H-Dとしては「異例」と言える高回転型エンジンである。ピックアップの鋭さもしかり。半世紀以上前に生産されたモーターサイクルの紛うことなき事実を体感した。かの時代のフラットトラックに乗り手を誘う、優しく乾いた排気音が印象深い。
前後シリンダーに配された吸排気バルブは、トランス一体のクランクケースにレイアウトされた4つのカムギアトレインにより独立制御される。当時の欧州車に匹敵するパワーを絞り出したSVの最終形にして最速の称号K。1952年にデビューしたこのピュアスポーツは、スイングアーム付き骨格、前後に配されたサスペンションによりスポーツスターの祖先と評され、同時に歴代でもっとも美しいエンジンと言われる。
1952~57年に生産されたKモデルの中でも、最強のポテンシャルを誇ったのがKHK。排気量45ci=750ccを誇るKに対し、54年よりリリースされたKH/KHKは55ci=883ccだった。56年に生産されたKHKは714台。そのうちの一台がこのマシン。製作は神戸のACE MOTORCYCLE。ビルダー徳山公俊は言った。
「リクエストは不良のレーサー。50年代のサーキットを意識したが、単なるレーサーのレプリカにはしたくなかった。“コンパクトかつシンプル”を基本に、チョッパーの要素を加味した」
製作者が掲げた指針は、見事に具現化された。ワンオフのハードテイルキットが組まれた純正フレームに搭載される55ciのホットなSVエンジン。これ以上は不可能と言えるミニマルなエクステリアは、タッパが低く小振りなこのユニットの造形を浮き彫りにした。
チョッパーとレーサー双方を深く理解した者にしか成し得ない、絶妙なさじ加減。ACE MOTORCYCLEの真骨頂と呼ぶべき一台である。