戦後モデルをベースに作られた、ボバーカスタムを彷彿させるシルエットが特徴的なソフテイルスリム。初期モデルの登場から8年の年月が経ち、すでにオーソドックスな印象すら持つが、ソフテイルスリムもまた、ファミリーの他モデルと同じように、2018年からミルウォーキーエイトエンジン+新型ソフテイルフレームへと移行され現在へと続いてきている。
ファットボブ114やFXDR114など、前衛的なデザインとされたドラスティックなモデルが次々と投入される中で、どちらかというとコンサバティブな部類に当てはめられがちだが、その部分にこそソフテイルスリムの魅力があると思う。誰がどこから見てもハーレーダビッドソンだと認識させるスタイリングと、その中にもカスタムライクな一面を感じさせるディテールをエッセンスとして散りばめられたソフテイルスリムこそ、むしろストリートに映えるという言葉が良く似合うものだ。
外見からはリアに装着したサスペンションが見えないようにセットし、あたかもリジッドタイプのようなフレームワークとした最初のソフテイルフレームが登場したのが1984年のこと。それは後にハーレーダビッドソンの主力となるエボリューションエンジンと同タイミングでもあった。リジッドライクなクラシカルなスタイリングでありながらも、しっかりとサスペンションを働かせるソフテイルフレームは、派生モデルを追加しながらファミリーを広げてゆき、多くのバイカーたちに受け入れられてゆく。追って登場したダイナファミリーとも人気を二分し現在へと続いてきたのだが、ダイナが無くなりソフテイル一本化が進む今、ファミリー内では旧ダイナ系モデルとの混戦が発生している状況と言えるようになった。
フェイス部分には大型ヘッドライトを配置し、サイド部分がシェイプされたフェンダーやハリウッドハンドルバーなどを採用するなどクラシカルなボバースタイルで纏められたソフテイルスリムは、不必要なパーツが省かれたことで、ソフテイルフレームの美しさをより強調させるものとなっている。ただ、その潔いシンプルさが、ソフテイルファミリーの中において、ひとつのベーシックスタイルと形容できるような存在となってきている。
いつも車両をお借りしているハーレーダビッドソンジャパンの広報車両ヤードにて、そこに佇むソフテイルスリムを目の前にしたとき、「綺麗なバイクだな」ととっさに思ったことをよく覚えている。それは汚れている磨かれているという話ではない。全体的なシルエットはシュッと引き締められつつ、ワイドなフロントフォークや低めの位置にセットされたハンドルがしっくりと収まっており、全体的にアダルトな落ち着きを感じさせるのだ。以前のソフテイルスリムよりもバランスよく見えてしまうのは、気のせいなのかと考えながら、エンジンに火を入れ走り出した。
クラシカルな雰囲気を助長するポイントのひとつであるハリウッドハンドルバーは、思いのほか遠い位置にあるため、コーナーリング時には外側の手が持っていかれないように、意識して前かがみの姿勢を取るようにする。高速をクルーズしているような場合は別としても、この乗り方がソフテイルスリムを愉しむための大きなキーとなってくる。やや前傾姿勢になりながら前方のフットボードに足を添えてコントロールすれば、ソフテイルスリムはライダーの入力に対して従順に動く鉄馬となってくれる。
さらにはミルウォーキーエイト107エンジンを採用しているソフテイルスリム。1,746ccVツインが発生する強力なトルクでありながらも、より排気量が大きいミルウォーキーエイト114と比べると、より大胆なスロットルワークが可能であるがため、その走りはまさに快活そのもの。このスポーティーな楽しさは、114エンジンを搭載するモデルが増えてゆく中において、あえて107エンジンを採用しているのかもしれないと思わせるものだ。
初代ソフテイルスリムと比べ現行モデルは、全長で40mm、軸距は5mm短縮されており、車重は14キロから軽量されていた。それらは取り回し及び運動性の向上に如実に現れており、ちょっとそこまで乗るというシチュエーションでも使いたくさせてくれる。一週間程生活を共にしたソフテイルスリムは、個人的な感想として言えば、これまで試乗テストを行ってきた現行モデルの中でも好印象を抱けるものであり、正直なところまだ当分乗り回したいと思っていたことを白状しよう。ただ、ソフテイルスリムを返却した後、自分が感じた”良さ”を俯瞰して考え直してみた。
これまでのバイク経験が浅い、もしくは大型免許を取得し初めて購入するバイクがソフテイルスリムという方を想定したとすると、キャラクターのある操作性に乗り始めこそ戸惑うかもしれないが、もしかすると現在のハーレーの世界観を、すんなりと受け止められるかもしれない。直近5~10年程のモデルからの乗り換えであれば、正常進化の具合を感じることができるだろう。ただ、ビンテージハーレー愛好家からすると、”出来過ぎ”ているエンジンフィーリングや運動性能に、むしろ違和感を感じるかもしれない。しかしそこで拒否するのではなく、じっくりと乗り、経験値を活かして吟味していただきたい。なぜならば根っこの部分からは、昔からのハーレーの良さがしっかりと伝わってくるからだ。
常に時代は流れ進んでゆく。ソフテイルスリムはスタイリングこそビンテージ風ではあるが、中身は最新の高性能ハーレーであり、そのライディングプレジャーは、他メーカーでは味わえないものだ。近未来を感じさせるモデルが増えてきている現行ハーレーの中において、ソフテイルスリムはしっかりとボトムラインを支えるモデルとなっている。
ミルウォーキーエイトエンジンが搭載される以前のソフテイルスリムのマフラーは、スラッシュカットタイプだったのに対し、現行モデルでは、等長カットとされている。鼓動感を持つ歯切れの良いエキゾーストノートを奏でる。
ブレーキキャリパーは三角スイングアームのパイプに挟まれるようにセットされる。マフラーで隠れる位置であり、外観上目立たないため、リア周りをすっきりとしたデザインとすることができている。
心臓部には排気量1,745ccのミルウォーキーエイト107エンジンを搭載。最大145Nmと強大なトルクを発生するにもかかわらず、まわして楽しいスポーティーな味付けとされている。
ビンテージテイスト溢れるワイヤースポークホイールを採用。タイヤサイズは前後ともに16インチで、前が130、後ろが150幅とされており、ハンドリングもビンテージテイストが感じられるキャラクター付けとされている。
レーシングスタイルのカートリッジフォークとされ、ブレーキの入力具合などに合わせ、リニアに変化する減衰特性とされている。4ピストンキャリパーは、制動力、コントロール性ともに優れている。
ビンテージスタイルに良く似合う半月型のフットボードを、フォワードポジション気味に装着。昨今のトレンドに合わせ、シーソーレバーは採用されていない。
ハーレーダビッドソンのアイデンティティだとも呼べるようになったストップランプ一体型のウインカーを採用。150サイズのタイヤとの組み合わせもあり、テール周りはスリムに纏められている。
クロスバーを備えたハリウッドハンドルバーはブラックアウトされており、コクピット周りの印象を引き締めている。割と前方にセットされており、やや前傾姿勢のライディングポジションとなる。
メーターは燃料タンク上に備えられ、アナログ式スピードメーター下の液晶部分には、ギア、オドメーター、残燃料、時計、トリップ、回転数などを表示できる。
センターにレザーコンソールカバーが備わり、ビンテージスタイルに纏められた燃料タンク。容量は18.9リットル。4色のボディカラーが用意されている。
ビンテージモデルのスプリングサドルを連想させる、タックロールスタイルのソロシートを装備。シート高は660mmで、他のモデルと比べても低く抑えられている。
ボリューミーで存在感のあるヘッドライトボディに、暗闇を明るく照らしてくれるシグネチャーLEDライトを組み合わせる。オーソドックスな雰囲気の中に、現代らしいエッセンスが光る。