2017年に登場したロードキングスペシャルは、ロードキングのスタンダードモデルをベースに各部のグロスブラック化、ミニエイプハンドルの採用、前後ホイールのインチアップ、そしてミルウォーキーエイト107(1745cc)で武装したものだった。その強烈なトルクと攻撃的なポジションは”乗る者を選ぶ”とさえも揶揄されることもあったが、裏を返せば、攻めて楽しいツーリングファミリーの一翼を担う新しいモデルとしてファンを輩出した。そのロードキングスペシャルに、新たにミルウォーキーエイト114(1868cc)エンジンが搭載されたのである。
地球環境問題への対応策として、世界中のバイク業界において推し進められている、サスティナブルな取り組みの一環としてライブワイヤーのようなEVモデルに注目を浴びているハーレー。その一方で、やはり王道的なスタイルであるツーリングファミリーの存在感は、今なお濃いものがある。
今回試乗テストを行ったロードキングスペシャルは、その中でも独特な立ち位置となっている。というのも、クラシカルなキング・オブ・ハイウェイとして古くから親しまれているロードキングをベースに、昨今のブームとも言えるストリートライクなカスタマイズが施されたものであり、その結果ツーリングファミリーにおいて唯一風防を持たないスタイルとされているのだ。これは”あくまでベースはロードキングだが別物”であるということの表れでもあり、走らせればその差は歴然と伝わってくるものだ。ストリートに映えるナローなスタイリングを纏ったロードキングスペシャルは、どこから見てもスタイリッシュであり、どこからカスタマイズしようかと悩ませるほどセクシーなのである。
グロスブラック化された大きなヘッドライトナセルからタンク、テールにかけて流麗に続く美しいボディラインに目を奪われるが、なんと言っても2019年モデルでの大きなポイントとなっているのは搭載エンジンの排気量アップだ。実際のところこれまで搭載されていた107ci(1745cc)エンジンでも余裕を持った動力性能を誇るものだったのだが、さらに大きなミルウォーキーエイト114(1868cc)エンジンを得たことで、その走りはどのように変わったのかが試乗テストの焦点となる。
車体を起こして跨る。スペックシートで明記されているシート高は695mmと低めの数値であるものの、車体幅が影響し、足つき良好とまでは言えない。とはいうものの低重心であり、その結果372kgという車重を感じさせないほど取り回しも楽で扱いやすい。
エンジンを始動するとビッグVツインエンジンの小気味良い振動が全身に伝わってくる。思わずコレだよコレコレ、と頬が緩んでしまうが、いざ走り出してスロットルをひねると、振り落とされそうになるほどの強烈なトルクに笑ってもいられなくなる。1気筒あたり900cc以上の排気量なのだから当然と言えば当然なのだ。だからスローなペースでクルーズを楽しむとき以外は、腕を伸ばしてエイプハンドルを握り、のけぞるようなライディングスタイルはお薦めできない。むしろハンドルの間に顔を突っ込む程に前傾した姿勢で操れば、この上ないスポーツ走行を楽しむことができるのだ。
市街地、高速道路、ワインディングなど、一通りのルートを走り回ってきた。モアパワーを得たエンジンは、流して快適、飛ばして爽快なものであるし、フロント19インチ、リア18インチというタイヤサイズは、コーナリングのきっかけこそソフトだが、イージーに狙ったラインをトレースすることができる。サスペンションに関しては若干のゴツゴツ感が伝わってくることもあるが、400kg近い車重、そして強大なトルクを受け止めながらスポーツ走行を楽しむことができるセッティングであり、それを踏まえて点数をつけるとなるとほぼ満点と言えよう。
私の場合はノーマルの状態で心底楽しめたが、ロードキングスペシャルオーナーになったら、カスタマイズを楽しみたいというオーナーも少なくないだろう。走りの部分に関しては手を加えなくとも良いと思う。強いて挙げるならライディングポジションをライダーの体格に合わせたり、ロングツーリングを快適にするならば、小さくともスクリーンを装着するという手もある。しかしカスタムメニューを考えるほど、ロードキングスペシャルはすでに完成しきっているバイクなのだとも感じる。
ロードキングスペシャルは極上のスポーツバイクであると断言する。そしてもしハーレー以外のメーカーが真似をしようとしても絶対に得られることのできない味を持ち合わせている一台なのだ。
130ccほど排気量が引き上げられたミルウォーキーエイト114エンジンを新たに搭載。鼓動感、滑らかさ、そしてパワーとトルク、そのすべてにおいてワンランク上の乗り味を得られるものとなった。
精悍なデザインを持ちブラックアウトされたタービンホイールもロードキングスペシャルの特徴。ベースとなるロードキングと比べ前後ともに1インチ大きくされ、フロント19インチ、リア18インチとなっている。
トリムリング付きのヘッドライトナセルはグロスブラック化されており、引き締まった印象をもたらしてくれる。オーソドックスな丸型ヘッドライトながら、近代的なスタイリングにマッチしている。
ミッションはシーソーペダルタイプ。ステップボードも標準で装備されている。スポーツ志向が強くされたとはいえ、ベースとなっているロードキング譲りの快適なクルージング性能も併せ持っている。
シンプルなメーターパネル。下部の液晶部がマルチファンクションとなっているのはハーレーの他モデルと共通。メーターベゼルがシルバークロームとなっていることがブラックアウトされた他のパーツとのアクセントとなっている。
幅が広く、厚手のクッションを持つ座り心地の良いシート。パッセンジャー側のシートはリアフェンダーに沿う形でストレッチされており、ロードキングスペシャル特有のシルエットとなっている。
ロードキングスペシャルのシルエットを生み出すポイントのひとつとなっているミニエイプハンドル。高さ9インチ、幅1.25インチの設定。背中をやや丸めたアグレッシブなライディングポジションは、傍から見てもなかなかカッコイイ。
ツーリングファミリー伝統のサドルバッグ。数日間程度の荷物であればスッポリと収まるうえ抜群の使いやすさを誇る。バッグがあることもありロードキングスペシャルはバガーカスタムモデルとも捉えられる。
現代ハーレーのアイデンティティとなったブレーキランプ埋め込み式ウインカー。リアフェンダーとサドルバッグの繋がりなどをみると、その美しい仕上がりに惚れ惚れさせられる。
サドルバッグ下方に低くセットされた左右二本出しマフラー。定番とも言えるオプションカスタマイズアイテムとしてスクリーミンイーグルの吸排気系パーツも用意されている。
ドライブベルトの確認窓は目立たない位置に隠されている。なお、リアサスペンションは手動にて調整が可能となっており、シチュエーションに合わせてセッティングを変更することができる。
燃料タンク容量は22.7L。クルマの流れに合わせるようなロングツーリングでは燃費が良いが、スポーティなライディングを続けたり、ストップ&ゴーを繰り返すストリートではガソリンの減りが気になる。
エンジンガードバーも他に合わせてブラックアウトされている。あまり目立たなくなったことにより、全体的にシャープな印象となっている。
左側スイッチボックスには、ライトハイ/ロー切り替え、ホーン、クルーズコントロール、裏側にメーターファンクションなどの機能スイッチが集約されている。右側スイッチボックスにはキル、セル、ハザードなどが備わる。
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