ハーレーダビッドソンの創設者であるウイリアム・H・ダビッドソンの孫にあたり、数々のヒットモデルを手掛けてきたウイリー・G(ウイリアム・G・ダビッドソン)により、1977年にこの世に送り出された秀作、FXSローライダー。無駄なものをそぎ落としながら、ロー&ロングなスタイルで纏められたローライダーは、誕生した当時を振り返ると、日本ブランドのモーターサイクルの躍進が目覚ましい時期であり、その中においてアメリカという地で創り上げるモーターサイクルならではのワイルドさ、そして機能美が持たされており、それは瞬く間に世界中のバイカーに受け入れられることとなった。
それから43年もの年月が経ち、現在もラインアップにその名を連ねているローライダー。すでに永遠のクラシックという位置づけとされているが、実はこのモデルにはハーレーダビッドソンの魅力が非常に凝縮されている。今回はローライダーがなぜ人々の心を惹きつけるかを探っていきたい。
旧来のハーレーファンからすると、ローライダーと言えばダイナというイメージが根強いだろうから、まずは簡単におさらいをすることから始めよう。スポーツスター系のXLフレームにFLのビッグツインエンジンを搭載したダイナの原型であるFXスーパーグライドは1971年に登場することとなる。70年代と言えば、日本車の性能が向上し、古くからある欧米のブランドを駆逐していった時期でもある。
そのような中、ヨーロッパではカフェレーサーやモッズカルチャーが広まり、一方アメリカではチョッパーなど独自のカスタム文化が根付きつつあるという背景があった。FXスーパーグライドもそういったカスタムカルチャーに興じて誕生したもののひとつと言えるが、この頃はまだ既存の部品を組み合わせて組み立てるというニュアンスが強かった。そして1977年に、ショベルヘッドエンジンを搭載したファクトリーカスタムの金字塔とも言える初代ローライダーが登場。これがいわゆるファクトリーカスタムの基礎となり、ローライダーの登場から、その後のEVOエンジンを搭載したダイナファミリーへと繋がってゆくこととなる。
このようにテキストに落とし込んでしまうと簡単なことに見えてしまうが、当時のハーレーは業績的にも苦しい状況にあり、それを立て直すひとつのきっかけともなったローライダー(ダイナ)の登場、ウイリー・Gの存在は長年のハーレーダビッドソンの歴史においてもひとつのターニングポイントとなる事柄だったのである。
その後ローライダーはフレームや足回りが変更されるなどブラッシュアップを重ねてゆく。そしてダイナファミリーは姿を消したが、2018年に新型ソフテイルフレームにミルウォーキーエイトエンジンを搭載した新生ローライダーが登場した。
ローライダーがソフテイルファミリーとなってからすでに2年が経とうとしているが、それでも目の前にするとなんだがこのスタイリングにリアサスペンションが装着されていないことに少々違和感を覚える。とはいえ、ロー&ロングなシルエット、タンク上に配置された2連メーター、キャストホイールなど、ローライダーの特徴的な部分はしっかりと受け継いでいる。
シートに腰を下ろすと、その足つきの良さがまず分かる。スペック上でのシート高690mmという数値は際立って低いものではないが、低重心に設計されていることや手を伸ばすと自然に抑え込むことができるプルバックされたハンドルバーとの相乗効果もありとても安心感が高い。
心臓部には排気量1,746ccのミルウォーキーエイト107エンジンが採用されている。なお2020モデルとして登場したローライダーSは114エンジン(1,868cc)が搭載されているが、これは様々な現行モデルを乗った結果、排気量の大小の違いというよりもエンジンキャラクターがどちらの方がモデルに合っているのか、そして自分に合っているのかを考えた方が良いと思っている。つまり”114エンジンの方が偉い”ということは全くない。
イグニッションをオンにしてセルボタンを押せばいとも簡単にミルウォーキーエイト107は目を覚ます。暖機運転を心掛けながら走り出す。ニュートラルに構えられるよう設定されたライディングポジションのおかげで、非常にイージーな走りを愉しむことができる。フロントは幅110の19インチ、リアには幅180の16インチサイズのタイヤが採用されており、コーナーリングでも思っていた以上に素直に曲がってゆく、いや、むしろ攻めるような走りにも対応できるセッティングだ。ハイウェイでは安楽に、ワインディングに持ち込めばスポーツライディングをエンジョイすることができる。
ローライダーは、ヘッドライトバイザー、ハンドル、メーターと、ライディング中視界に入る部分はクローム処理されており、そこに風景がキラキラと写り込み、ただ走らせているだけでも幸せな気分にさせてくれる。2,000回転前後でクルーズしていても心地よく、右手を意識して捻り、3,000回転以上まで引っ張ればハーレー伝統のビッグVツインが持つ怒涛のトルクを味わうことができる。
そして現行ソフテイルフレームと前後サスペンションのスタビリティは素晴らしく、しっかりとしたトラクションを感じながら良く曲がることもポイントになっている。流して良し飛ばして良しというライディングプレジャーは、まさしくプレミアムモーターサイクルのそれだ。
兄弟的存在のローライダーSと迷う人もいるかもしれないので、ひとつアドバイスをしておくと、ローライダーSの方がホイールベースが短くされておりエッジの効いたハンドリングであることには違いない。ただしそれはスポーティーなものかというと一概にそうとも言えないものであり、むしろエンジン特性とシャシーのバランスで考えると、スタンダードなローライダーの方が、コーナーリングを気持ちよくパスしてゆける。
ハーレーを題材にコーナーリング性能の良しあしを語るのは野暮なものだと思う人もいるかもしれないが、見た目だけでなく乗り味も結構違うものだと知っておいた方が良いかもしれない。それよりもこの2モデルを比べる際には40万円近い価格差の方が気になるところだ。
昨今のモデルラインアップを見渡すと、やや過剰とも思えるようなスタイリングが与えられたモデルが増えてきていると感じているが、そのような中でベーシックハーレーと呼べるようなローライダーはとても愛着が湧く。クロームパーツのギラギラ感も程よいもので、長く付き合える一台となってくれるはずだ。
ローライダーにはミルウォーキーエイト107(1,746cc)エンジンが採用されている。低回転域からずっしりとしたトルクがあり、スロットルを開ければ、高い回転数まで一気に上昇する。スペックシートでの最大トルクは145Nm/3,000rpm。
エンド部が等長でカットされたエキゾーストシステム。排気音も上手くチューニングされており、ビッグVツインの迫力あるサウンドを楽しむことができる。
ブレーキランプとウインカーがセパレートに備えられたオーソドックスなリアセクション。バルブもLEDではなくフィラメントタイプが採用されており、トラディショナルなモデルであることを表現している。
ライダー側が深くえぐられた形状を持つシート。シート高は690mmで、これはローライダーSと同じ数値。タンデムシートは後方に向かってやや下がっているが、乗り心地は上々。
ショベル時代から受け継ぐ燃料タンク上の2連メーター。昨今多くのモデルでは回転計がスピードメーター内のデジタル表示だったので、アナログタイプのメーターが備わっているのは新鮮に見える。
クロームメッキバイザーも備えるヘッドライトには、明るく視認性の高いシグネチャーLEDライトが採用された。ベゼルに沿う形でチューブLEDのデイライトも内蔵されている。
ミッドコントロール位置にセットされたステップバーは、ライディング時に足の自由度が高いうえ、コーナーで加重も乗せやすく、イージーなライディングをもたらしてくれる。
ほどよく手前に引かれたワイドなハンドルバー。ローライダーのスタイリングは大きな魅力だが、見た目だけでなくポジションを含めたライディングのしやすさにこそ真価がある。
70年代のスタイリングをインスパイアしたグラフィックが施された燃料タンク。18.9Lの大容量を誇り、ロングツーリングも余裕でこなすことができる。なおカラーリングは写真のレッドのほかブラックとブルー、ホワイトが用意されている。
無駄な贅肉がそぎ落とされたかのようにエッジが立ったアルミ製キャストホイール。4ピストンキャリパーのブレーキはシングルながらも十分な制動力を発揮する。
フロントにはリニアな減衰力特性が得られるカートリッジフォークを採用。ソフテイルフレームのリアモノショックもそうだが、前後とも足まわりの動きが良く、路面をしっかりとつかみ乗り心地も良い。
ヘッドライトバイザー、トップブリッジ、ハンドルバー及びライザー、すべてにおいてクロームメッキが施されている。ライディング中、常に視界に入ってくる部分だけに、プレミアム感が気分を高揚させてくれる。