで標準装備というのは大きなメリットと言えますね。また同時にパッセンジャーの快適性を向上させたところも評価すべき点です。フェアリングのデザインで好みが分かれるところではありますが、積載量とパッセンジャーの快適性で車両を選んでいたユーザーにとっては選択肢が増えたわけで、“雰囲気重視型”の FLHTCU103 と“快適な走行性型”の FLTRU103 とで差別化を図れるのも楽しみのひとつ。ツーリングファミリーにご興味がある方には試乗を重ねた上で、大いに悩んでいただきたいと思います(笑)。(ハーレーダビッドソン練馬 大竹 三智男氏)