100余年の歴史を従えるH-Dにはかつてカフェレーサーのスタイリングを備えたファクトリーカスタムが存在した。かのウイリーGがデザインを手掛けた唯 一 無二、1977年から2年間のみ生産された4カムユニットを搭載するXLCRだ。ご覧の一台はそのカルトモデルをイメージして製作された一台で、ベースは1981年式のXLH。カスタムバイクでありながらサーキットでのレースを前提としたポテンシャルが与えられている。
製作は横浜市南区の VEE MACHINE 。昨年の HOT ROD CUSTOM SHOW に初出展され今期の JOINTS と NEW ORDER CHOPPER SHOW にも展示されたので見覚えのあるひとも多いはず。
「コンセプトはレーサーのポテンシャルを備えたカスタムバイクです。カスタムバイクとしての美しさだけでなく走行性能も研ぎすますためにエンジンや足回りにもこだわりました」
製作した VEE MACHINE 代表の森秀樹によれば、XLHの4カムエンジンは1000ccから1200ccにホップアップし燃焼室は鏡面にポリッシュ。ポート形状もD型にアップデイトしたという。各パーツに徹底したフリクションロスを計りながら組み上げられアンドリュースのYカム、サンダージェットで武装するS&Sのショーティーで調律。鋳鉄のヘッドとシリンダーバレルには軽量化と放熱効果を狙い無数のドリルドを施した。言わずもがな足回りも信頼のおけるパフォーマンスパーツがセレクトされ入念に組み上げられている。
8月28日、サーキットデビューの舞台は富士スピードウェイで開催されるクラブマンロードレースが選ばれた。クラスはスポーツスターのみで競われるCSSCである。期待と不安を胸にグリッドに付き予選走行に挑む。しかしタイムアタック中に失速。エンジントラブルから走行不能に……かくしてひとりのビルダーとカスタムアイアンのデビュー戦は幕を閉じた。サーキットは公道では予測不能のトラブルが起こる場所。 一 筋縄ではいかないからレースは面白いのだが。
「今期最終戦の筑波ではマシンを復活させリベンジしたい」
スピードと美しさへの飽くなき挑戦。森秀樹の戦いの第2ラウンドはすでに始まっている。