2007年を最後にラインナップから姿を消したFXDWGダイナ・ワイドグライドが、3年ぶりの復活を遂げた。しかもただ戻ってきただけでなく、CVOを合わせて7タイプある2010年ニューモデルの中でも際立った存在感をまとっての再登場となった。その理由は、“ファクトリーチョッパー”という独自のスタイリングに他ならない。伝統のフォワードコントロールやオリジナルパーツの数々を各所に配した姿は、FXDLダイナ・ローライダーやFXDBダイナ・ストリートボブなど、人気モデルがひしめくダイナ・ファミリーにおいても他を圧倒している。はたして再登場となったワイドグライドの乗り味はいかほどのものか。あらゆるシチュエーションを想定してインプレッションしてみた。
ここ10年ほどハーレーのラインナップを見続けてきた方は、今回2010年モデルの中に「FXDWGダイナ・ワイドグライド」の名前を見つけたときにどんな感想を抱かれたことだろう。このワイドグライド、初代モデルであるFXWGのデビューはなんと1980年と、四半世紀の歴史を持っている。当時ハーレーダビッドソン社は大手機械メーカーAMF(アメリカンマシンファンダリー社)傘下に加わった時代で、100年以上におよぶハーレーの歴史において「暗黒時代」と呼ばれている時期に産声を上げた。ワイドグライドを生み出したのは“ハーレーの生ける伝説”ウィリーGで、1971年のFXスーパーグライド、1977年のFXSローライダーに続く名車に数えられている。最大の理由は、メーカー自らがチョッパースタイルを手掛けた“ファクトリーチョッパー”というカテゴリである。21インチのフロントタイヤに細身のフロントフォーク、フォワードコントロールというフットポジション、ボブカットされたリアフェンダーという独特のフォルムに、フレイムパターンのデザインでまとめられた車体からは、他モデルにないオーラが漂っていた。以降、2007年までその特徴を残しながらラインナップに名を連ねていたのだが、3年前、惜しまれながらその姿を消した。
2010年、復活を遂げたワイドグライドは伝統のスタイルを踏襲しつつも、各所にオリジナルパーツを配した“新時代のファクトリーチョッパー”としての存在感を見せ付けている。21インチフロントタイヤ、フォワードコントロール、レイク角34度の49mm径ワイドフロントフォークなどはそのままに、ブラックハンドルライザーと1.25インチ・インターナルワイヤハンドルバーを取り入れてハンドル周辺をすっきり見せている。これはチョッパースタイルを強調するための配慮だと言っていい。さらに2007年モデルまでFXSTCソフテイル・カスタムと同じボブフェンダーが変更、ノーマルフェンダーを半月型にカッティングしたチョップドリアフェンダーと、スパルト型のLEDレトロスタイルテールライトという他モデルにないパーツを採用した。そこにブラックワイヤーシーシーバーが装着されており、FXDWG独自のリアスタイルを形成している。また近年の流行を取り入れ、クランクケースやリムをブラックアウトして全体のカラーリングを引き締めている。3色あるモデルのうち、フレイムパターンのデザインが入ったモデルは初代FXWGを意識したものだろう。2-1-2トミーガンエキゾーストは従来のノーマルマフラーにない重低音を生み出し、見た目と走りに力強さが加えられた。ハーレーダビッドソンが打ち出した新しいファクトリーチョッパーの概念に、妥協ポイントはない。
ワイドグライドを試乗するにあたり、もっとも気になった部分、それはフォワードコントロールだ。これまでFXCWCソフテイル・ロッカーCやFXSTBナイトトレインと、何度かフォワードコントロールの車両をインプレッションしてきたが、身長173センチの僕にとって決してラクとは言い難いフットポジションである。跨ってみた段階では、膝が軽く曲がったうえで地面にべったり着く。ここまではいい。そしていざスターターをひねり、クラッチに足を伸ばしてみると…やはり足を蹴り出すような姿勢になった。シートに深く座り込むとちょうど足が伸びきるぐらいで、逆にシートに浅く座ると少しだけ膝に遊びができる。やはりアメリカ人規格で造られたバイクということなのだろう。しかしこんなことでひるんでいては、ハーレー担当なんてできやしない(?)。いよいよ走行開始、まずは東京都内をぐるっと走ってみる。乾燥重量310キロというだけあって、重さは相当なもの。ただローリアサスペンションの採用などから重心が低く設定されているので、その重さはいい意味で安定感に生かされている。フロントフォークのレイク角も34度とかなり寝ていることから、ホイールベースは1740ミリと、全モデル中で2番目の長さを誇る(最長はFXCWCソフテイル・ロッカーCの1758ミリ)。それゆえ、やはり気を付けたいのはコーナー時。独特のフォルムゆえ普段ミッドコントロールで慣れている人は戸惑ってしまうかもしれないが、乗り慣れてくればバランス感覚も養われてくるので、逆に意識しすぎない方がいい。
そんなフォワードコントロールだが、ハイウェイ走行に移った途端、それまで隠れていた楽しい乗り味を発揮し出した。シティユースだとどうしても右左折や急カーブを想定してしまうが、直線走行がメインの高速道路ならそんな心配は無用。心置きなく加速していくと、自然と姿勢が屈んでいき、ライディングフォームが「くの字」を描き出す。こうなると、それまでステップに足を“引っ掛けていた”のが、ステップを“押し出す”ようなスタイルになってくる。やはりハーレーは直線を突っ走ってナンボ、ということか。
さらにこの高速走行に安定感を加えているのが、FXDFダイナ・ファットボブにも採用されている180ミリリアタイヤだ。太いリアタイヤはコーナリングこそ得意とはしていないが、その威力が発揮されるのは直進走行時。路面との接地部分が広いので、スピードに乗った状態で風に煽られてもビクともしない。前後16インチとバランスの良さに定評があるFXDFダイナ・ファットボブが持つリアの安定感を元来のチョッパースタイルに取り入れた、ハーレーダビッドソンの新しい試みだと言っていい。さすがは1970年代にニュースタイルを提示したダイナ・ファミリーの人気モデルだ。
ハーレーダビッドソンが生み出すバイクの背景に見えるのは、やはりアメリカという国だ。ストップ&ゴーが多く、狭いエリアでの取り回しが必要とされる日本の道路事情など考えちゃいない。ストレートのフリーウェイが果てしなく続く広大な国土を力強く走り切ることがもっとも重要なわけで、そのロジックからすればこのFXDWGダイナ・ワイドグライドの構造は理に適っている。となれば、細かいことなどまったく気にせず、風を全身に浴びながらハイウェイをどこまでも走り続け、「これでいいのだ!」とバ●ボンのパパのように笑える大らかな心の持ち主にこのモデルをオススメしたい。単調な風景が続く高速道路でさえ、フレイムパターンのデザインとハーレーのエンブレムがその風景をルート66に変えてくれるだろう。
ワイドグライドは、ダイナ・ファミリーの中でもっとも尖がっているモデルだと思います。特にフォワードコントロールから生まれるライディングフォームはアメリカ人仕様とも言えるもので、そういう意味では「乗り手を選ぶ」と言ってもいいかもしれません。その名前が表すとおり、2本のフロントフォークの幅がダイナ・ファミリー中もっとも広いところも特徴のひとつ。そんなワイドグライドですが、乗りこなせるようにさえなればカスタムするのが楽しくなるモデルだと思います。その大きなボディに寝かし込んだフロントフォーク、フォワードコントロールと、いわゆる“チョッパースタイル”へカスタマイズするのにこれほど適した1台はありません。チョッパーと聞くと、映画『イージー・ライダー』のキャプテン・アメリカ号を想像しますよね。あれはソフテイルに用いられているリジッド形状のフレームがベースになっていますが、フロント部分のイメージはこのワイドグライドがかなり近しいと言えます。フレイムパターンのタンクデザインもプラスアルファですね。エンジンの鼓動については、ソフテイル以上に体に響いてきますから、合わせて楽しめるモデルです。いろんな意味でハーレーらしい1台ですので、興味がある方はぜひ試乗してみてください。(ハーレーダビッドソン練馬 大竹氏)
2005年式 FXDWGダイナ・ワイドグライド / かずさん(東京都)
当初はFLSTCヘリテイジ・ソフテイル・クラシックを購入するつもりでディーラーに足を運んだんですが、そこにこのワイドグライドが展示されていたんです。なんとも独特のスタイルをしたモデルだな、と思って店長に伺ったところ、「これは乗り手を選ぶモデルです。日本人向けではないですね」と言われました。その言葉にビビっときちゃいまして(笑)、しかもタンクカラーが白とすごく目立つ。私は身長が180センチありますので、跨ってみたら軽く膝が曲がる程度でした。「これなら乗れる。しかも目立つ!」と思い、購入したんです。最初の1年で4万キロを走り、そして4年4ヶ月でH-Dの「走りの殿堂」入りとなる10万マイルを達成しました。現在走行距離は16万キロにおよんでいますが、故障なく快適に走れています。乗っているから調子がいいのかもしれませんね。