無いものを生み出す。言うのは簡単だが、それを実現する過程は試行錯誤の繰り返しだ。オーナーの意向を汲み取り、アイデアをどう形にするか。悩みつつ気づいたことにトライし結果を確認、それを繰り返す。アイデアだけではなく不屈の実行力も必要になる。大阪の TRIJYA が製作した XR1200 は、「いままでにない XR がほしい」というオーナーのリクエストを形にしたもので、そのスタートはお気に入りの PM ホイールだった。
この XR の最大の特徴は、リアに履いた240サイズのファットタイヤで、運動性を極力スポイルしないよう、リアショックのマウント位置を含め車体姿勢を吟味し、振り回せる仕様にまとめている。240サイズで運動性を維持するという相反条件を、どう融合させたのか?
「オーナーの方はとても元気に乗られるので、走って楽しい車体は必須でした。ワイドホイールカスタムはうちの得意分野ですが、その2つをどう高いレベルで融合させるか、その辺りでもっとも頭を悩ませましたね」
というのは、TRIJYA代表である岡本 佳之氏。240を超え300サイズのカスタムも数多くこなしてきた TRIJYA は、台数こそ少ないがヤマハ V-MAX などスポーツモデルでもワイドホイール仕様の製作経験を持ち、スポーツモデルへの応用は、これが初めてではない。
気になる乗り味は、さすがにノーマルのような軽快な操縦性とはいかず、車体を傾ける際にはやはり抵抗がある。しかし、ファットタイヤにありがちな立ちの強さはロー&ロングのビッグツインカスタムに比べ抑えられたもので、バンクさせる途中で車体の動きがピタッと止まってしまうようなこともない。抵抗はあるのだが、コーナーのアングルに合わせてジワリジワリとバンクを深めていくことも可能である。運動性を考えた場合、タイヤサイズは240にとどめておくというのは、ワイドホイールカスタムではひとつのセオリーなのだとか。
装着されたほとんどのパーツはこの XR 用のワンオフだが、中でも手間がかかったのはスイングアームだという。ワイドホイールをしっかり車体センターに収め、ドライブベルトのラインを出し、リアショックのマウント位置も適正なレイダウン角度を探りながら製作をした。フレーム側のリアショックマウントは位置を変えず、ショックユニットを外側に出せるように工夫。これによりショックユニットが下に向かって広がるハの字状態にならず、左右シンメトリーの適正な取付になる。荷重のかかる場所だけに、負担なく路面からの衝撃をしっかり吸収するには垂直マウントが理想。細かいところではあるが、バイクを走らせる上で必要な基本構造に関しては、手間がかかってもしっかり作り上げている。その上で、ホイールベースが長くなった分、旋回性を確保する策として、リアの車高を上げる方法をとっており、その分シート高はやや高めになっている。
車体デザインにも細かな配慮が及ぶ。その基点となるのがオーナー要望のホイールで、そのデザインに合わせクロームとブラック、そしてスリットを各所で組み合わせる。エンジンはストックだが、サンダーマックスとオリジナルのエキパイを組み合わせたバンス管をセットし、低速から元気な動きを見せていた。
なにかサンプルがあるわけでもなく、実車を目の前に手探りで試行錯誤を重ね、まとめあげた XR1200。今回は時間がなく、ワインディングまで持ち込むことができなかったが、この車体、リアタイヤでどこまで攻め込むことができるのか、とても興味がある。再度試乗チャンスがあるのなら、次回はぜひ試させてほしい。