そのカスタム内容について話が及ぼうとしたとき、ビルダー……シウン クラフトワークス代表である松村 友章氏の言葉が淀んだ。
「カスタムのポイントというか、ディテールに対する思い入れって特にないんよね」
カスタムビルダーが作業に取りかかる際、まず考えるのは“完成形がどうあるべきか”“求められているもの以上のスタイルとはどんなものか”である。そのイメージに具体性が落とし込まれ、スタイルを象るために必要な作業が加わっていく。既存のパーツをボルトオンするのか、ただ付けるのではなく加工処理を施すべきなのか、ベストなパーツがなければワンオフにするのか……など、方法はいくつでも挙げられるが、それらはあくまで手段のひとつであり、作業の一部に過ぎない。アーティストとも評されるカスタムビルダーが重視するのは、フィニッシュした姿そのもの。
比べようがない経験とスキル、ビルダーごとに異なるイメージするビジョン……カスタムビルダーという人種を形成するための条件は多々あるが、一般ユーザーのカスタムとの決定的な違いは、着手段階で明確なテーマや完成形を思い描けていること。そこに優劣など存在しない、仕上がったときのカスタムバイクの完成度に、そのビルダーの歴史が投影されるのである。
「この車両の見どころは、スタイリングとペイント。特にペイントは大変やった。オーナーの要望を聞いて僕がデザインしたんやけど、それをウォールナインというペインターに依頼するにあたり、“できることとできないこと”の限界までとことん話し合って生まれた傑作」
その激しさは、打ち合わせ後にお互いがクタクタになるほどだったという。それだけに完成したデザインは納得の仕上がりで、「一生もののパリっとした一台を」というオーナーもご満悦だそう。
ビルダーを中心に、さまざまな想いが詰め込まれた珠玉の一台。それに対してディテール云々を語るのは、確かに野暮なのだろう。