速く走ることを求めた先に辿り着くレーシングトラックは、XR の生まれ故郷でもある。だが、かつて登場した XR と現代の XR では、レーシングマシンとロードスターと言える差があり、その立ち居地は少々異なる。では、現代の XR に走りのチューニングを施すなら、どこまで工夫を加えるべきなのか。BURN! H-D SPORTS が製作した XR1200 には、ひとつの解答が含まれているように思う。
この XR は代表である奥川 潔氏の愛車で、大改造を施すことなくどこまでスポーツ性を上げられるか追ったもの。最初はショップのデモ車兼ツーリング用として乗っていたが、最近はサーキット走行を楽しむために公道用から一歩踏み込んだ作りを持たせている。とは言え、よりスポーティに走らせるひとつの方策として、その内容は公道で楽しみたい人にとっても、興味深いものだと思う。
「スタンダードのエンジン特性は、日本の規制対応のため残念な内容になっています。乗った人ならわかると思いますが、5000rpm 以上はパワーが伴わず、惰性で回る感じになってしまう。でもエンジンが求めている本来の燃調にリセットしてあげることで、その印象は大きく変わります。インジェクションならではのリニアで緻密なレスポンスはそのままに、ハーレーらしいパンチが出ますよ」
エンジンについては、まずノーマルである程度の距離を乗ってから不満点を解消していく形がベストと言う奥川氏。エンジン特性の変更にはジッパーズのサンダーマックスを多用する。日本の道路状況に合ったオリジナルマップも用意しており、使用条件や乗り方に合わせて細かに調整を加えるため、好評のようだ。
そんな奥川氏が自分用に仕上げた XR は、下の回転からノーマルとは異なる力強さを見せ、インジェクションにしては荒々しい回転でパワーを乗せていく。一発いっぱつの爆発が強く、しかも硬質。高回転ではもう一段パワーを上乗せするから、ノーマルと比較すればかなりイメージが異なる。振動も少々多く、それが荒々しさを増幅させているが、これはスイングアームのマウント部分にひと工夫加えた影響で、エンジン自体が発生させる振動が増幅されたのではないと思う。
車体については、まずそのキビキビした動きにノーマルとの大きな違いを感じた。反応がダイレクトなのだ。例えばS字コーナーの切り返しだが、減速からコーナリングに移りそのまま反対側に切り返す連続した動きにも、乗り手の感覚にタイムラグなくついてくる。車体にピシッと1本筋が通った感じだ。ノーマルが柔らかくフラフラするという話ではなく、BURN! XR の反応スピードが向上している、というのが正確だろう。タイムを削り取る手法として、非常に有効である。
そのダイレクト感を生み出しているのは、スイングアームのラバーマウントに挿入したアルミ製カラーだ。ラバーマウントは自らがたわむことで、振動や衝撃を吸収するパーツだが、そこにカラーを挿入してたわみ量を抑え、反応をダイレクトにしている。反面振動は増え、とくにスイングアームピボット脇にあるステップへの影響は大きい。慣れもあるのだろうが、高回転まで回した際はブレーキペダルの踏み具合がわからなくなることも。ダイレクト感を得た代償だが、奥川氏にしてみれば現状はサーキット遊びに割り切っているため、不満はないと言う。
数ある XR1200 カスタムの中でも、BURN!の車両は速く走ることへの割り切りがかなり強い。ロードスターであるための要のパーツに手を加えた仕様は、フレームやエンジン本体への改造なしに楽しめる、ひとつの限界点を示している。
スポーツスターでレースに没頭していた期間が長く、思い入れも相当深い奥川氏。エンジンに限らず、足周りのセッティングもノウハウが豊富で、乗り手に合わせた絶妙なさじ加減のチューニングはファンも多い。それは、かつてレース用スポーツスターを細部までとことん突き詰め、チューニングの限界を追い求めていた経験があるからこそ、である。
「XR1200 も、やろうと思えばまだチューニングはできるけど、これ以上は大掛かりになるよね。足周りをグレードの高いものに変え、エンジンを調律してあげるだけで、走りも乗り味もかなり変わるから、これくらいでいいのではないでしょうか。ラバーマウントもストリートで乗るなら邪魔にはならないと思うし、なにより振動を逃がしてくれるから快適。飛ばすばかりが楽しみじゃないしね。スポーツスターに比べれば、XR はノーマルでも十分スポーツできるから、元気に走りたい人は楽しめるバイクだと思いますよ」