空冷スポーツスターが無くなるという噂が出始めてから、すでに何年も経った一昨年のこと、ついに生産終了の正式アナウンスがされ、最後に特別仕様のスポーツスター・フォーティエイトが日本国内で限定販売されたことは記憶に新しい。そして空冷スポーツスターと入れ替わる形で、昨年新たな水冷Vツインエンジン、レボリューションマックス1250Tを搭載するスポーツスターSが登場した。それから約1年経った今春、突如として発表された新時代スポーツスターシリーズ第二弾モデルがナイトスターだ。
新型水冷エンジンに始まり、倒立フロントフォークやモノショックサスペンションで纏められたスポーツスターSはネオトラッカー的なスタイリングで、スポーツスターらしさが薄れていたのに対し、ナイトスターは従来の空冷スポーツスターを彷彿させる要素があちこちに散りばめられている。古くからのハーレーファンからも、このスタイリングならば受け入れることができるという声が多く聞こえてきた。その最新スポーツスターであるナイトスターを、実際に走らせてテストを行う。
スポーツスターの歴史をどこからとするかで話は変わってくるが、1957年のXLを初代モデルとするならば、ショベルスポーツスターエンジンが最初のエンジンとされ、1986年にオールアルミ製のエボリューションエンジンへと変更、一昨年の空冷最後のスポーツスターまで用いられてきた。もちろんキャブレターからインジェクションになったり、カムをはじめ内部に手が加えられブラッシュアップは図られてきたものの、相当なロングスパンでベースエンジンが変わらなかったことには違いない。そして昨年、水冷方式が採用されたレボリューションマックス1250Tエンジンが搭載された新世代スポーツスター、スポーツスターSが登場する。
ハーレーの水冷エンジンという話に括れば、レボリューションマックスは、創業100周年を迎えた2002年に登場したV-ロッドに搭載されたレボリューション、2015年に登場したストリート750で使われたレボリューションXに続くエンジンとなっており、ハーレーが生み出す水冷Vツインエンジンのパフォーマンスというものが、すでにバイクファンの中では周知されていると言っても過言ではない。
ただし、どれも短命に終わってしまったということも事実だ。それはハーレーダビッドソンというモーターサイクルに求められるポイントと、水冷エンジンモデルとのズレがあったのかもしれないと私は考えている。そのような中、スポーツスターという一大看板を背負った水冷スポーツスターSもまた、秀でた運動性能には大変驚かされるものの、スタイリング的に先を行き過ぎてしまった感も否めなかった。
しかしナイトスターはまず見た目からして違う。ローアンドロングなシルエット、オーソドックスなアイアンフェンダー、正立フロントフォークとツインショック、そして何よりも、フロント19インチ、リア16インチというタイヤサイズなど、従来の空冷スポーツスターを連想させるに十分なトータルコーディネートが施された。しかも搭載されるレボリューションマックス975Tは、スポーツスターSのレボリューションマックス1250Tから、ボアもストロークもサイズダウンされているので、出力特性も大幅に変更されているはず。空冷スポーツスター、水冷スポーツスターSとの比較も踏まえ探っていこう。
ナイトスターの発表から約一か月、早めのタイミングで広報車を借りることができたが、メディア向け合同試乗会後だったので、若干インプレとしては出遅れ感は否めないものの、二日間に渡り走らせることができたので、その分じっくりと観察することができた。
エンジンを掛けるとシュトトトトと、軽めの排気音を奏でながら目を覚ましたレボリューションマックス975Tエンジン。先述したようにスポーツスターSのレボリューションマックス1250Tよりもボア径で8mm小さい97mm、ストローク量は6.3mm少ない66mmとされており、総排気量は975ccとなっている。走り出すとナイトスターはやや首が絞められているのではないかという窮屈な低回転トルクの出方が気になった。もちろん必要にして十分ではあるのだが、スロットル開度に対する車体の押し出しが、極低回転域では抑えられている印象を受ける。スロットルケーブルを持たずスロットル開度を電子信号で読み取りコントロールするバイワイヤ方式なので、コンピュータセッティングで何とでもなるものではあるが、スロットル全閉からちょい開け時のドンツキも多少見受けられたので、チューニングの余地があると思える。
それにしても走り出してしまえば、快適そのものである。スポーツ、ロード、レインと用意されたライディングモードは、シチュエーションに応じたパワーやトラクションコントロールがプリセットされているし、3000~4000回転での心地よさは格別、5000~7000回転では豹変し凶暴な一面を見せ、9300回転くらいで作動するリミッターにあたるまで一気に吹け上がる。空冷スポーツスターではありえないパワー感であるとともに、スポーツスターSでは力があり過ぎると感じられたものが、ナイトスターでは力強く、それを楽しめる範疇に抑えられているということがポイントとなっている。
市街地から高速道路へステージを移す。エンジンパワーを活かした元気な走りを楽しめるだけでなく、6速ミッションなのでクルージングも快適だ。ワインディングロードでは、19インチ、16インチのタイヤセットは多少幅がワイド化されているものの、883などスタンダードな空冷スポーツスターを知る者にとっては自然に受け入れることができるハンドリングとなっていることが分かった。これは初めてのハーレーとしても勧められる扱いやすさとなっている。調子に乗って深くバンクさせるとステップが接地することもあったが、通常の乗り方をしていれば気になるほどではない。
面白いのはピーナツスタイルにされたいわゆる燃料タンクは、実はダミーであり、その中にはエアクリーナーボックスや電子系統が収められている。本当の燃料タンクはシート下にあり、それにより低重心とされ取り回しのしやすさやハンドリングの軽さに寄与している。つまりダミータンクだけ換装するようなカスタムも出てくる可能性がある。ツインショックやマフラーなどもそうなのだが、カスタムやチューンナップを楽しめる要素があちこちに感じられる。これは従来のスポーツスターファンにとってはとても大きなメリットなのではないだろうか。
ちなみに車両価格は188万8700円からとなっている。排気量が大きくよりパワフルで、装備も上等なものが奢られているスポーツスターSが194万8100円からなので、その差が6万円弱しかないことにやや疑問を抱いたものの、昨今の急激な円安や、空冷スポーツスターの中古マーケットの高騰ぶりを見ると、高すぎるわけでもないのかとある程度納得したとともに、スポーツスターSのお買い得感が際立って見える格好となった。ナイトスター、スポーツスターS、どちらも良い部分が光るモデルなので、新たなスポーツスターとして幅広く受け入れられて欲しいものである。
新開発のレボリューションマックス975Tエンジン。ボアストロークは97×66mmでややショートストローク傾向、圧縮比は12:1。最高出力89馬力、最大トルクは95Nmとされている。チューニング次第で化ける素質を秘めるエンジンだ。
ローライダーSやストリート750を連想させるスピードカウルを装備。オーソドックスでありながらもスタイリッシュで、ハーレーダビッドソン本社で活躍する日本人デザイナー、ダイス・ナガオ氏の手腕を感じさせる躍動的なフェイスマスクとなっている。
フロントタイヤサイズは100/90-19で、φ41mmのSHOWA製正立フォークにセットされる。ブレンボのブレーキはシングルディスクながらも効き、タッチともに良い。ショートタイプのフェンダーはスチール製だ。
メーターディスプレイはコンパクトな丸型シングルタイプをハンドル上部にマウント。回転計や時計の表示、周囲の速度計など、空冷スポーツスター系と同様の表示とするが、ライディングモードの「S」とシフトインジケーターの「5」を誤認した。
シート高が705mmと低く抑えられているため、小柄なライダーや女性でも安心して走らせることができるだろう。かといって車格が小さいわけではなく、体格の良いライダーが跨ってもしっくりとくる。ナイトスターは多くの人が安心して乗れる。
いわゆるピーナッツタンクを連想させるダミー燃料タンク。あくまでデザイン上のカバーであり、中にはエアクリーナーボックスや電子系統のモジュールが収まっている。樹脂やアルミではなくスチールで作られているのもポイントだ。
ウインカーボタンは左右振り分け式ではなく、左側のスイッチボックスに備えられた。バーエンドミラーが標準装備であり、後方視界は良いものの、その分車幅が広いことに走行中は注意を払わざるをえなかった。
エンジンとリアタイヤの間に見える部分が燃料タンクとなっている。見るからに低い位置に搭載しており、その分低重心化を実現している。ハンドリングの軽快さや、押し引きなどの取り回しの良さは、低重心による影響は大きい。
モノショックやリーフ形状のスイングアームを採用するスポーツスターSから一転、ナイトスターは角パイプスイングアームとツインショックというオーソドックスなスタイルで纏められた。リプレイスサスペンションへの換装も容易だ。
古くからスポーツスターを知る者にとっては、ある種ホッとさせてくれるクラシカルなテールセクション。ナイトスターの持つオーソドックスなディテールからは様々な”可能性”を感じ取ることができる。
ステップはミッドセットとされている。ワインディングなどで攻めるような走りをするとステップバーが接地することもあるだろうが、ライディングポジションは自由度が高く楽。6速ミッションというのも好印象だった。
水冷エンジンということもあり、エンジン前方に大きなラジエーターが備わっている。なお、ラジエーターの下部にバッテリーが収められており、これは同じく水冷エンジンを採用しているパンアメリカ1250と同様のレイアウトだ。
物理キーを使いシートを開くと、燃料給油口が姿を現す。ここで思い出したのはV-ロッドが、今回のナイトスターと同じスタイルだったことだ。ハーレーがこれまで培ってきた水冷エンジン化への技術が、様々な部分に落とし込まれている。