毎年数多いモデルがカタログラインナップされるハーレーダビッドソンにおいて、その頂点に君臨するCVOファミリー。CVOとはカスタム・ヴィークル・オペレーションのことで、ハーレーファクトリーレース部門を由来とするスクリーミンイーグル製専用パーツがふんだんに取り入れられているほか、特別仕様のペイントが施され、熟練工の手によって、一台いちだい丁寧に組み上げられるというスペシャルマシンである。手が加えられた分車両価格も高価なものとなっているが、そもそも生産台数が決められており、限られた者しか手にすることができない。CVOはその存在からして特別であり、その価値はいつまでも変わらぬどころか、年々引き上げられてゆく。今回は2022モデルで用意されたCVOロードグライドに触れ、その真価に迫る。
ハーレーダビッドソンの歴史はカスタムバイクカルチャーと共に歩んできたと言っても過言ではない。これまで北米大陸で生み出された鉄馬は、それを駆る者の自己表現を行うキャンバスとなってきた。ハーレーダビッドソン社自身もその文化を理解し大切にしてきた。そしてメーカーとして出した一つの答えが、ウイリー・G・ダビッドソンが中心となって、1997年から始められたメーカーカスタマイズプロジェクト、CVO(カスタム・ヴィークル・オペレーション)だった。
CVOは”究極のファクトリーカスタム”と呼ばれ、エンジンのチューンナップからボディペイント、専用アクセサリーを用いた仕上げに至るまで、ハーレーの持つすべての技術が注ぎ込まれた珠玉のモデルだ。職人の手による作業も多く、時間のかかる製造工程故に生産台数が限られたイヤーモデルとして毎年数種類が用意されてきた。2022モデルではCVOロードグライドリミテッド、CVOロードグライド、CVOストリートグライド、CVOトライグライドの4車種で、今回はその中からCVOロードグライドのテストを行うことになった。
CVOロードグライドはまず見た目からして別格と言える強いオーラを感じさせる。今回の試乗テスト期間前に開催されたJAIA(日本自動車輸入組合)試乗会で、現行モデルがずらりと並べられたハーレーブースにおいてもそれは感じられ、他のモデルが霞んでしまうほどのインパクトをCVOロードグライドは備えているのだった。
グラデーションがかかったフレアパターンのカラーリング、スクリーミンイーグルのロゴが入るだけでなくレッドのアクセントカラーが用いられたエンジン、ワイヤースポークの繊細さと、それを強調させる大胆な造形のリムを組み合わせた専用ホイールなど、どの角度から見ても異彩を放つ。
車体に跨り、1923ccもの排気量を誇るミルウォーキーエイト117エンジンに火を入れるためにセルボタンを押すと、ビッグツインらしいドスンという爆発の衝撃を乗り手に伝えながらエンジンは目を覚ます。ギアを一速に入れてクラッチを繋ぐと、405kgもある車体はいとも簡単に前へと押し出される。
スロットル、ブレーキ、クラッチレバーなど、各部の操作は、そのリアクションが大味ながらもしっかりとした手ごたえが心地よい。細かなフィーリングにCVOならではの拘りが感じられる。169Nmという強烈な最大トルクはわずか3500回転で発生され、スロットルをワイドオープンすればのけぞるほどの加速感を得られるが、しなやかに動く足まわりとの相乗効果で、パワフルさと従順な動きを兼ね備えたモンスターマシンとなっていることが分かる。
数日に渡り、市街地、高速道路、ワインディングというステージを楽しんできた。ストップアンドゴーを頻繁に強いられる渋滞路は、得意とは言えないものの、低重心な設計であることと車体バランスが良いことから、低速でもふらつきにくく、慣れてしまえばさほど苦にはならない。それよりもパワーを無理やりねじ伏せるような手荒な乗り方をしても、我が道を突き進もうとする豪胆な姿勢をCVOロードグライドからは感じられた。これは車体状況をセンシングし制御を行うリフレックスディフェンシブライダーシステムによる恩恵もある。
プレミアムカーオーディオブランドであるロックフォード・フォズゲート社との共同でCVO専用設計とされたサウンドシステムは、高音から低温までダイナミックな音を楽しめ、ライディングをさらに彩ってくれる。停車中にBGMを流すのにも最適で、音質の良いサウンドシステムは、旅先やグループツーリングなどのステージにおいて、耳にした皆を驚かすことができるだろう。
見た目だけではなく、内容も数ランク上のマシンに仕立て上げられたCVOロードグライド。スタイル、パワー、サウンド、すべてにおいて極上の完成度を誇るバイク乗りの憧れの一台の車両価格は、スタンダードモデルにあたるロードグライドスペシャルと比べて150万円以上も高価な516万7800円だ。限定生産モデルにつき、早い者勝ちとなっている。
高性能エアクリーナーを装着し、レッドのアクセントカラーやスクリーミンイーグルのロゴが施されたCVOロードグライド専用エンジン。チューンナップされたミルウォーキーエイト117エンジンが発する最大トルク169Nmはハーレー史上最高だ。
チューブレスタイヤの装着を可能としたクロススポークタイプの専用ワイヤースポークホイールが用いられている。ブレーキもCVO専用であり、効き、タッチ共に上質。足まわりのセッティングはCVOロードグライドの魅力の一つだ。
フレームマウントとされたシャークノーズフェアリング。フレークが採用されたフレアパターンの専用ペイントは誰の目に見てもゴージャスそのもの。LEDヘッドライトも明るく、その強烈なオーラから、進む道が開けてゆくかのように走らせることができる。
クッション機能付きのフットレストボードと、シーソーチェンジレバーを組み合わせることで、ロングツーリングでも疲れ知らず。ギアチェンジ時のタッチやシフトの入りが良く思え、CVO専用のセッティングが施されているのかもしない。
スピード計と回転計のアナログメーターと、上部にBoom! Box GTSインフォテインメントシステムを備えたコクピット。フルカラーTFT液晶ディスプレイはタッチパネル、もしくはスイッチボックスのどちらでも操作が可能となっている。
グリップも専用パーツが用いられているほか、グリップヒーターも装備している。スイッチ類ははじめは使っているうちに、インフォテインメントシステムやクルーズコントロールの設定など、自然に操作方法が分かっていった。
CVOロードグライド専用のシート。レザーとバックスキンを組み合わせたデザイン性の良さだけでなく、内部のクッションも考えられており、薄くスタイリッシュでありながらも乗り心地が良い。サウンドシステムのスピーカーはサイドバッグにも備わる。
ビッグツインエンジンの歯切れの良い排気サウンドを奏でる専用エキゾーストシステム。テスト車両のサイドバッグはストレッチタイプだったが、カタログを確認するとスタンダードバッグが装着されるモデルもあるようだ。
ロックフォード・フォズゲート社が開発したハーレーダビッドソン専用オーディオを装備。スピーカーはフェアリング内×2、サイドバッグ×2の合計4個。自分の好きな音楽を良い音質で楽しむことができる。
燃料タンクは容量22.7リットルと大きい。ただしラフなスロットル操作を行い、強大なトルクを楽しむような走り方をしていると、燃費は悪化するので注意。節度あるスマートなライディングを心掛けたい。
サイドバッグはワンタッチで開閉ができ、一度使うと手放せなくなるほど便利な装備。着脱は可能だが、スピーカーが備わっているために、そのカプラーを外さなければならない。
見る角度によって色の変化が楽しめるCVO専用ペイント。フレアパターンが施されているということもあるが、目立ち度も抜群で、テスト中には写真を撮っても良いかと訊ねられることもあった。
フェアリング内側にはストレージポケットも備えている。中にはUSBソケットがあり、ガジェット類への給電も可能だ。このほかにも電源ソケットが用意されており、ヒートジャケットなどのライディングギアにも対応している。
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