VIRGIN HARLEY |  XR1200X試乗インプレ

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HARLEY-DAVIDSON XR1200X(2010)

XR1200X

新しいカテゴリでの挑戦は加速するばかり
XR1200Xに込められたハーレーの狙いとは

2010年モデルが発表された中にこのXR1200Xが並んでいるのを見て、「もうXR1200の新型が出るのか!」と驚かれた方も少なくないだろう。それもそのはず、ベースモデルであるXR1200は2009年に登場したばかりのモデルで、クルーザーオンリーのハーレーから生まれたストリートスポーツ型モーターサイクルとして注目を集めた。ある意味“異質な存在”でもあったXR1200がわずか1年でグレードアップしたわけだから、そこにハーレーダビッドソンというメーカーが新しいカテゴリに挑戦しようとしている意思を感じずにはいられない。スタンダードなXR1200との違いはどこにあるのか、さらにストリートスポーツというカテゴリに参入しつつあるハーレーの狙いとは。あらゆる観点からこのXR1200Xに迫ってみよう。

XR1200Xの特徴

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一世を風靡した王者の系譜を持つ
漆黒のストリートスポーツモデル

スポーツスター・ファミリーのみならず、ハーレーのラインナップにおいて「XR」と冠されたモデルはこのXR1200XとXR1200だけ。しかし「XR」の歴史は古く、初代モデルXR750の誕生を追うと1972年まで遡る。ちょうどこの頃ハーレーは、昔も今もアメリカで親しまれているポピュラーなレース「ダートトラック・レース」にワークスとして参戦していた。1960年代後半、好成績を収めていたハーレーはさらにライバルを突き放そうと、新型モデルXR750を投入。4カムOHV空冷Vツインエンジンを搭載したこのモデルは期待通りの活躍を見せ、1970年代の様々なレースで表彰台に君臨し続けた。XR1200やスポーツスターXL883Rに描かれているオレンジにチェッカー柄のタンクグラフィックはこのXR750から受け継いだもので、そこには“最速”の名を欲しいままにした当時の存在感を誇示する意味合いが含まれている。今や馴染みのグラフィックは、今から約35年前のレースシーンを席巻した証なのだ。

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そんなXRが長年の歴史を経て、XR1200として登場したのが2009年。XR1200Xの基本的な部分は、スタンダード・モデルとほとんど変わらない。エンジンは日本仕様に換えられている部分はあるが、ビューエルより譲り受けたものを搭載。ホイールやシリンダーなどもXR1200同様、ビューエルが培ってきたスポーツ性能に不可欠な要素を引き継いでいる。しかし決定的に異なる部分がある。それが前後サスペンションだ。まずフロントフォークだが、2009年にスズキが発表したスーパースポーツ「GSX-R1000」にも搭載されているショーワ製BPF(ビッグ・ピストン・フロントフォーク)を採用。さらにリアには同じくショーワ製リザーブタンク付きサスペンションを装備。前後とも調整機能付きで、微妙な味付けを自分好みに変えられる。これまでハーレーがリザーブタンク付きリアショックを採用したのは、スポーツスターXL1200Sだけ。「XR1200をよりスポーティに走らせるためには」を突き詰めることがXR1200Xに課せられた命題であることに疑いの余地はなく、前後サスのパワーアップという答えは必然だったと言える。ダンロップ製のハイグリップラジアルタイヤ「QualifierⅡ」もXR1200同様に他のモデルが履いていないもので、強力なエンジンから送られるパワーを力強く受け止めるために採用された。そして真っ黒に塗装されたカラーリングも見逃せない。エンジン、エギゾースト、エキパイ、リアフェンダーは見事にブラックアウト。タンクグラフィックもただ塗り替えただけでなく、現代風にバランスよくアレンジされているのが特徴的。ホイールにオレンジのピンストライプが入っているのは、ハーレーらしい遊び心か。

このように様々な特徴点が挙げられるわけだが、XR1200と比較して導き出されたのは「足周りの強化」であり、コーナリング時における走行性能および走行バランスの維持をパワーアップさせたことが伺える。そこから見える背景は、サーキットなどのレースシーンやワインディングというシチュエーションだ。サーキットはともかくとして、ハーレーダビッドソンを生み出したアメリカという国の道路事情を考えると、ワインディングやストリートライドは決して需要の多いカテゴリとは言い難い。この疑問を解消すべく、僕はXR1200Xに跨ってみた。

XR1200Xの試乗インプレッション

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ワインディングこそホームタウン
その走行性能はハーレーにあらず

当然と言えば当然だが、加重時のシート高が795ミリということから、身長173センチの僕でも足が地面にべったり着くことはない。とはいえ踵が浮く程度で、他メーカーのストリートモデルはすべて同じようなものだから停車時の不安とはならないだろう。エンジンをかけると、ビッグツインやスポーツスターのエヴォリューションとは違うキレのいいエンジン音が耳に響く。それなりの鼓動感はあるものの、目隠しして跨ったらハーレーだとは気づかないような鼓動である。さすがはビューエル譲りの強心臓と言ったところか。ギアを入れて発進すると、慣れ親しんだハーレーの乗り味はすべて吹き飛ぶ。普段僕が乗っているスポーツスターXL1200Rとの違いは顕著で、スロットルを回したときのエンジンの反応は、ハーレーの範疇を超えた素晴らしさ。加えてギアチェンジもあまりに滑らかなため、一体どこのメーカーのバイクに乗っているか忘れてしまいそうになる。肩幅よりも外に出張るワイドバーをはじめ、リアフェンダーと一体化したシートもやや幅広く、乗り出したときは“乗せられている”感があったが、慣れてくるとこのポジションでの操作が面白くなってくる。街乗り走行後、高速道路での走行を試みる。さすがと言うべきか直進時の高速走行性能はかなり高い。他のモデルのような「どしん」とした低い重心がもたらす安定性とは違い、モーターサイクルとしてのバランス感覚の良さが体感できる。

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そしてワインディングでの走行を試してみたのだが、やはりXR1200Xがもっとも得意とするフィールドはここのようだ。軽快なエンジンフィーリングとワイドながら安定感に秀でたハンドリングが走りに軽やかさを与えてくれ、峠道を心地良くクリアしていく。グリップ力のあるタイヤを履いていることも大きな手助けとなっている。直進走行時の加速の良さはシティユースの際に実証済みだが、スピードを上げてからの急制動を試してみると、フロントに取り付けられたダブルディスクが握り込んだレバーからの指令を受けて適切な力でブレーキングを始め、そしてフロントフォークがしなやかな動きで急制動の際の沈み込みを柔らかく受け止める。XR1200と乗り比べられたら、ショーワ製BPFの性能をより顕著に味わえたのかもしれない。XL883型モデルをXR750風にカスタマイズして峠を楽しむユーザーも少なくないが、このXR1200Xはユーザーとは違ったアプローチで、ワインディングでの走りをより充実させるために生み出されたモデルだと言える。

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強化の方向性どおり、XR1200Xはやはりストリートおよびワインディングでの走行性能の向上が目的だった。今までハーレーとは無縁だと思われてきたこのカテゴリに対する取り組みは、スポーツスターというモデルに秘められた可能性を広げる意味合いがあるのではないだろうか。とりわけヨーロッパ諸国や日本では、アメリカ以上に「ストリートでの楽しみ方」が浸透している。ハーレーのラインナップで「ストリート向きと言えば?」と言われれば、ほとんどの方がスポーツスター・ファミリーから名を挙げることだろう。その中で「よりスポーティな走行を突き詰めたモデル」を生み出すためにハーレーが導き出した答えが、このXR1200シリーズなのではないだろうか。そう考えればXR1200の翌年にXR1200Xが登場したのも、「このカテゴリに対する挑戦は始まったばかり。まだまだここから進化させる」と納得できる。XRシリーズの展開が楽しみになってきた。

XR1200X の詳細写真

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エボリューションエンジンまで黒く塗装されたマットなボディが印象的。しかし真の魅力はここだけではない。
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リバウンド/コンプレッションダンピング調整機能が付いたショーワ製BPFフロントフォークを標準装備。
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ライダーの肩幅より左右に数センチほど広いハンドルバー。好みが分かれるところかもしれない。
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フロントフェンダーなど、デザインはXR1200のままにブラックアウトされている。
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このハイパフォーマンスブレーキの採用など、XR1200の足回りをよりパワーアップさせている。
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チェッカーがあしらわれたオリジナルのタンクグラフィック。レーシーな雰囲気が際立つところだ。
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シャープなリアフェンダーと一体型になっているツーピースのシート。
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スポーツスター・ファミリーのなかでも異彩を放つエンジン形状も、ブラックパウダーコート仕上げとなっている。
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XRだけに取り付けられているエアダクト。
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フロントと同じく、リザーバー付きリアサスペンションも調整機能が付随している。
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2-1-2ストレートショットのマフラーもブラックアウト。精悍さが増した印象がある。
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身長173センチのジャージーで足つき性チェック。やはりXR1200X、ベタ足とはいかない。

こんな方にオススメ

ハーレーの最先端を行くモダンスポーツ
乗り続けることで次のステージが見えてくる

「XR」という伝統を引き継ぎながら、近未来的なイメージを思わせるモダンなデザインで覆われたXR1200X。インプレッションでも述べたとおり、ストリートやワインディングでその威力を発揮することから、峠やサーキット走行を楽しみたい人にオススメだと言える。ただ、これは試乗すれば誰でも分かることだし、それだけでXR1200Xを知ったことにはならない。前述したが、このXRシリーズはハーレーの新しい挑戦を具現化したモデルで、わずか1年でのグレードアップからも分かるとおり、ハーレーはこのカテゴリでの開発を楽しんでいるのかもしれない。つまり、今後刻まれていくハーレーの歴史において、XR1200Xは時代の先駆者となりえる存在なのだ。100年以上におよぶハーレーの歴史を振り返れば、それが絵空事ではないことは想像に難くない。そして、現時点での最先端モデルであるXR1200Xに乗り続けることで、次にハーレーがどんなことに試みるか、見えてくることもあるだろう。XRシリーズのオーナーにしか見えない未来のハーレーの姿……。これからの歴史をつぶさに見てみたい人こそ、XR1200Xのオーナーたりえるのだ。

プロフェッショナル・コメント

サスをいじる楽しみを教えてくれる
H-D流解釈から生まれたスポーツモデル

最大の特徴は、何と言ってもXR1200と比べて前後サスペンションがグレードアップしている点です。これはハーレー全モデルに共通していることですが、どの車両もライダーの体重を180ポンド(81.7キロ)に設定して設計されています。日本人の平均体重より重く設定されているので、体重の軽い人だと段差で跳ねてしまったりすることがあるのですが、XR1200Xの前後サスペンションはアジャスタブル(調整機能付き)ですので、自分の体重に合わせた調整が可能です。ハーレーに乗っているライダーの多くが「サスペンションを調整する」という基準を持っていらっしゃらないので、このXR1200Xで“サスを触る楽しみ”を知っていただけると、よりハーレーを楽しむ幅ができるのではないでしょうか。さらにラジアルタイヤ「Qualifier II」は低温でもグリップを確保するスグレモノですので、サーキットはもとよりストリートや峠でもバツグンのグリップ力を発揮します。どうしても他メーカーのスーパースポーツやネイキッドモデルと比較されがちですが、走行性能のレベルは一般的なライダーのスキルを鑑みた設定になっていますし、その上でサスペンションやタイヤを選んでいるので、「峠やストリートを楽しみたい初心者向けのモデル」と言えるでしょう。(ハーレーダビッドソンシティ中野店 清水氏)

バージンハーレー読者のカスタムハーレー

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2009年式 スポーツスターXR1200 / 三好 勝之さん(東京都)

自分にとってちょうどいい性能
いろんな乗り方で楽しんでいます

2006年にヨーロッパでこのXR1200の発表があって以来、ずっと「乗りたい!」って思っていたんです。ただそのときはカワサキのZ2を所有していて、さすがに2台所有は難しかったのでガマンしていました。2009年にようやく決心してZ2を手放し、このXR1200を購入したんですが、文句の付けようがない良いバイクです。ちょうどXR1200Xも新モデルとして登場していたのですが、やはりオレンジにチェッカー柄のタンクグラフィックが気に入っていたので、迷わずコイツにしました。昨年はバイク仲間と一緒に北海道へ行くなど、ツーリングにも使いますが、ワインディングを走るのも楽しいバイクです。ビッグツインに憧れる気持ちもありますが、サーキット走行会に参加したりもするので、やっぱりXR1200がちょうどいいんですよね。基本的にH-D純正パーツでのカスタムが主で、今後はXR1200Xに標準装備されている「パフォーマンス・サスペンションキット」を取り入れたいと思っています。でもかなり高価なので、もう少しお金を貯めてからですね(笑)。XR1200は、僕にとって“ちょうどいい”バイクなんで、まだまだコイツでいろんなところに走りに行きたいです。

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