ハーレーライダーのみならず、ジャンルを問わず多くのバイク乗りから抜群の知名度、そして支持を得るのが東京浅草に本社を構えるKADOYAである。創業は1935年、来年で創業80周年を迎える同社は創業時から“革”にこだわり、戦後まだバイクが高価だったころからツナギや革ジャンなど、バイク向けのウェアを作ってきた。
同社ではバイク向けの革ジャンやツナギを作りはじめた当初から“オーダーメイド”にこだわり、その技術は今に継承されている。顧客の体のサイズに合わせて製作する「フルオーダー」とデザインや仕様も完全オリジナルで作り上げる「スペシャルオーダー」は、いまも多くのバイク乗りの憧れだ。そして、そんなオーダーメイドの技術を既製品に落とし込んだ最高級ブランドが「HEAD FACTORY」である。浅草本社の職人による“一人一着縫い”はまさに至極の革ジャン。80年の歴史が作った名品群だといえるだろう。
そして、革ジャンの良さ、KADOYAの品質をより広く知ってもらうために生まれたブランドが「K’S LEATHER」だ。長年フルオーダーをメインにしてきたKADOYAの、物作りに対するこだわりはそのままに、国内外の工場で生産。オーダーメイドや「HEAD FACTORY」に比べてリーズナブルな価格設定となっているため、はじめてのKADOYAが「K’S LEATHER」だというユーザーも多い。しかしここで、リーズナブルというと品質に疑問を持つ読者もいることだろう。だが心配は無用。1980年代に生まれた「K’S LEATHER」は先述のとおり、KADOYAの物作りへのこだわりを受け継ぎつつ、約30年もの間、進化を続けてきたブランドである。今季、さらなるバージョンアップを果たしたという「K’S LEATHER」の魅力は、単に“リーズナブル”だけでは終わらない。
約30年もの長きに渡って商品展開を行ってきた「K’S LEATHER」には、やはり長期間に渡って支持され続けるだけの理由が存在する。「KADOYA」と聞いて真っ先に思い浮かぶイメージといえば、“男っぽい革ジャン”や“こだわり抜いた製品”という硬派なイメージを挙げる人は多いだろう。確かにそれは正解だ。同社の製品の多くはバイク向けに作られており、質実剛健。流行だけのデザインはほとんどラインナップにはないといえるだろう。そしてそれはそのまま「K’S LEATHER」にも当てはまる。しかし、それでは30年間、「K’S LEATHER」は何も変わらずにきたのか? 答は、否だ。むしろ、同ブランドはバイク乗りたちに支持されるために変わり続けてきたのである。もちろん素材や品質、プロテクション性能にデザインといった維持すべきポイントは維持しつつ、時流を捉えた変化を続けてきた。そう、「変わらないための変化」こそが、「K’S LEATHER」最大の魅力だといえよう。そして、いま最も注目すべきポイントといえば、若者から中年体型の世代までという幅広いレンジで着ても絵になる造りだといえる。
かつて革ジャンといえば、厚みのある硬い革で作られた堅牢なものであり、着込むことで徐々に身体に馴染んでいくものだと、多くのバイク乗りは考えていた。実際、厚みがあって硬い革は丈夫であり、引き裂き強度や耐摩耗性にも優れ、ライディングウェアとしての適性も高い。しかし、近年ではライダーの高齢化が叫ばれ、同社の顧客にもベテランが増えてきたという。そんな顧客たちはすでに5着も6着も革ジャンを持っている。そうした人たちがまた新たに硬い革ジャンを馴染ませていくのはどうにも辛い……そして中年層に見受けられるお腹の出っ張りによるシルエットも気になってしまう。そこで誕生したのが、ソフトステア(SFT)である。
しなやかな革ジャンは最近の主流でもあり、ソフトステアの柔らかさは若いバイク乗りにも支持を受けている。※着用:VNS-3(BK/BR)
秀逸なパターンとソフトステアが持つしなやかさが、お腹の出っ張りが気になるベテランライダーのシルエットを美しく整えてくれる。※着用:VNS-PTD
FPW-EVOやFPV-EVOといった「K’S LEATHER」のなかでも代表的なデザインで人気の高いモデルに採用されているのがソフトステアとハードステアだ。後者は前述のような堅牢な革を使った従来型の革ジャン。「これぞ革ジャン!」といった作りは、今も人気が高い。対してソフトステアは、ハードステアとは革の厚さやなめし方を変えることで、しなやかな風合いとなっている。最大のポイントは着やすさにあり、はじめからすんなりと着脱することができる。このしなやかさが中年特有のメタボなウエスト回りを締まって見せる。ベテランライダーに好評の理由だ。そして、柔らかい革はファッションにうるさい若いバイク乗りをも納得させている。
ソフトステアが持つ、はじめから着込んだような革の柔らかさは近年のウエアに対するニーズにも合致する。そのため、硬い革を嫌がる若いバイク乗りもソフトステアに反応し、評価は高い。最近では2~3万円で安価な革ジャンを手に入れることができるが、やはり袖を通せばその違いは歴然、まるで異なる着心地の良さが解る。時流を捉えた変化が、「K’S LEATHER」の人気を高め続けているのだ。
そして、「K’S LEATHER」の着やすさにはもうひとつ理由がある。それがヘッドファクトリーパターン(以下、HFP)だ。ヘッドファクトリー(HEAD FACTORY)とは前述のとおり、KADOYAが長年培ってきたノウハウと技術を本社工場の職人たちの手で形にした最高峰のレザーウエアである。当然、製品の中核となるパターン(型紙)は専任のパタンナーが「HEAD FACTORY」専用に作成したものだ。このパターンを「K’S LEATHER」製品にも採用したモデルが「HFP」なのである。
「HFP」はまさにKADOYAならではのパターンであり、これまでフルオーダーや既製品で蓄積した膨大なデータをもとにしたもの。つまりこれは日本人に最も合ったパターンであり、ベテランライダーのシルエットも美しく見せる。ライディングや脱着のしやすさに関しては革ジャンに特化した最上級レベルにあるといっていいだろう。
時流に応える“進化”と、さらなる高みへ臨むための“変化”……これら2つのクリエイションによって、「K’S LEATHER」はKADOYAの変わらぬスタンダードであり続けるのである。
同じデザインと価格でありながら、革の特性が異なる「ソフトステア」と「ハードステア」。ここでは、それぞれの特徴や違いについて説明しよう。
「ステア」とは生後3~6ヶ月以内に去勢した2歳以上のオス牛の革。生後2年以上のメス牛の革である「カウ」よりも、本来は厚手で丈夫だという。しかしソフトステアではあえて柔らかく仕上げることで、はじめから着やすくてしなやか。若者の支持を得るだけでなく、中年体型でも絞れて見える革ジャンとして、幅広い層から人気を集めている。革ジャンに気楽さを求めている近年の流れをいち早く汲み取ったKADOYAならではの仕上げだといえよう。
「K’S LEATHER」に新たに採用されたヘッドファクトリーパターン(以下、HFP)とは一体どういったものなのか? ここではさらに詳しく掘り下げるべく、KADOYA本社工場でパタンナーを務める牛坂明伸さんにお話を伺う。しかし、まずはヘッドファクトリー自体について、改めて説明する必要があるだろう。
オーダーメイドの被服作りで創業し時代を経て、「K’S LEATHER」などの既製品ブランドも成功させるKADOYAであるが、今に至るまでフルオーダーは続けている。フルオーダーの製品を作るのは、職人の街浅草にある本社工場。当然、工場では長年の技術が継承されており、メイドインジャパンのヘッドファクトリーは他にはない高い品質を誇る。そんなヘッドファクトリーだが、継承されているのは技術だけではない。同社ではフルオーダーを作る際、チェックする身体ポイントが約30箇所もあり、そのデータも当然ながら蓄積されているのだ。このデータはじつに1,500以上。標準体型から太め、細め、身長など、さまざまな身体データを大量に保有しているのである。さらにKADOYAは古くからレーシングツナギも作ってきたので、一般的なジャケットとライディングジャケットの違いに関するノウハウも十分蓄積されている。
例えばオートバイに乗るときの前傾姿勢だ。腕を前に上げるのだが、実際の肩から腕の動きはじつに複雑で、腕だけが動くのではなく肩も動いている。つまり、肩の位置が変わるのだ。牛坂さんが作るパターンは、ライディング時の肩の動きを盛り込んだパターンであり、他にもライディングに適した多数のディテールが盛り込まれている。「しかし……」と、牛坂さんは言う。
「ライディングオンリーというのなら、じつは難しくありません。これまでの革ツナギのパターンを上手く活かせば良いのです。街着にしか使わないというジャケットも同様です。アパレル用の教科書にも載っていますからね。だけど、立ち姿勢でもカッコよくて、バイクに乗っていてもカッコいいというところのせめぎあいが、重要なのです」
こうして長年のデータとパタンナーの知恵とセンスによる“せめぎあい”によって生み出されたパターンが、ヘッドファクトリーオリジナルのパターンである。着やすく、動きやすい。ライディング姿勢でも肘などのプロテクターが大きくズレることはなく、安全性にも繋がる。もちろんデザインにもこだわっており、フルオーダーで培ったデータを基に、ある程度汎用性を組み込んだシルエット……若い人からメタボ体型の中年層、痩せた人までもが収まりのよいところに落とし込まれている。
そのパターンが今回、「K’S LEATHER」にも採用されているのである。
「K’S LEATHER」の品質も高いとはいえ、やはり最高級ブランドであるヘッドファクトリーに比べると、ある意味、現実的なものともいえる。だが、そこに優れたパターン、つまり「HFP」が入ることによって、着やすさやシルエットは格段に向上する。それはつまり、既製品ブランド「K’S LEATHER」のクオリティをより高めるために、ヘッドファクトリーの技術をフィードバックさせているのです。また長年技術向上を共に培って来た海外工場生産により、価格は抑えられたままという点も見逃せない。
今回「HFP」の多くは定番モデルやシンプルなモデルに採用されているので、一見しただけでは違いは分からない。しかし、「着ると目からウロコが落ちますよ」と牛坂さんも笑顔を見せる。その笑顔からは「HFP」への絶対の自信が見て取れる。
先日、KADOYAの秋冬モデルが発表された。カタログやウェブサイトを見ると、「K’S LEATHER」のラインナップには定番ウェアを中心にソフトステアの設定や「HFP」マーク、すなわちヘッドファクトリーパターン採用モデルが多いことに気づく。デザインはKADOYAならではの質実剛健なものが多いが、見た目と違い着やすく仕上り「K’S LEATHER」が進化を遂げていることが分かるだろう。ビギナーが選ぶ最初の一着、ベテランが満足出来る今こそ着たい一着。そんな「K’S LEATHER」から、最新のオススメモデルを紹介していこう。