XL883Nアイアン、XL1200Nナイトスターと、近年は車体をブラックアウトしたモデルが流行となっている。そんな中、今年でデビュー10周年を迎える真っ黒なモデルがある。それが今回紹介するFXSTBナイトトレインだ。1999年、今も名車として名高い旧モデルFXSTSBバッドボーイの後継モデルとして登場し、10年におよぶベストセラーモデルとして君臨するまでになった。今でこそソフテイル・ファミリーには、昔と変わらない人気の高さが魅力のFLSTFファットボーイや、2008年より登場したFXCWソフテイル・ロッカーにFLSTSBソフテイル・クロスボーンズといったファクトリーカスタムモデルなど、個性溢れる華やかな車両が数多くひしめいているが、そんな周囲と見比べたとき、いささか地味な印象を受けてしまう。はたしてモーターサイクルとしての性能はいかがなものか。兵庫県伊丹市から京都府舞鶴市まで、200キロ近い距離を走ってインプレッションを行い、その潜在能力に迫った。
21インチのフロントタイヤにフォワードコントロール、ブラックアウトされた車体。それらの要素は、ソフテイル・ファミリーの中でも異彩を放つナイトトレインの代名詞だが、その歴史をたどっていくと前述したFXSTSBバッドボーイに行き着く。1995年に登場した同モデルは、それまでのソフテイル・ファミリーにない斬新で独特のスタイルを有していたことから、当時大きな話題を呼んだ。現在で言うところのファクトリーカスタムモデルに位置づけられる存在で、“スタイリッシュなソフテイル”というひとつの地位を確立。ナイトトレインはここからスプリンガーフォーク以外の部分を受け継いだモデルで、洗練されたスタイルと漆黒のボディは昔と変わらない人気の高さを誇る。わずか4年という短命だったバッドボーイと比較すると、先代以上の魅力を持っていることが伺い知れる。
そして1999年と言えば、「ツインカム88」という新型エンジンが開発されたハーレーダビッドソンの歴史において特に重要な年である。同期であるFLHRIロードキングはデビュー当初からツインカム88を搭載していたが、バッドボーイの後継モデルという位置づけからナイトトレインは80キュービックインチのエボリューションエンジンを載せていた。仕様変更が行われたのは2002年、ツインカム88へとチェンジしたことにより排気量が1,340ccから1,450ccへと拡充したときだ。これにより滑らかな走行性能と力強さを併せ持つようになったナイトトレインだが、当時の写真と現行モデルを見比べると、ミラーやタンクデザインといった外装の一部を除いて、そのスタイルのまま今日に至っていることが伺える。美しいリジッド型のソフテイルフレームと黒くパウダーコートされたビッグツインエンジン、そしてポイントにクロームパーツを配したバランスのいい漆黒の車体デザイン。その姿は、名前が表すとおり「闇夜を駆け抜ける鉄道」の如し。きらびやかで個性的なハーレーも魅力的だが、飾らないシックなスタイルを貫き通すナイトトレインには、変革期を迎えた1990年代後半のハーレーの歴史を物語る奥ゆかしさが潜んでいる。
「黒い」。目の前に現れたインプレッション用のナイトトレインを見た瞬間の感想を聞かれると、このひとことに尽きる。シンプルなH-Dロゴが描かれた黒いガソリンタンクに、黒くコーティングされたエンジン、黒いシート、黒いフェンダー、黒いオイルタンクと、目に付くパーツのほとんどが黒い。近年の主流を考えれば決して珍しくないブラックアウトモデルだが、スポーツスターよりもひと回り大きいビッグツインだと、より一層迫力を増して見えるから不思議だ。車両にまたがってみて最初に感じたのは、ドラッグハンドルバーとフォワードコントロールという独特のライディングポジションに対する戸惑いだ。両手と両足を前方に突き出す「くの字」型のポジションで、平均身長では日本人をはるかに上回るアメリカ人を基準に調整されているためか、身長173センチの僕だと手足にあまり遊びがないライディングフォームを余儀なくされる。とはいえ、決して苦になるというわけではないし、座り方次第で調整可能だ。確かに取り回しは少々重いが、それ以上にナイトトレインの長所を挙げるとすれば、直進走行時の安定感に他ならない。兵庫県伊丹市のハーレーダビッドソン・プラザ伊丹で車両を借りた僕は、目的地を日本海側に位置する京都府舞鶴市に設定し、中国自動車道、舞鶴若狭自動車道と、往復で約200キロにおよぶ高速道路でのテストを敢行した。
高速道路に乗ったナイトトレインは、水を得た魚のように高い直進走行性を発揮。中国自動車道には大型トラックによって刻まれた太い轍が続くポイントがあるのだが、低いシート高と317キロという乾燥重量によって生み出された抜群の安定感が、そんな轍をいとも簡単に踏み越えていく。野太いトルクと鼓動が心地良い振動となって体に伝わり、ビッグツイン本来の楽しい乗り味を満喫させてくれる。そしてドラッグハンドルバーにフォワードコントロールという前屈のライディングスタイルは、強風をも突き破って邁進しようというアグレッシブな気持ちを引き起こす。巡航速度は決して速いわけではないが、こうした様々な要素にナイトトレインの攻撃性が内包されている気がした。
ふと思い出したのが、FXCWCソフテイル・ロッカーCをインプレッションしたときのことだ。ライディングポジションはほとんど同じと言っていいほど似ているし、リジッド型のソフテイルフレームにツインカム88と、前後タイヤサイズやホイールベースなどに差異はあるものの、共通項の多さから直進走行時の乗り味はほぼ同じ。ロッカーおよびロッカーCは、ベースの部分ではナイトトレインと一緒だと言えるだろう。確かにインパクトの大きさという点ではロッカー・シリーズには敵わないが、ナイトトレインからは「派手にせずとも、乗れば分かるじゃないか」と、短い言葉でハーレーダビッドソンというモーターサイクルの良さを説いてくる懐の深さを感じる。そう、「変わらないこと」こそが、ナイトトレインの主張なのだ。
ブラックとクロームでバランスよくデザインされたスタイリッシュなボディ、そして安定感に秀でた直進走行性能など、近年のモデルにはない独特の魅力を秘めたナイトトレインだが、たとえば街中やツーリング先で見かけたとしても、「ナイトトレインだ」と見抜ける人は少数派だろう。となると、「気づいてもらえなくてもいい、オーナーの自分さえその良さが分かっていれば」という価値観の持ち主……つまり、自分だけの世界で優越感を感じられるナルシストなあなたにオススメしたいモデルということになる。そう、華やかなスタイルの車種と違い、全身を黒くコーティングされたナイトトレインは、オーナーだけにしか自分の魅力を伝えない一途な想いを持っているのだ。2人(?)だけの蜜月を演出してくれる漆黒の鉄馬、ナイトトレイン。ひとたびツーリングに出れば、絵画のような美しい絶景でさえ、あなたたちを鮮やかに引き立たせるただの背景となってしまうだろう。
現在の最先端であるブラックアウトテイストをいち早く取り入れたモデルとして知られるナイトトレインですが、ドラッガースタイルというカスタムテイストを色濃く残したバイクだと言えますね。ドラッグハンドルバーにフォワードコントロールと、日本人の体型を鑑みるといささかきつめのポジションではありますが、ライザーを取り付けてハンドルを手前に持ってくるなどすれば断然乗りやすくなります。ちょうどエボリューション・エンジンが最後を迎えた1999年にデビューしたという背景から、歴史的に見ても面白いモデルです。またこの車両の特性としては、カスタムのベースモデルとしての魅力です。ハーレーダビッドソンが推奨する「ダーク&クローム」カスタムがもっとも似合う車両と言っていいかもしれません。ただ、すでに余分な要素を省いたスタイルを確立しているので、オーナーはもちろん、カスタムを手掛けるビルダーのセンスが問われるでしょうね。ある意味、「さぁ、どうカスタムする?」と問いかけてくるようなオーラを感じます。カスタムのセンスに自信がある方は、ぜひ挑戦してみてほしいですね。(ハーレーダビッドソン高知 吉川氏)