初代ファットボーイが登場したのは1990年の事で、さらにそれから6年程遡り1984年に登場したソフテイルフレームを採用した今で言うところのファクトリーカスタムモデルとして開発された。当時人気の高かったヘリテイジソフテイルをベースとし、前後16インチのディッシュホイールにはじまり、大型のヘッドライトやファットバーハンドル、ショットガンマフラーなどを纏ったスタイリングは90年代のニュージェネレーションの訪れを感じさせるものだった。
それから30年もの年月が経ち、今もなお人々から愛されるモデルとしてラインアップされているファットボーイ。ただ、時代の移り変わりとともにそのスタイリングや、キャラクターというのは変化を進めてきた。最新モデルでは、新型ソフテイルフレームにミルウォーキーエイト114エンジンを搭載し、前後18インチタイヤを採用、ライトからテールにかけてのシルエットも、よりモダンなものとなっている。
1991年に公開された映画「ターミネーター2」にて、劇中でターミネーターを演じるアーノルド・シュワルツェネッガーがファットボーイを駆り、ロサンゼルス市街でカーチェイスするシーンがある。同作品でもっとも印象に残るところであり、ここで大活躍したファットボーイは世界中で瞬く間に認知度を上げることとなる。なので古くからのバイク乗りは、ファットボーイ=ターミネーターというイメージが根付いてしまっている人も多いと思う。ただそれは30年近くも前の話だ。
登場から10年が経った2000年モデルではツインカム88Bエンジン(1450cc)が搭載され、ハイパワーかつスムーズな乗り味とされた。2007年モデルではさらに排気量を引き上げ、インジェクション化されたツインカム96Bエンジン(1584cc)と6速ミッションを採用したほか、前後ホイール径は17インチとなった。このような変貌をあえて書き記すには意味がある。それは、ファットボーイというネーミングこそ踏襲しているが、モデルチェンジすることによって、乗り味が大きく変化を遂げていったからである。もちろんそれからも、新型エンジンが発表されるたびに、エンジンは変更されたり、ファットボーイローやファットボーイSなどの派生モデルも登場していった。
そして2018年モデルで、新型ソフテイルフレームとミルウォーキーエイトエンジンを搭載した新生ファットボーイが登場することになる。ミルウォーキーエイト107エンジンを搭載するFLFBとミルウォーキーエイト114エンジンのFLFBSの2モデルが用意された。フレームとエンジン、さらにはデザインも大きく変更されたファットボーイは、まさしく新時代を感じさせるものであった。そして2020年モデルではCVOを除いて現在最大排気量となるミルウォーキーエイト114エンジンを搭載したFLFBS ファットボーイ114のみのラインナップとなった。
現行のソフテイルファミリーに総じて言えることなのだが、車両を目の前にすると、全体的にボリューミーになった印象を受ける。ファットボーイ114も2370mmを誇る全長を有しており、ゆったりとした体躯を持ち合わせている。まずスタイリングで目を惹いたのは、フロントフォークを包み込むように有機的なラインを描くヘッドライトナセルだ。シグネチャーLEDヘッドライトと相まって、以前のファットボーイとは違ったイメージだ。そして荒々しく削り出されたかのようなディッシュホイール。光の当たる角度によってギラギラと輝く足まわりは、高級感漂うものであり、所有欲を満たすのに一役買っている。
ボアストローク102×114mm、1868ccのミルウォーキーエイト114エンジンは、セルボタンをプッシュするだけでいとも簡単に目を覚ます。現代の技術がどれほど優れているかがうかがい知れる部分だ。ミルウォーキーエイト114は超トルク型エンジンだ。エンジンや各機関を暖めることを意識しながら慎重に発進する。
やや後方にプルバックされたハンドルバー、塩梅の良い位置にセットされたフットレストボードなどによって、とてもリラックスしたライディングポジションをもたらしてくれる。ストリートを颯爽とクルージングすれば、嫌なことなど忘れさせてくれる、そんな癒し効果をファットボーイ114は持っているかのようだ。
ハーレーラインアップ中、もっともワイドな160mmのフロントタイヤと240mmのリアタイヤは、コーナーリングでの立ちの強い傾向はやはり否めない。ただ、初代から16インチ、17インチと大径化されてゆき、現行モデルでは18インチとなったタイヤ径との相性は良く、曲げて行こうと意識して寝かせることができるので、ある程度のペースでワインディングを走らせることも可能だ。何よりもフロントフォークとリアサスペンションの動きが良いため、操ってやろうという気にさせてくれる。
そして強烈なパワーを持つエンジンも、ライダーをさらにアグレッシブな走りへと誘う。ゆったりとしたクルージングが快適なのはファットボーイ114では当たり前のことで、スキルに覚えのある者であれば、少々走り込んでやるかなと思ったその先に、このモデルのポテンシャルの高さを感じ取り、楽しむことができる。つまり懐の深い一台に仕上がっているのである。
実はこの部分こそ歴代のファットボーイに通じるところであり、根底となるキャラクターは残されている。だからこそ旧モデルオーナーにも最新のファットボーイ114を体感して欲しいと思う。そして2019年以前モデルの107エンジンも扱いやすくて良いものだが、ノーマルの状態で強烈なパンチを味わえる114エンジンを是非ともお薦めする。
現行モデルでは、CVOを除いてハーレーダビッドソン最大排気量である1868ccのミルウォーキーエイト114エンジンを搭載する。2000~3000回転の常用域において、強烈かつ扱いやすいトルクを得られる最新のエンジンだ。
暗い夜道も明るく照らすシグネチャーLEDヘッドライトと、独特な形状を持たされたヘッドライトナセルの組み合わせによって、モダンな印象を受けるフロントマスク。質感も良くラグジュアリーな雰囲気だ。
フロントは存在感の高いソリッドディスクホイールに160mmの極太タイヤをセット。個性的なハンドリングを持たされているが、動きの良いカートリッジフォークのおかげもあり、高い安定感をもたらしてくれる。
車体右サイドの低い位置にセットされた2本出しのショットガンマフラーは、ファットボーイモデルのアイデンティティとも言える部分。ビッグツインらしい低く、太いサウンドを奏でる。
リジッドフレームスタイルに見えるよう設計されているため、リアサスペンションはわざわざ覗き込まないと確認することはできないが、シート脇に備えられたノブで簡単にプリロード調節が可能となっている。
リアタイヤも240mmと極太な設定。一般的なバイクと比べると、コーナーリング時の立ちは強いものの、剛性の高い新型ソフテイルフレームとそこから続く三角形スイングアームによって、想像以上に旋回性能は高い。
現行ソフテイルファミリーにおいて、フレームと共に重要な役割を担っているスイングアーム。超巨体とハイパワーを受け止め、さらに強固とされたメインフレームを、しっかりと支えるための肝となるパーツであり、そのセッティングは秀逸と言える。
これまでの歴代ファットボーイを踏襲する形で、メーターは燃料タンク上に設置されている。必要最小限のインフォメーションではあるが、視認性が良いうえライディングの邪魔にならない。
燃料タンク容量は18.9Lと十分。ミルウォーキーエイト114エンジンは、スロットルをラフに開けるような走りをすると燃費が悪いが、意識的に抑えて扱えば、かなり高燃費なので、ロングツーリングなどでも給油回数を少なくすることができる。
リラックスできる位置にセットされたフットレストボード。シーソータイプでないシフトチェンジペダルが最近の主流。クラッチも軽くミッションの入りも良いので、ストレスないライディングを楽しめる。
ハンドルバーは程よく後方にセットされており、快適なクルージングをもたらす。主張の強いライザーと太いバーハンドルの組み合わせは、乗車時に良い眺めだ。
シート高は675mmとかなり低く抑えられている。ゆったりと腰を下ろしてくつろげるリビングソファのようなシートだ。着座位置は広くて厚手、前方に向かって細くシェイプされているので、乗り心地、足つきともに良い。
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