多くのバイク乗りが憧れる陸の王者、ハーレーダビッドソン。ここ数年でラインナップを拡大し、様々なセグメントのモデルを輩出しているが、その中でも異質な存在を放っているのがスリーホイーラーモデルであるトライクファミリーだ。2023年モデルではロードグライド3が新たに追加され、さらに選択肢が広げられた。
そもそもトライクは車体をリーンする(傾ける)ことによってキャンバースラストが発生し曲がる二輪車とは違い、ステアリングを操作することでフロントタイヤで舵を取り曲がる三輪車であることもあり、大型自動二輪免許を取得しないでも、MT普通自動車免許で乗ることができる。さらに停車時に足を地面に接地する必要もないため、足つき性の心配もない。これらのことからハーレーダビッドソンの世界観をより多くの人に味わってもらうことができるというメリットもある。
私自身これまでトライクに乗るたびに、その素晴らしさに感銘を受けてきた一人だ。そこで今回はトライクファミリーの新たな仲間、ロードグライド3をフューチャーしていきたいと思う。
私は長年『GarageLife』というガレージ専門雑誌の制作に携わっており、年に50件近くものガレージに訪問し取材をしている。その中でハーレーダビッドソンのトライクが収まる物件にも1年に1度程度出会うことがある。そんな時にはオーナーになぜトライクを選んだかを聞いてみるのだが、二輪のハーレーも持っている、もしくは過去に所有していたが、トライクの独特な乗り味や快適さに惹かれて手に入れたということが多い。
かくいう私も、所有したことこそないが、これまでトライクモデルに乗るたびに”最強であり最高の乗り物”だと深い魅力を感じ、それを広く伝えてきた。だからハーレーダビッドソン2023モデルが発表された際、新たにロードグライド3がトライクファミリーに追加されたことを知り、実際に触れてみたいと強く思っていた。
日本では2014年のトライグライドウルトラが上陸したのが最初のトライクモデルなので、まだ10年未満と歴史は浅い。ただ大戦時の軍用車両として多くのサイドカーを手掛けてきたことを思い返すと、ハーレーダビッドソンのスリーホイーラーの歴史としては長いと言える。サイドカーであれば3名定員登録なども可能だったが、トライクではそれはできない。操縦の仕方に関してもサイドカーとトライクではディメンションが大きく違うために異なる感覚である。だからサイドカーとトライクは一概に同系統的に考えるのは難しい。ただそれらを踏まえた上で、共通して言えることは大型二輪車よりもはるかに大きい車格からなる置き場所問題なのだが、それは後述するとしよう。まずはロードグライド3に実際に試乗テストをすることで分かった、乗り味や使い勝手などをお伝えしていきたいと思う。
もう2年近く前のことになってしまうが、トライグライドウルトラの試乗テストを行ったことがある。大容量のラゲッジスペース、走行風からしっかりとライダーとパッセンジャーを守ってくれるバットウイングフェアリング、リビングソファのように快適でいながらしっかりと体をサポートしてくれるシート。そしてトライク特有のライディングプレジャーなどなど、とても感銘を受けたことを覚えている。ただ一方で、その装備が過剰にも思えたことは確かだ。ずぼらな私はラゲッジスペースは常日頃から荷物満載にするか空っぽの両極端な状態となってしまいそうであるし、ソロで走る機会がほとんどであることを考えると、パッセンジャーシートの快適さもほどほどで良いかもしれない。当時のトライクファミリーにはフリーウィーラーというフロントフェアリングを持たないモデルが存在したが、そうなるとロングな高速クルーズでの快適性がスポイルされる……。そう考えていたら、今年、トライクファミリーでは初となるシャークノーズフェアリングを備えたロードグライド3が登場したのである。
こういっては何なのだが、実物のロードグライドはカタログで見てイメージしていたよりも、全体的なスタイルのまとまりがよく低く長く恰好が良い。もちろんサイドスタンドも無いため、ステップボードに片足を掛けて車体に跨る。ミルウォーキーエイト114エンジンを目覚めさせ、トランスミッションを1速に入れてクラッチをそっと繋ぐと、大きな巨体はスルスルと走り出した。
と、このように文章にすると当たり前のように思えるが、初めてトライクファミリーに触れる人は、ここまでの一連の動作だけでも、二輪のモーターサイクルとの違いに戸惑うことだろう。ハンドルを切って曲がる、コーナー中は外側へのGが強くかかる、それにタイヤの限界値、車幅、内輪差、あらゆることを脳内で処理しなければならないのだが、感覚の良い人であればモノの5分も走らせるだけで、慣れることだろう。
多くのハーレーは巨大かつ超重量のモデルであるために、取り回し時の扱いなどで緊張を強いられる場面があるが、その点トライクは転倒の心配がないので楽だ。であるにも関わらず乗車姿勢はクルマと違いモーターサイクルのそれであるからして、他の乗り物と一線を画した、まさにこれしかないという存在となっている。
シャークノーズフェアリングは程よい走行風をライダーへと伝える上に、インフォテインメントシステムを介してスピーカーから好きな音楽を流すこともできる。リアセクションがトライグライドウルトラと比べて大幅に軽量なために、コーナーリングでの揺り返しのようなことも少ない。ストリートではハンドル操作に対して、スッスッとミズスマシのごとく左右にレーンチェンジが行えるので複数車線がある路線は特に楽しい。高速道路では2000~2500回転くらいを使ってゆったりとクルーズをしている時間は至福と言えるべきものであるし、ビッグツインの本領を発揮させるようなスロットルワイドオープン時には、怒涛の加速を味わえる。
ワインディングロードは逆バンクのコーナーなどで外に投げ出されそうな感覚に最初は戸惑うかもしれないが、ちょっとしたコツを掴めば、かなり攻めた走りもできる。ただし以前ウエット路面のワインディングでスリップしたことがあるので、あくまでもほどほどに抑えておきたいところだ。急な坂やタイトコーナーが続くような道では気を使うのは、他のハーレーであっても一緒のことであり、さらにそこにスリーホイーラーという特別な操り方をしなければならない乗り物だということを加味して楽しむべきなのである。
トライグライドウルトラと比べて気軽に乗れること、それでありながらもラゲッジスペースは撮影機材や仕事道具を詰め込んでも余裕が残るほど十分な広さが確保されていることから、テスト車両の借用中は、仕事やスーパーへの買い出しなどまでも出動させる始末だった。
ただ問題に思えたこととしては一点、保管場所つまり駐車問題だ。クルマ一台程度のスペースを使うためにバイク駐車場には置けないし、都市部では乗用車用パーキングも断られる場合があった。ただし、そうだとしても欲しいと思える大きな魅力をロードグライド3が持っていることには違いない。車両価格は450万円以上であるが、しっかりと所有欲を満たしてくれるだろう。
排気量1868ccを誇るミルウォーキーエイト114Vツインエンジンを搭載。トルク重視のセッティングであり、重量528キロもある車体をタンデム状態であってもストレスなく走らせることができる余裕あるパフォーマンスを楽しめる。
φ49mmのデュアルベンディングバルブフロントフォークを採用。フロントタイヤはモーターサイクル用の130/60B19サイズ。コーナーリングでフロントタイヤに掛かる荷重は大きく、その点も理解しておくとより一層走りを楽しめる。
ロードグライド系のアイデンティティであるシャークノーズフェアリングが装着された初のトライクモデルだ。好みにもよるが、フレームマウントのフェアリングなので、ハンドリングへの影響はバットウイングフェアリングと比べ少ない。
リアタイヤは215/45R18サイズ。つまり普通乗用車が履くようなタイヤが採用されている。ホイールのデザインも凝っており、ストリートを走らせていると、リアセクションは大いに注目を浴びた。
シフトチェンジレバーはシングルバータイプ、フットレストボードはダンピングクッション内蔵。 ボード後方に見えるペダルはサイドブレーキとなっている。
燃料タンク容量はロードグライドスペシャルと同様の22.7リットル。低回転域を使って走っている分には、燃費もさほど悪くはない印象。トライクであってもしっかりとニーグリップするとコーナーリングはしやすい。
ウインカーはハーレーダビッドソン伝統の左右振り分けタイプ。インフォテインメントシステムのファンクションコントロールや、クルーズコントロールスイッチも備わっている。
シャークノーズフェアリングの内側はピアノブラックで丁寧に仕上げられており高級感がある。左右に備わるスピーカーの音質もなかなか良い。アナログメーターが並べられているのも雰囲気がある。
インフォテインメントシステムはタッチパネルにもなっており、直接操作も可能だ。テスト期間中はスマートフォンとBluetooth接続し、好きな音楽を流してクルーズを楽しんだ。
トランクスペースはかなり広く、カメラバックや三脚などをすっぽりと飲み込み、さらに余裕があった。ただし上蓋タイプなので、上面に荷物を積載することは難しい。
タンデムでのテストも多少行ったが、パッセンジャーの評判も上々だった。特に大きく踏ん張りの利くステップボードと、グリップバーが握りやすい位置にあることが良い。
たっぷりとした厚みがありながらも、柔らかすぎず、硬すぎず、疲れにくいシート。形状も良く、腰をしっかりとサポートしてくれる。ライダー側のシート高は700mmだが、トライクなので足つき性は問題ない。
ウインカーストップランプ共通のテールランプは左右のリアタイヤのフェンダー後端にセットされている。後続車からの視認性も良く、車幅があることも伝わりやすい。
サイレンサーは車体下部に左右2本出しとなっている。ノーマルのサウンドも迫力あるが、オプション設定されているマフラーに換装するオーナーもいることだろう。