今回紹介するFXDBの話をする前に、ダイナファミリーについて少しおさらいをしてみよう。1960年代のビッグツインモデルには今のツーリングファミリーに当たるFLモデルしかなかった。しかし、ハーレーをベースにしたチョッパーなどのカスタムが隆盛になる中で、ハーレーもツアラー然としたモデルだけではなく、スポーツスターのフロント回りをFLモデルに移植した「FX1200スーパーグライド」を誕生させている。現在のダイナファミリーのルーツとなったのはこのモデルで、そこからショベルヘッド、エボリューションエンジンのFXRシリーズを経て、現在へと至った。現在では“ハーレーらしい伝統のスタイル”のように思われているダイナファミリーだが、過去を探ればメーカーが製作したカスタムモデルという位置づけもあったのだ。ここ数年、そういったカスタムDNAが色濃くなってきたのか、ダイナファミリーの動きが激しい。2005年モデルでクロームがきらびやかなFXDC、2006年モデルでFXDB、2008年にはデュアルヘッドライトが特徴的なFXDFが登場し、大いに注目を集めている。今回はその中からFXDBをチョイスし、その魅力を探ってみよう。
FXDBが登場した2006年モデルは、ダイナファミリー全体に大きな仕様変更が加えられた年だった。ダイナファミリーのみ全モデルにインジェクションを採用、伝統的に装備されていたヘッドライトバイザーが取り外され、前年まではスポーツスターと同径だったフロントフォーク径が49mmと太くなっている。また、リアホイールが16→17インチ化、タイヤサイズも10mmワイドな160mmタイヤが装備されるなど、ファミリー全体に大きな変化が加えられた。ダイナファミリーの中でのFXDBの特徴はなんと言ってもエイプハンドルだろう。チョッパースタイルのワイドグライド(現行モデルではカタログ落ち)を除けば、ここまでゆったりとしたハンドルを装備したモデルはなく、他はスポーツライドに適したモノが採用されていた。エンジン腰下がブラックパウダーコート、シート下のカバー類もブラックアウトされたシックなカラーリングも個性的と言える。また、FXDLと並び、ファミリーで最も低い655㎜のシート高も見逃せないポイントだ。スポーツスターファミリーと比較しても、FXDBよりシート高が低いモデルはXL883Lしかない。ハンドルポジションがゆったりとしており、フットポジションは体に近いミッドコントロール、そしてシート高も低いとなると、体格に自信がない人でも安心して乗ることができるはずだ。
と、ここまでが年式をまたいだFXDBの特徴。次に2009年モデルで仕様変更された部分に触れてみよう。好みが大きく分かれそうなポイントはエンジンカラーの変更だ。2008年モデルまでブラックパウダーコートされていたエンジン腰下部分が、2009年からはシルバーカラーとなっている。ブラックアウトされたエンジンを好んでFXDBをチョイスしていたユーザーからは評価が分かれるかもしれない。しかし、独自の個性的なパーツも採用されている点が2009年モデルならではの魅力と言える。FXDB以外にはソフテイルファミリーのFLSTSBにしか採用されていないカスタムテイスト溢れるブラックリムや、短くチョップされたリアフェンダー、クラシックテールライトなど、前年モデルよりさらにカスタム色が濃くなったと言えるだろう。さらに、新採用のチョップドストレートカットマフラーは従来のテーパードスタイルより、迫力のあるデザインで排気音の質も違う。登場当初からメーカーカスタムモデルのイメージがあったFXDBは、2009年モデルでさらにその度合いを増しているのだ。
スポーツスターに乗る私にとって、ダイナファミリーでの好みは車高の高いFXDやFXDCだ。そのため、実を言うとシート高が低く、カスタム色の強いFXDBの試乗には過度な期待はしていなかった。洗練されたスタイルは確かに魅力的なのだが、ダイナファミリーには多少の軽快感も期待してしまうのだ。しかし、丸1日試乗を行い、その印象は一変することになる。跨ってみての第一印象は、イメージ通りに足つきがよく、ハンドルの高さがほどよいため取り回し時にそれほど重さは感じないこと。ハンドルポジションは肩幅より少し低く、少しだけワイドといった感じで、狭い道が多い都心でもハンドル操作に気を遣うことはないだろう。エンジンを始動し、マフラーが奏で始める排気音はノーマルマフラーにしては元気なサウンドだ。以前、FXDFを試乗したときにも感じたが、FXDBのストレートカットや、FXDFのスラッシュカットの形状は歯切れのいい排気音を楽しむことができる。
試乗前には「少し薄いかな」と思っていたシートも、なかなかの座り心地だ。リアサスペンションが短く、シートが薄いためお尻が痛くなるかと思ったが、日帰りツーリングなどでは問題のないレベルと言える。ただ、1点注意して欲しいのが、ソロシート仕様のためバッグなどでリアフェンダーを傷つけないようにすること。ハーレー定番のサドルバッグを装備したらどうかと考えたが、リア回りがスッキリしたデザインにサドルバッグは合わないかもしれない。ソロシート仕様のまま楽しみたいオーナーは、ロングツーリング時の積載について工夫が必要だろう。肝心の走りについては、期待以上のものだった。ハンドル、シート、フットポジションのバランスがよく、コーナーに入る際の不安感はない。曲がる先を見て、体重をかけてやるだけで素直に車体は曲がっていく。ビッグツインの中ではスポーツ寄りとされるダイナファミリーの特徴は、FXDBにもしっかりと受け継がれている。
車高の低さから同じダイナファミリーのFXDLと比較されることが多いようだが、そんなときは将来のカスタムスタイルで選んでみて欲しい。ロー&ロングのドラッグスタイルが好みであればFXDL、チョッパースタイルが好みであればFXDB。どちらもキャラクターがハッキリしているモデルなので、その個性を活かしてカスタムが進められるだろう。また、FXDBのブラックアウトされたエンジン仕様は2008年式までとそれ以降で違いがあるので、仕様による違いも注意して選んで欲しい。カスタムを前提に話を進めてきたが、ポジションの良さからFXDBをチョイスするのもいいだろう。体格に自信がない人でも、FXDBなら足つきを心配する必要は少ない。FXDLのように狭いハンドルではないので、重量のあるハーレーであっても慣れれば取り回しに不安もない。カスタム、ポジション、どちらから選んでもFXDBは長く付き合えるモデルになってくれるはずだ。
FXDBを購入される人はどちらかというと若い方が中心ですね。ダイナファミリーの中でもカスタムテイストが強いモデルなので、そこに惹かれる人が多いようです。ドラッグスタイルのFXDLとチョッパーテイストのFXDBはスタイルがかなり違うので、その辺りの好みでFXDL派とFXDB派に分かれています。FXDLより価格が手ごろなのも嬉しいですね。2009年モデルでホイールやフェンダーなど、カスタムテイストがさらに強まったので、購入後はスタイルを大きく変えるようなカスタムをする方はあまりいませんが、納車時にタンデムシート仕様を希望される人がほとんどです。普段はノーマルのソロシートを着けながら、ツーリング時の荷物の積載や、タンデム時はタンデムシートに付け替えている人は多いですよ。FXDBのカスタムパーツで人気なのはグリップやスカルが施されたカバー、あとはサドルバッグでしょうか。大きく手を入れなくても、ノーマルの状態でかなり完成されたモデルなので、それほどカスタムをしなくてもカッコいいんですよね。(メガディーラー ハーレーダビッドソン松戸 阪本氏)
2007年式FXDB / 藤田さん(東京都)
友人がFXDLに乗っていてハーレーに興味を持ち始めました。最初は私もFXDLに乗ろうと思ったのですが、たまたま出物のFXDBに出会い、縁があってこの車両のオーナーになったんです。手に入れたときから、インジェクションをキャブレターに変更し、かなり手が入った車両だったので、ノーマルがどんなフィーリングなのかはわからないんですが、太いトルクとドコドコとした鼓動感がたまりません(笑)。ポジションはリアサスだけ下げて自分に合わせました。今後はハンドルをローランドサンズ製のエイプに、マフラーも変更しようかな、と思っています。走るのは休日に仲間とツーリングするのが中心ですが、早く仕事が終わった日は夜に走ることもあります。時間があれば、いつも乗りたくなるんですよね。