ストリートグライドは半世紀以上も前に登場したハーレー初のグランド・アメリカン・ツーリングの伝統を今に継承するプリミティブなモデルである。一番の特徴はバットウイングフェアリングだろう。コウモリが羽を広げた形に似ていることからそう呼ばれるが、日本では通称「ヤッコカウル」として親しまれている。兄弟車のロードグライドが巨大なシャークノーズフェアリングをフレームに固定して支えているのに対し、ストリートグライドはハンドルに直接マウントすることで、よりコンパクトなシルエットを実現している。実際のところ、エンジンや車体構造はほぼ共通だが、車重はロードグライドに比べて12kg軽い368kg、シート高も5mm低い715mmとなっている。
昨年米国で開催された新型CVOシリーズの国際試乗会にも参加したが、ストリートグライドは“街乗りから楽しめるツアラー”の位置付けとハーレー側から説明があった。つまり、同じ大陸横断ツアラーでありながら、より手軽に乗り回せるモデルということだ。
ロードグライド同様、ストリートグライドも完全新設計となった。新型は水平基調のデザインが特徴で、LEDヘッドライトには特徴的なイーグルデザインが強調され、見た目が洗練されただけでなくエアロダイナミクスも大きく進化している。
排気量1923ccの「ミルウォーキーエイト117」エンジンも新たな液冷式シリンダーヘッドの採用によりライダーに当たる熱を低減しつつ性能も向上。最高出力で3%、最大トルクで4%アップの107ps/5050rpm、175Nm/3500rpmとへと強化されている。また、リアサスペンションのトラベル量を3インチ増やし、新設計の前後一体型シートの採用で快適性を向上させている。
電子制御も4種類のライディングモード(ロード、スポーツ、レイン、カスタム)に対応して出力特性やエンジンブレーキ、コーナリングABS(C-ABS)&トラコン(C-TCS)を最適化する最新の安全強化パッケージを投入。タッチスクリーン式の12.3 インチ TFT ディスプレイを通じて操作可能なインフォテイメントや、走行中でもクリアなサウンドを楽しめる新型4チャンネル200Wアンプの採用など、基本装備はロードグライドと共通だ。なお、価格についても同様に従来モデルから据え置きの369万3800円に設定されている。
まず見た目がハーレーしている。1969年製に初めてバットウイングフェアリングが採用されたエレクトラ・グライドを彷彿させるシルエットがハーレーを象徴している。数あるツーリングファミリーの中でも最もスタンダードな立ち位置にあるのが、このストリートグライドだろう。
シートの低さはハーレーならではで、車体の重さを足着きの良さでカバーできるのが強み。ハンドルも腕を伸ばした自然な位置にある。ちなみにロードグライドに比べるとグリップの位置は格段に低くて近い、正直なところ取り回しはこちらのほうが楽だ。
排気量1923ccの「ミルウォーキーエイト117」エンジンは迫力ある排気音と脈動するトルクが力強く味わい深い。それでいてバランサー内蔵で回転も極めてスムーズ。どっしりとしていて乗り心地は柔らかく、平らな路面を滑っていくような走りが気持ちいい。
ロードグライド同様、低速でのハンドルの切れ込みが少なくなりUターンなどの小回りでも安定感が増した。コーナリングも速度域に関係なく素直でクセがない。そして思いのほか軽快でスポーティだ。その名のとおり市街地(ストリート)でもそつなく乗り回せる感じ。米国の白バイにもこのタイプが多いのも頷ける。
コックピットも一新され、新しくなった大型ワイドのフルカラーTFTディスプレイの美しい画面や、高性能スピーカーから流れるクリアなサウンドを聞きながら街を流すだけで贅沢な気分になれる。また、これらを使いこなすためのスイッチ類のデザインも現代的で操作もしやすかった。
今回は街乗りメインだったが、やはりこのセグメントでは圧倒的な本物感がある。究極の高速クルーズ性能で言えばロードグライドに分があるだろうが、日本国内でのツーリングであれば高速道路を使ったロングランであっても遜色ないと思う。むしろ、手軽さや取り回しの良さではストリートグライドのメリットが光るだろう。
ハーレーの中でも大きく立派なツーリングファミリーはついつい見た目の雰囲気に圧倒されがちだが、乗ってみるととても素直で扱いやすい。ストリートグライドはその代表格と言っていいだろう。
空冷45度VツインOHV4バルブ排気量1,923ccのミルウォーキーエイト117。シリンダーヘッドの一部を水冷化し、エンジンの冷却効率を高めるとともに出力とトルクを向上させた改良型が搭載されている。
前後ディスクブレーキはフロントがダブル、リアがシングルで各々に4ポットキャリパーを装備するなど車重に負けない十分な制動力を確保。フロントフォークはフルカバードの正立タイプ。キャストホイールの切削加工が美しい。
サイドバッグを取り外すと左右のツインショックが現れる。従来モデルよりストロークが増して乗り心地も向上している。手で回して調整できる油圧プリロード調整を装備。足まわりの構造はロードグライドと共通だ。
ロードグライド同様、前後一体式のダブルシートを採用。腰部分がサポートされる形状でどっしり座れて快適だが、座り心地は割としっかりしている。715mmとロードグライドより5mm低いが違いは分からないレベル。
長距離でも楽なフットボードタイプのステップを採用。シフトペダル操作にはストローク感はあるがギアは正確に入る。ステップ位置は自然な位置にあり、車体をバンクさせても簡単には擦らないクリアランスがある。
ストリートグライドを象徴するバットウイングフェアリングは形状もよりシャープに洗練された。DRL一体型のウインカーを埋め込んだフルLEDシグニチャーライトを採用するなど現代的にアップグレードされている。
左右に振り分けられたLEDテールランプ&ブレーキランプの中にウインカーが埋め込まれたデザイン。サイドバッグも車体との一体感があるデザインで張り出しも少なくコンパクトだ。リアまわりはロードグライドと共通の仕様。
右手側にはメイン&イグニッション、ハザード、ライドモード切り替え、オーディオコントロール用などのスイッチを配置。ライドモードはウインカースイッチと共用になっていてアクセスしやすい。
左手側にはメニューボタンとインフォテインメント&ナビゲーション用のコントローラー、クルコンなどのスイッチを配置。慣れれば直感的に操作できる。ホーンスイッチがウインカーと共用になっている。
ダッシュボードには12.3インチTFTカラータッチスクリーンを装備。モードにより3種類の表示パターンを選択できる。Skyline OSによる様々なインフォテイメント体験が可能で、スマホと接続して鮮明なナビ画面も映し出せる。
フェアリング内側はTFTディスプレイを中心に両サイドに高性能スピーカーを配置。その外側にバックミラーがフローティングマウントされるお洒落なデザイン。スクリーン下には調整可能なエアベーンがあり、空気の流れを調整して快適性を高めている。
共通のエンジンと車体を持つロードグライド(左)とストリートグライド(右)。カウルのデザインとマウント方法、ハンドルポジションによって、見た目だけでなく走りにもそれぞれ独自の個性が表現されている。
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